「正社員に長く働いてもらうための手当だから」「定年後の再雇用だから」。待遇差の理由として、会社がよく使う説明です。令和8年10月1日から適用された改正後の同一労働同一賃金ガイドラインは、こうした説明「だけ」では足りないことを明記しています。説明書の理由欄を点検するときの目安として整理します。
前提|理由は何で説明するのか
待遇の相違の理由は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、その待遇の性質・目的に照らして適切なものに基づいて説明します。この枠組みに当てはまらない説明は、理由として通りにくくなります。
①「正社員人材の確保・定着のため」
いわゆる「正社員人材確保論」です。改正後のガイドラインは、次のように書いています。
「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」等の目的があることのみをもって直ちに当該待遇の相違が不合理ではないと当然に認められるものではない
厚生労働省のリーフレットは、待遇差が不合理かどうかは、その待遇のほかの性質・目的にも照らして判断される、と補足しています。「正社員に定着してもらうため」という説明だけで、理由の欄を終わらせることはできません。
②「定年後の再雇用だから」
ガイドラインは、有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない、としています。
定年後の再雇用であることは、「その他の事情」として考慮されえます。ただ、それだけで待遇差がすべて説明できるわけではありません。待遇ごとに、再雇用後の職務の内容や、職務の内容及び配置の変更の範囲の実態を示す必要があります。
③「将来の役割期待が違うから」
賃金の決め方が違う場合について、ガイドラインは、「将来の役割期待が異なるため」といった主観的・抽象的な説明では足りない、としています。職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の、客観的・具体的な実態に照らして説明しなければなりません。
「役割が違う」と書くなら、どの業務、どの責任、どの異動の範囲が違うのかまで書いてください。
④「パートだから」「契約社員だから」
雇用形態の違いそのものは、理由になりません。雇用形態の違いは待遇差の「結果」であって、「原因」ではないからです。「パートタイム労働者のため支給対象外」とだけ書かれた理由欄は、書き直しが必要です。
⑤「代わりに基本給を高くしている」は条件つき
賞与について、ガイドラインは次のような注を加えました。
賞与の性質・目的が短時間・有期雇用労働者にも当てはまるのに、均衡のとれた賞与を支給せず、しかもその見合いとして、労使交渉を経て基本給を高く支給しているといった事情もない場合は、賞与の相違は不合理と認められるものに当たりうる。
裏を返すと、「賞与がない代わりに基本給を高くしている」という説明は、労使交渉を経た実態があってこそ意味を持ちます。会社が一方的にそう決めただけでは、説明として弱くなります。
説明の仕方そのものも評価される
改正後のガイドラインは、次の事実も「その他の事情」に含まれ、待遇の相違が不合理と判断される方向の事情として考慮されうる、としています。
- 待遇の相違について、事業主が十分な説明を行わなかったと認められる場合
- 待遇の体系を議論するときに、短時間・有期雇用労働者の意向を十分に考慮せず、一方的に待遇を決めた場合
通らない説明を繰り返していると、それ自体が不利な事情になりえます。
通らない説明の一覧
| 説明 | ガイドラインの考え方 | 書き直しの方向 |
|---|---|---|
| 正社員人材の確保・定着のため | それのみでは、不合理でないとは当然にはいえない | 待遇のほかの性質・目的と、具体的な実態を書く |
| 定年後の再雇用だから | それのみでは、不合理でないとはいえない | 待遇ごとに、再雇用後の職務の内容・変更の範囲の実態を書く |
| 将来の役割期待が違うから | 主観的・抽象的な説明では足りない | 業務・責任・異動の範囲の具体的な違いを書く |
| パート・契約社員だから | 雇用形態は理由にならない | 待遇の目的に照らした事情を書く |
| 代わりに基本給を高くしている | 労使交渉を経た見合いなどの事情がなければ、不合理に当たりうる(賞与) | 見合いの実態と、労使交渉の経緯を書く |
「のみ」「直ちに」の読み方
①と②は、どちらも「〜のみをもって、直ちに…不合理ではないと認められるものではない」という書き方です。その事情を理由に使ってはいけない、という意味ではありません。それ「だけ」では足りず、ほかの事情と合わせて説明する必要がある、という意味です。
まとめ
- 「正社員人材の確保・定着のため」だけでは、待遇差の理由として足りない
- 「定年後の再雇用だから」も、それだけでは足りない。ただし「その他の事情」として考慮はされうる
- 「将来の役割期待が違う」といった主観的・抽象的な説明では足りない
- 雇用形態の違いそのものは理由にならない
- 十分な説明をしなかったことや、一方的に待遇を決めたことも、不利な事情になりうる
説明書の理由欄に、この記事の①〜④の言葉だけが書かれていないか、一度確かめてみてください。見つかったら、待遇の目的と具体的な実態に沿って書き直しましょう。
