令和8年10月1日から適用された改正後の同一労働同一賃金ガイドラインでは、各種手当に3項目、福利厚生に2項目が新しく加わりました。どれも近年の最高裁判決などで争われた待遇です。手当や休暇の制度を持つ会社なら、一度は照らし合わせておきたい内容です。
各種手当|13項目の原則
改正後は「第3の4 各種手当(退職手当を除く。)」に、次の13項目が並びます。
| 項目 | 原則となる考え方(要旨) | 改正 |
|---|---|---|
| (1) 役職手当 | 同一内容の役職なら同一。役職の内容に相違があれば相違に応じて | ― |
| (2) 特殊作業手当(業務の危険度又は作業環境に応じて支給) | 同一の危険度・作業環境なら同一 | ― |
| (3) 特殊勤務手当(交替制勤務等の勤務形態に応じて支給) | 同一の勤務形態なら同一 | ― |
| (4) 精皆勤手当 | 業務の内容が同一なら同一 | ― |
| (5) 時間外労働の手当 | 通常の労働者の所定労働時間を超えて同一の時間外労働をしたら、同一の割増率等 | ― |
| (6) 深夜労働・休日労働の手当 | 同一の深夜労働・休日労働なら、同一の割増率等 | ― |
| (7) 無事故手当 | 業務の内容が同一なら同一 | 新設 |
| (8) 通勤手当・出張旅費 | 同一 | ― |
| (9) 家族手当 | 相応に継続的な勤務が見込まれるなら同一 | 新設 |
| (10) 住宅手当(転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給) | 同一の転居を伴う配置の変更があるなら同一 | 新設 |
| (11) 食事手当(労働時間の途中に食事休憩がある労働者) | 同一 | ― |
| (12) 単身赴任手当 | 同一の支給要件を満たすなら同一 | ― |
| (13) 地域手当(特定の地域で働く労働者への補償) | 同一の地域で働くなら同一 | ― |
新しく加わった3つの手当
無事故手当
通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の無事故手当を支給しなければなりません。安全運転や事故防止を促すための手当なら、その目的は雇用形態で変わらないからです。トラック運転手の手当が争われたハマキョウレックス事件(最高裁 平成30年6月1日)が背景にあります。
家族手当
労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給しなければなりません。家族手当は、長く働く人の生活を支える目的で支給されることが多い手当です。長く働く見込みがあるなら、有期雇用でもその目的は当てはまる、という考え方です。背景には日本郵便(大阪)事件(最高裁 令和2年10月15日)があります。
あわせてガイドラインは、配偶者手当について、働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれる、としています。
住宅手当
転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給する住宅手当であれば、通常の労働者と同一の転居を伴う配置の変更がある短時間・有期雇用労働者には、同一の住宅手当を支給しなければなりません。
裏を返すと、転居を伴う配置の変更が正社員にだけあって、短時間・有期雇用労働者にはない場合、この原則はそのまま当てはまりません。その会社の住宅手当が何のために支給されているのかが、判断の分かれ目になります。
福利厚生|7項目の原則
改正後の「第3の5 福利厚生」は次の7項目です。
| 項目 | 原則となる考え方(要旨) | 改正 |
|---|---|---|
| (1) 福利厚生施設 | 同一の事業所で働くなら、給食施設・休憩室・更衣室の利用を同一に。利用料金・割引率等の利用条件も対象 | 改正 |
| (2) 転勤者用社宅 | 同一の支給要件を満たすなら同一の利用 | ― |
| (3) 慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給の保障 | 同一 | ― |
| (4) 病気休職 | 取得を認める。相応に継続的な勤務が見込まれるなら給与の保障も同一 | 改正 |
| (5) 夏季冬季休暇 | 同一 | 新設 |
| (6) 勤続期間に応じた法定外の休暇 | 同一の勤続期間なら同一 | ― |
| (7) 褒賞(一定の期間勤続した労働者に付与するもの) | 同一の期間勤続したなら同一 | 新設 |
福利厚生施設は「使えるか」だけでなく「条件」も
休憩室や社員食堂を使えるだけでは足りません。利用料金や割引率などの利用条件についても、第8条が適用されることが明確になりました。たとえば社員食堂の食事代を通常の労働者だけ割り引く扱いは、点検の対象になります。
病気休職
改正後の原則は次のとおりです。
- 無期雇用の短時間労働者には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認める
- 有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認める
- 通常の労働者に病気休職期間の給与を保障している場合は、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者にも、同一の給与の保障を行う
3つ目が今回加わった部分です。背景には日本郵便(東京)事件(最高裁 令和2年10月15日)があります。
夏季冬季休暇
短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければなりません。夏季冬季休暇は、心身の回復を図る目的で与えられるものと考えられています。その目的は雇用形態で変わりません。背景は日本郵便(佐賀)事件(最高裁 令和2年10月15日)です。
褒賞
一定の期間勤続した労働者に付与する褒賞であれば、通常の労働者と同一の期間勤続した短時間・有期雇用労働者にも、同一の褒賞を付与しなければなりません。「勤続10年で記念品」という制度なら、勤続10年の契約社員にも同じ記念品を、ということです。メトロコマース事件の高裁判決(東京高裁 平成31年2月20日)の判断が反映されています。
手当・福利厚生に共通する留意事項
改正後のガイドラインでは、次の点も明記されました。
- 正社員人材確保論:待遇の違いの理由に「正社員人材の確保や定着を図るため」という目的があっても、それだけで当然に不合理でないと認められるわけではない。その待遇の他の性質・目的にも照らして判断される
- 無期雇用フルタイム労働者:パートタイム・有期雇用労働法の対象ではないが、労働契約は均衡を考慮して結ぶべきもので、その際にはガイドラインの趣旨を考慮すべき。いわゆる「多様な正社員」も同じ
- 無期転換後:有期から無期に転換した後の労働条件を決めるときは、通常の労働者との間に不合理な待遇差がないかをあらかじめ点検し、ある場合は確実に解消することが求められる
「正社員に長くいてもらうための手当だから」という理由は、会社が一番使いたくなる説明です。けれども、それだけで説明を終えることはできない、とガイドラインがはっきり書いたことになります。
点検の進め方
- 通常の労働者に支給している手当と、通常の労働者が使える福利厚生を全部書き出す
- それぞれの目的を一文で書く
- その目的が、短時間・有期雇用労働者にも当てはまるかを考える
- 当てはまるのに差がある待遇は、その差の理由を具体的な言葉にできるか確かめる
4で言葉にできない待遇は、見直しの候補です。言葉にできた理由は、そのまま待遇差を説明するときの材料になります。
まとめ
- 各種手当は13項目。無事故手当・家族手当・住宅手当(転居を伴う配置の変更に応じたもの)が新しく加わった
- 福利厚生は7項目。夏季冬季休暇と褒賞が新しく加わり、福利厚生施設の利用条件と病気休職の給与保障も明確になった
- 家族手当と病気休職の給与保障は「相応に継続的な勤務が見込まれる」かどうかが基準になる
- 「正社員人材の確保・定着」という目的だけでは、待遇差の理由として足りない
- 手当や休暇ごとに目的を書き出すことが、点検の第一歩
