令和8年は、国保にとって制度変更が重なった年でした。4月に子ども・子育て支援納付金分が加わり、6月に食事代が上がり、8月に高額療養費が変わりました。さらに令和9年4月にも複数の改正が控えています。改正の全体像と、健康保険法との違いをまとめて整理します。
令和8年に実施された変更
まず、すでに実施された変更から確認します。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 4月1日 | 子ども・子育て支援納付金賦課額の新設(令和6年法律第47号) |
| 4月1日 | 賦課限度額の引上げ(合計109万円→113万円) |
| 6月1日 | 入院時食事療養費等の標準負担額の引上げ(一般1食510円→550円) |
| 8月1日 | 高額療養費制度の見直し(月額上限の引上げ、年間上限の新設) |
保険料の区分が3つから4つになり、限度額も上がりました。入院すれば食事代が上がり、高額療養費の上限も動きます。顧問先からの問い合わせが増える年です。
令和8年法律第31号の国保関係
令和8年5月29日に成立し、6月5日に公布された「健康保険法等の一部を改正する法律」には、国保に関する改正が複数含まれています。施行日ごとに整理します。
令和8年8月1日施行
高額療養費制度の考慮事項の明確化
法第57条の2第2項に、支給要件や支給額の算定にあたって考慮すべき事項として「とりわけ長期にわたつて継続的に療養を受ける者の家計に与える影響」が加えられました。
法律に書かれたのは考慮事項です。月額上限の見直しも年間上限の新設も政令事項であり、法改正の内容ではありません。報道では「法改正で年間上限が新設」と書かれることがありますが、正確ではありません。
公布後1年以内(令和9年3月施行想定)
一部保険外療養の創設
OTC医薬品(要指導医薬品または一般用医薬品)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養について、費用の一部を保険給付の対象としない仕組みです。
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量が異ならない医療用医薬品(約77成分) |
| 負担 | 薬剤費の4分の1を別途負担 |
| 位置づけ | 保険外併用療養費制度の中の新しい仕組み |
対象外とする者や療養の範囲については、厚生労働省の技術的検討会で議論が続いています。
令和9年4月1日施行
子どもの均等割保険料5割軽減の対象拡大
未就学児から高校生年代(18歳に達する日以後の最初の3月31日)まで対象が広がります。軽減対象者は約50万人から約180万人に増える見込みです。
国民健康保険組合に係る見直し
| 内容 | |
|---|---|
| 例外的な補助率 | 補助率13%の区分の組合のうち、保険料負担率が低く、積立金が多く、医療費適正化等の取組が低調な組合に12%・10%を適用 |
| 適用除外手続の簡素化 | 健康保険の適用除外について、年金機構による承認を不要とし、申出のみで足りることとする |
財政安定化基金(本体基金分)の取崩しの容認
貸付・交付の実績が想定より少なく資金が積み上がっているため、滞留資金を活用できるようにするものです。年度間の財政調整分である特例基金とは別枠です。
公布後2年以内
出産に関する給付体系の見直し
法律は成立・公布済みですが、具体的な仕組み、給付額、施行時期はいずれも未定です。今後の政令・告示によります。
背景には、出産育児一時金を増額しても出産費用がそれ以上に上昇すれば妊婦の負担が残る、という問題意識があります。
施行日が確認できていないもの
保険者の異動を原因とする資格喪失日を1日前倒しし、資格喪失の原因たる事実が発生した日を資格喪失日とする改正があります。低所得者に対する保険料軽減判定の適正化等が目的とされています。厚生労働省の施行日一覧に対応する記載がなく、施行日は確認できていません。
健康保険法との違い10項目
国保法を学ぶうえで、健康保険法との対比は欠かせません。主な違いを整理します。
| 項目 | 健康保険法 | 国民健康保険法 | |
|---|---|---|---|
| ① | 目的 | 国民の生活の安定と福祉の向上 | 社会保障及び国民保健の向上 |
| ② | 保険事故 | 業務災害以外の疾病・負傷・死亡・出産 | 疾病・負傷・出産・死亡(業務上の限定なし) |
| ③ | 被扶養者 | あり | なし(家族一人ひとりが被保険者) |
| ④ | 保険料の納付義務者 | 被保険者(事業主と折半) | 世帯主(法第76条第1項) |
| ⑤ | 一部負担金の割合 | 同じ | 同じ。ただし条例・規約で割合を減ずる仕組みがある(法第43条第1項) |
| ⑥ | 傷病手当金 | 法定給付 | 任意給付(法第58条第2項) |
| ⑦ | 移送費 | 法定給付 | 絶対的必要給付(法第54条の4) |
| ⑧ | 審査請求の対象 | 資格に関する処分も対象 | 保険給付と徴収金に関する処分のみ |
| ⑨ | 審級 | 二審制 | 一審制 |
| ⑩ | 時効 | 2年 | 2年(国民健康保険税なら5年) |
引っかかりやすい3つ
②業務上の傷病
国保法には「業務災害以外の」という限定がありません。業務上のけがや病気でも、労災保険から給付を受けられない場合には国保の給付対象になり得ます。ただし労災等から給付を受けられるときは行いません(法第56条第1項)。
⑦移送費
国保の移送費は、条文が「支給する」と定めた絶対的必要給付です。出産育児一時金や葬祭費のような「行うものとする。ただし特別の理由があるときは……」という形ではありません。相対的必要給付と混同しやすいところです。
⑧審査請求の対象
健康保険では被保険者の資格に関する処分も争えますが、国保法第91条が挙げているのは保険給付に関する処分と徴収金に関する処分だけです。資格の取得・喪失に関する処分は含まれていません。
国保という制度の性格
個々の規定を貫く考え方を、最後に整理しておきます。
適用除外に当たらなければ、全員が被保険者になります。国保は加入者を選べません。他の制度から抜けた人が流れ込む受け皿です。
その結果として、次のような特徴が生まれます。
| 特徴 | そこから導かれる仕組み |
|---|---|
| 事業主負担がない | 給付費の約半分を公費で支える |
| 年齢構成が高く所得水準が低い | 低所得者対策(軽減・減免・保険基盤安定制度) |
| 市町村単位では財政が不安定 | 都道府県単位化(平成30年度〜)、財政安定化基金 |
| 被保険者が多様 | 傷病手当金が任意給付にとどまる |
| 保険者が地方公共団体 | 条例・規約に委ねられる部分が大きい |
条文を読んでいて「なぜこうなっているのか」と思ったら、この表に戻ってみてください。たいていの規定は、受け皿としての性格から説明がつきます。
まとめ
- 令和8年は4月・6月・8月と制度変更が重なった年
- 令和8年法律第31号の国保関係は、施行日が令和8年8月1日から公布後2年以内まで分かれている
- 高額療養費の法改正は考慮事項の明確化。限度額と年間上限は政令事項
- 令和9年4月1日には、子どもの均等割軽減の拡大、国保組合の見直し、財政安定化基金の取崩しが施行される
- 出産に関する給付体系の見直しは、法律は成立済みだが中身は未定
- 健保との違いは、被扶養者の有無、納付義務者、傷病手当金の扱い、審査請求の対象が中心
顧問先から国保について尋ねられる場面は、退職者への案内が中心です。保険料の見込み、扶養家族がいる場合の任意継続との比較、傷病手当金がなくなること。この3点を押さえておけば、たいていの相談に対応できます。そのうえで、令和9年4月から子どもの均等割軽減が高校生年代まで広がることを伝えられれば、子育て世帯には有益な情報になります。
