「同一労働同一賃金」は、法律の名前ではありません。根拠になっているのは、パートタイム・有期雇用労働法の第8条と第9条です。第8条は「不合理な差」を禁じ、第9条は「差をつけること」そのものを禁じています。令和8年10月1日からは改正後の同一労働同一賃金ガイドラインが適用され、判断の考え方がより具体的になりました。
2つの条文の役割
パートタイム・有期雇用労働法の正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。パートタイム労働者と有期雇用労働者をまとめて「短時間・有期雇用労働者」と呼び、「通常の労働者」と比べて待遇を考えます。通常の労働者とは、いわゆる正社員と、期間の定めのない労働契約で働くフルタイムの労働者(無期雇用フルタイム労働者)のことです。
| 条文 | 呼び方 | 禁止していること |
|---|---|---|
| 第8条 | 均衡待遇 | 不合理と認められる待遇の相違 |
| 第9条 | 均等待遇 | 短時間・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取扱い |
「均衡」は、違いに応じてバランスをとった待遇のこと。「均等」は、同じ扱いのことです。
第8条|不合理な待遇の禁止(均衡待遇)
事業主は、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、対応する通常の労働者との待遇との間に、不合理と認められる相違を設けてはなりません。
判断に使う3つの要素
| 要素 | 中身 |
|---|---|
| ①職務の内容 | 業務の内容と、その業務に伴う責任の程度 |
| ②職務の内容及び配置の変更の範囲 | 転勤、人事異動、昇進などの有無や範囲 |
| ③その他の事情 | 職務の成果、能力、経験、労使交渉の経緯など |
3つをいつも全部使うわけではありません。条文は、このうち「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」を考慮する、と書いています。
たとえば通勤手当は、通勤にかかる費用を補うための手当です。この目的と転勤の有無は関係がありません。転勤がないことを理由にパートタイム労働者だけ通勤手当を出さない、という扱いは説明がつかないのです。
待遇ごとに判断する
判断は「基本給」「賞与」「通勤手当」のように、待遇ひとつひとつについて行います。給与の総額を比べて「全体としてはバランスが取れている」と言っても通りません。基本給の差は合理的でも、ある手当の差だけが不合理とされることは十分にあります。
ガイドラインに明記された「その他の事情」
改正後のガイドラインには、次の事実も「その他の事情」に含まれると書かれています。
- 待遇の相違について、事業主が十分な説明を行わなかったと認められる場合
- 待遇の体系を議論する際に、短時間・有期雇用労働者の意向を十分に考慮せず、一方的に待遇を決めた場合
こうした事実は、待遇の相違が不合理だと判断される方向の事情として考慮されることがあります。説明を求められたときの対応(第14条第2項)が、第8条の判断にもはね返ってくるということです。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、ガイドラインは「定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって」直ちに不合理でないと認められるものではない、としています。定年後の再雇用であることは考慮されますが、それだけで待遇差がすべて認められるわけではありません。
第9条|差別的取扱いの禁止(均等待遇)
第9条の対象は「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」です。次の2つを両方満たす人をいいます。
- 職務の内容(業務の内容と責任の程度)が通常の労働者と同一であること
- 雇用関係が終了するまでの全期間で、職務の内容と配置が、通常の労働者と同一の範囲で変更されると見込まれること
こうした人について、事業主は、短時間・有期雇用労働者であることを理由に、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて差別的取扱いをしてはなりません。第8条と違い、「その他の事情」を持ち出して差を正当化することはできません。
といっても、何もかも同じ金額にしろという規定ではありません。所定労働時間が短いことに比例した差(時間比例)や、正社員と同じ基準で能力や成果を評価した結果として生じる個人差は、差別的取扱いに当たらないとされています。
2つの条文を比べる
| 第8条(均衡待遇) | 第9条(均等待遇) | |
|---|---|---|
| 対象 | すべての短時間・有期雇用労働者 | 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者 |
| 考慮する要素 | ①職務の内容 ②変更の範囲 ③その他の事情 | ①職務の内容 ②変更の範囲(全期間)が同一かどうか |
| 待遇差 | 違いに応じた差なら認められる | 短時間・有期であることを理由とする差は認められない |
| その他の事情 | 考慮する | 考慮しない |
どちらが当てはまるかは、次の順で確認すると整理できます。
- 職務の内容は通常の労働者と同じか → 違えば第8条
- 同じなら、職務の内容と配置の変更の範囲も、全期間を通じて同じ見込みか → 違えば第8条、同じなら第9条
実務では、ほとんどが第8条の問題になります。業務が同じでも、転勤や人事異動の範囲まで同じというケースは多くありません。
待遇差の解消は正社員を下げずに
不合理な待遇差が見つかると、正社員の手当をなくして差を埋める方法が頭に浮かぶかもしれません。改正後のガイドラインは、通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく、短時間・有期雇用労働者の待遇を改善することが求められる、としています。あわせて、労使で合意しないまま通常の労働者の待遇を引き下げることは「望ましい対応とはいえない」とも書かれています。
まとめ
- 同一労働同一賃金の根拠は、パートタイム・有期雇用労働法の第8条(均衡待遇)と第9条(均等待遇)
- 第8条は、3つの要素のうち待遇の性質・目的に合うものを使い、待遇ごとに判断する
- 第9条の対象は、職務の内容と変更の範囲(全期間)がどちらも通常の労働者と同じ人。その他の事情は考慮しない
- 十分な説明をしなかったことや、一方的に待遇を決めたことも、その他の事情として考慮されうる
- 待遇差は、正社員を下げるのではなく、短時間・有期雇用労働者の待遇を上げて解消する
自社のパートタイム労働者や契約社員が第8条と第9条のどちらに当たるかを先に整理しておくと、待遇ごとの点検も、説明を求められたときの準備も進めやすくなります。
