保険料の決定に納得できない。療養費が不支給になった。そんなとき、都道府県の国民健康保険審査会に審査請求ができます。ただし、何でも争えるわけではありません。資格に関する処分は対象外ですし、国民健康保険税を採用している市町村では行き先そのものが変わります。条文に沿って整理します。
審査請求ができる処分(法第91条)
法第91条は、次の処分に不服がある者は、国民健康保険審査会に審査請求をすることができると定めています。
| 対象 | |
|---|---|
| ① | 保険給付に関する処分(被保険者証の交付の請求または返還に関する処分を含む) |
| ② | 保険料その他この法律の規定による徴収金に関する処分 |
具体的には、次のようなものが挙げられます。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 保険給付 | 療養費、出産育児一時金、葬祭費などの支給・不支給の決定 |
| 徴収金 | 保険料の賦課、徴収、減免、繰上徴収、督促、滞納処分、不正利得の徴収金 |
第2項は、この審査請求について、時効の完成猶予および更新に関しては裁判上の請求とみなすと定めています。争っている間に時効で権利が消えてしまわないようにするための規定です。
被保険者証の交付・返還がかっこ書きに入る理由
第1号のかっこ書きは、被保険者証の交付の請求または返還に関する処分を保険給付に関する処分に含めています。
交付を拒まれたり返還を求められたりすると、療養の給付が受けられなくなります。実質的に保険給付に関する処分と同じ効果を持つため、明文で含めているわけです。
なお令和6年12月2日に被保険者証は廃止されましたが、条文のかっこ書きは残っています。
資格に関する処分は対象外
ここが健康保険との大きな違いです。
健康保険では、被保険者の資格に関する処分も審査請求の対象になります。これに対し、法第91条が挙げているのは保険給付に関する処分と徴収金に関する処分だけです。資格の取得・喪失に関する処分は含まれていません。
実際、各都道府県の国民健康保険審査会の案内を見ても、審査請求ができる処分として挙げられているのは、保険給付、被保険者証の交付・返還、保険料その他の徴収金の3つです。資格に関する処分は入っていません。
| 健康保険 | 国民健康保険 | |
|---|---|---|
| 被保険者の資格 | 対象 | 対象外 |
| 標準報酬 | 対象 | 制度自体がない |
| 保険給付 | 対象 | 対象 |
| 保険料(徴収金) | 対象 | 対象 |
条文の列挙を素直に読むこと。それがこの論点の答えです。
国民健康保険税なら行き先が変わる
保険料ではなく国民健康保険税として課税している市町村の処分については、地方税法が適用されます。
この場合、処分を行った市町村に対する審査請求となり、国民健康保険審査会に審査請求をすることはできません。
| 保険料 | 国民健康保険税 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 国保法第76条 | 地方税法第703条の4 |
| 時効 | 2年 | 5年 |
| 不服申立ての行き先 | 国民健康保険審査会 | 処分を行った市町村 |
方式の選択が、被保険者の権利行使の方法にまで影響します。相談を受けたときは、まずその市町村が保険料方式か税方式かを確認してください。
国民健康保険審査会の仕組み
設置(法第92条)
国民健康保険審査会は、各都道府県に置かれます。地方自治法第202条の3による都道府県知事の附属機関で、準司法的な機能を持つ第三者機関です。
処分を行った保険者から独立した立場で、違法または不当な点がないかを審査し、裁決します。
組織(法第93条)
審査会は、次の委員各3人、計9人で組織します。
| 委員 | |
|---|---|
| ① | 被保険者を代表する委員 |
| ② | 保険者を代表する委員 |
| ③ | 公益を代表する委員 |
処分を受ける側と処分をする側を同数で置き、そこに公益代表を加える三者構成です。
診療報酬審査委員会と混同しない
国保法には、似た名前の組織がもうひとつあります。国民健康保険団体連合会に置かれる診療報酬審査委員会です。
| 国民健康保険審査会 | 診療報酬審査委員会 | |
|---|---|---|
| 条文 | 法第92条・第93条 | 法第87条 |
| 設置場所 | 各都道府県 | 国民健康保険団体連合会 |
| 役割 | 処分に対する審査請求の裁決 | 診療報酬請求書の審査 |
| 構成 | 被保険者代表・保険者代表・公益代表 各3人 | 保険医および保険薬剤師代表・保険者代表・公益代表 |
被保険者代表が入るのが審査会、保険医・保険薬剤師代表が入るのが診療報酬審査委員会です。役割を考えれば当然の違いですが、名前が似ているため入れ替えて覚えてしまいがちです。
審査請求の期間(法第99条)
期間には二重の制限がかかります。
| 期間 | |
|---|---|
| 原則 | 処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内 |
| 上限 | 3か月以内であっても、処分のあった日の翌日から起算して1年を経過したときはできない |
通知を見落として気づかないまま1年が過ぎれば、もう争えません。保険料の決定通知は、届いたらすぐ内容を確認するよう案内しておくのが安全です。
審査請求前置(法第103条)
処分の取消しの訴えは、その処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができません。
いきなり裁判所へ行くことはできず、まず審査会の判断を経る必要があります。専門的な判断が必要な分野では、行政の内部手続きで解決を図るという考え方です。
なお国保の審査会は一審制です。健康保険のように、審査官への審査請求を経て審査会へ再審査請求という二段構えではありません。
審査会にできないこと
各都道府県の案内は、審査会の限界をはっきり示しています。
- 制度そのものの良し悪しを判断することはできない
- 法令・条例に則して定められている内容が覆ることはない
- 審査会は苦情処理機関ではない
審査会が判断するのは、あくまで処分に違法または不当な点がないかどうかです。保険料が高すぎるという不満を制度として争う場ではありません。
保険料や自己負担割合に関する問い合わせは、まず決定をした保険者へ、というのが各都道府県の案内に共通する呼びかけです。
まとめ
- 審査請求の対象は、保険給付に関する処分(被保険者証の交付・返還を含む)と徴収金に関する処分(法第91条)
- 資格の取得・喪失に関する処分は対象外。健康保険との大きな違い
- 国民健康保険税の場合は地方税法が適用され、処分を行った市町村への審査請求となる
- 審査会は各都道府県に置かれ、被保険者代表・保険者代表・公益代表 各3人の計9人(法第92条・第93条)
- 診療報酬審査委員会とは別組織。構成も違う
- 審査請求は、処分を知った日の翌日から3か月以内、かつ処分の日の翌日から1年以内(法第99条)
- 処分の取消しの訴えは、裁決を経た後でなければ提起できない(法第103条)
退職した従業員から「国保の保険料が高すぎる」と相談されることがあります。制度として争えるものではありませんが、計算の前提となる所得が誤っている、軽減の判定に必要な申告がされていない、といった事実の誤りであれば話は別です。まずは決定通知の内容を保険者に確認してもらい、それでも納得できない場合に審査請求という順序になります。期間制限があることも、あわせて伝えておいてください。
