高齢者医療確保法と聞くと、75歳以上が入る後期高齢者医療制度の法律だと思う人が多いかもしれません。実際には、65〜74歳の医療費の分担や、40歳から受ける特定健診まで定めている、もっと守備範囲の広い法律です。第1条の目的と章立てを見ると、全体の地図がつかめます。
正式名称と成り立ち
正式名称は「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年法律第80号)です。略して「高齢者医療確保法」「高確法」と呼ばれます。
もともとは老人保健法という名前でした。平成18年の医療制度改革で全面的に改正され、平成20年4月から今の題名になっています。
なお、「後期高齢者医療法」という名前の法律はありません。後期高齢者医療制度は、高確法の中にある制度の一つです。
目的(第1条)
第1条は、この法律の目的を次のように定めています。
この法律は、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康診査等の実施に関する措置を講ずるとともに、高齢者の医療について、国民の共同連帯の理念等に基づき、前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整、後期高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な制度を設け、もつて国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする。
長い一文ですが、分けると4つの手段が並んでいます。
- 医療費の適正化を推進するための計画の作成
- 保険者による健康診査等の実施
- 前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整
- 後期高齢者に対する適切な医療の給付等
そして、最終的なゴールは「国民保健の向上」と「高齢者の福祉の増進」です。
章立てで見ると3つの柱
目的の1と2は、どちらも第2章「医療費適正化の推進」にまとめられています。そのため、章立てで見ると3本柱の構成です。
| 柱 | 章・条文 | 中身 |
|---|---|---|
| 医療費適正化の推進 | 第2章(第8条〜第31条) | 医療費適正化計画(6年一期)、特定健康診査・特定保健指導(40歳以上) |
| 前期高齢者の費用負担の調整 | 第3章(第32条〜第46条) | 65〜74歳の医療費を保険者間で調整する仕組み |
| 後期高齢者医療制度 | 第4章(第47条〜第138条) | 75歳以上などが加入する独立した医療保険制度 |
たとえば、40歳以上が受ける特定健診(いわゆるメタボ健診)も、この法律の第2章が根拠です。75歳になってからの話だけではありません。
前期と後期は仕組みがまったく違う
同じ「高齢者」でも、前期と後期では法律の関わり方が大きく変わります。
| 前期高齢者(第3章) | 後期高齢者(第4章) | |
|---|---|---|
| 年齢 | 65歳に達する日の属する月の翌月から、75歳に達する日の属する月まで(第32条第1項) | 75歳以上(第50条第1号) |
| 加入する医療保険 | それまでの健康保険・国民健康保険のまま | 後期高齢者医療(独立した制度) |
| 高確法の役割 | 保険者の間でお金を調整する | 制度そのものをつくり、運営する |
| 運営するところ | 各保険者 | 後期高齢者医療広域連合(第48条) |
前期高齢者は、加入する保険はそのままで、保険者どうしの「財布」だけを調整します。後期高齢者は、それまでの医療保険を抜けて、別の制度に移ります。この違いが、高確法を読むときの最初の分かれ目です。
後期高齢者医療の被保険者には、75歳以上の人のほか、65歳以上75歳未満で一定の障害の状態にあると広域連合の認定を受けた人も含まれます(第50条第2号)。
基本的理念(第2条)
第2条第1項は、次のように定めています。
国民は、自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴つて生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、高齢者の医療に要する費用を公平に負担するものとする。
主語は「高齢者」ではなく「国民」です。現役世代も、自分の健康づくりに努め、高齢者の医療費を公平に分担する当事者だと位置づけられています。
関係者の責務(第3条〜第6条)
国・地方公共団体・保険者・医療の担い手のそれぞれに、責務が定められています。
| 誰の責務か | 内容 |
|---|---|
| 国(第3条) | 医療費の適正化の取組が円滑に進み、制度運営が健全に行われるよう、必要な措置を講じる |
| 地方公共団体(第4条) | 所要の施策を実施する。医療費の適正化の取組では、都道府県が中心的な役割を果たす |
| 保険者(第5条) | 加入者の高齢期の健康保持に必要な事業を進めるよう努め、制度運営に協力しなければならない |
| 医療の担い手等(第6条) | 国・地方公共団体・保険者の措置や施策、事業に協力しなければならない |
保険者の責務は二層になっています。健康づくりの事業は「努める」、制度運営への協力は「しなければならない」です。同じ条文の中で強さが違う点に気をつけてください。
試験・実務で間違えやすいところ
- 70〜74歳の窓口負担(原則2割)は、高確法ではなく健康保険法・国民健康保険法の規定です。 高確法が定めているのは75歳以上の一部負担金です。
- 前期高齢者の年齢は「月」で区切ります。 65歳の誕生日当日からではなく、65歳に達する日の属する月の翌月からです(達する日が月の初日なら、その月から)。
- 第4章は条文数が最も多い章です(第47条〜第138条)。一方、第1条の目的は医療費適正化計画と健康診査等から書き始めています。目的条文の穴埋めでは、この順番を覚えておくと迷いません。
まとめ
- 正式名称は「高齢者の医療の確保に関する法律」。前身は老人保健法で、平成20年4月から現在の題名です。
- 章立てでは、医療費適正化の推進(第2章)、前期高齢者の費用負担の調整(第3章)、後期高齢者医療制度(第4章)の3本柱です。
- 前期高齢者は保険者間の費用調整、後期高齢者は独立した制度への加入と、仕組みが根本から違います。
- 基本的理念の主語は「国民」で、現役世代も費用を公平に負担する当事者です。
特定健診から75歳以降の医療まで、会社員が一生のうちに何度も関わる法律です。人事担当者は、従業員の年齢に応じてどの章が関係するのかを意識しておくと、説明に迷いにくくなります。
