労働安全衛生法の化学物質規制は、近年大きく転換しました。
有機則・特化則のような「個別規制」から、事業者が自らリスクを管理する「自律的管理」への移行です。この記事では、新たな化学物質規制の全体像について解説します。
なぜ転換が必要だったのか
これまでの化学物質規制は、有機則・特化則のように「国が物質ごとに具体的措置を細かく定める」方式(法令準拠型)でした。
しかし、厚生労働省の資料によれば、具体的な措置義務のかかる123物質以外の物質による労働災害が、休業4日以上の労働災害の約8割を占めていました。規制されていない物質が多すぎて守りきれない、という点が大きな課題だったのです。(出所:新たな化学物質管理~化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへ~令和4年2月 厚生労働省労働基準局 安全衛生部化学物質対策課)
新たな方向性:自律的管理
そこで、国は「管理基準(ばく露濃度基準値等)」を示し、事業者がリスクアセスメントを行い、ばく露を防ぐ措置を「自ら選んで実行する」方式へと転換しました。
法令準拠型から「自律的管理」への移行です。
対象物質の大幅拡大
ラベル表示・安全データシート(SDS)交付・リスクアセスメント(RA)の対象(リスクアセスメント対象物)が大幅に拡大されました。
- 改正前:約674物質
- 段階的に追加され、数千物質規模へ(GHS分類で危険有害性が確認された物質を順次追加)
段階施行のイメージ
- 2022年5月〜:一部先行施行
- 2023年4月/2024年4月:化学物質管理者の選任、ばく露低減措置、RAに基づく健診、SDS関連の強化等
- 2025年5月14日公布の改正:SDS交付義務違反への罰則新設等(法律本体の改正で自律的管理をさらに強化)
自律的管理を支える主な仕組み
- ラベル・SDS・リスクアセスメント対象物の拡大
- リスクアセスメントとばく露低減措置・濃度基準値
- 化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任
- RAに基づく健康診断・がん原性物質の記録
- 皮膚等障害化学物質への直接接触防止
- 管理水準良好事業場の特別則適用除外 等
詳細は今後の別記事で解説します。
むすび
新たな化学物質規制は、「国が決める」方式から「事業者が自ら管理する」自律的管理へと、大きく舵を切ったものです。
重要なのは、有機則・特化則といった個別規制と、自律的管理とが当面は「並走」する点です。
自社が扱う物質について、個別規制と自律的管理の両面から対応を整理することが求められます。
