国民健康保険法|都道府県と市町村の役割分担を解説(国保運営方針・標準保険料率)

国民健康保険法|都道府県と市町村の役割分担を解説 労働社会保険諸法令の基礎知識
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国保の保険料を決めているのは都道府県だと思っていませんか。決めているのは市町村です。都道府県が示すのはあくまで「標準」で、条例で保険料率を定めるのは市町村。平成30年度の都道府県単位化でどこまでが都道府県の仕事になったのか、条文に沿って整理します。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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都道府県と市町村の役割分担(法第4条)

国民健康保険法第4条は、国・都道府県・市町村それぞれの責務を定めています。都道府県と市町村の部分を並べると、分担の考え方が見えてきます。

条文上の役割
都道府県安定的な財政運営、市町村の国民健康保険事業の効率的な実施の確保その他の都道府県及び当該都道府県内の市町村の国民健康保険事業の健全な運営について中心的な役割を果たす(2項)
市町村被保険者の資格の取得及び喪失に関する事項、保険料(国民健康保険税を含む)の徴収、保健事業の実施その他の国民健康保険事業を適切に実施する(3項)

ざっくり言えば、お金と全体設計が都道府県、住民に接する実務が市町村です。

実際の事務で見ると、こうなります。

事務都道府県市町村
財政運営の責任主体
国保事業費納付金の決定納付する
標準保険料率の算定・通知参考にして料率を決定
保険料の賦課・徴収
資格管理(資格確認書の交付等)
保険給付の決定・支払
保健事業支援
運営方針の策定意見を述べる

特別会計と運営協議会は「両方」に置く

都道府県と市町村は、国保の収入と支出について、それぞれ特別会計を設けなければなりません(法第10条)。国保事業の運営に関する協議会も、都道府県と市町村の両方に置きます(法第11条第1項・第2項)。

都道府県の協議会が審議するのは、国保事業費納付金の徴収や運営方針の作成といった重要事項です。市町村の協議会は、保険給付や保険料の徴収などを審議します。審議する中身が分担に対応しているわけです。

お金の流れは2本の矢印で理解する

改革後の国保財政は、都道府県と市町村の間を2つのお金が行き来します。

お金の名前向き条文
国民健康保険事業費納付金市町村 → 都道府県法第75条の7
国民健康保険保険給付費等交付金都道府県 → 市町村法第75条の2

市町村は保険料を集めて納付金を都道府県に納めます。そして給付に必要な費用は、交付金として都道府県から受け取ります。

この仕組みの意味は大きいです。改革前は、小さな市町村で高額な医療費が1件発生すると、翌年の保険料が跳ね上がることがありました。今は都道府県全体でリスクを引き受けるので、単独の市町村が医療費の変動をまともに被る形ではなくなりました。

都道府県国民健康保険運営方針(法第82条の2)

都道府県は、おおむね6年ごとに国保運営方針を定めます。この6年は、都道府県医療費適正化計画や医療計画の法定期間に合わせたものです。法第82条の2第5項でも、運営方針は都道府県医療費適正化計画との整合性の確保が図られたものでなければならないとされています。

必ず定める6項目

必須記載事項
国民健康保険の医療に要する費用及び財政の見通し
市町村における保険料の標準的な算定方法及びその水準の平準化に関する事項
市町村における保険料の徴収の適正な実施に関する事項
市町村における保険給付の適正な実施に関する事項
医療費適正化の推進のために必要と認める事項
市町村の国保事業の広域的及び効率的な運営の推進に関する事項

②のうち「その水準の平準化に関する事項」は令和3年改正法(令和3年法律第66号)、⑥は令和5年改正法(令和5年法律第31号)で追加され、どちらも令和6年4月から必須記載事項になりました。保険料の統一を進めるという政策方向が、条文にそのまま表れています。

このほか、保健医療サービス・福祉サービス等との連携に関する事項なども、おおむね定めるものとされています(3項)。

手続きは義務と努力義務が入り混じる

条文を読むときに気をつけたいのが、項ごとに義務の強さが違うことです。

手続き条文義務の強さ
市町村への意見聴取7項聴かなければならない
方針の公表8項努めるものとする
市町村が方針を踏まえて事務を実施9項努めるものとする
おおむね3年ごとの分析・評価6項努めるものとする
必要があると認めるときの変更6項変更するものとする

はっきりした義務は、市町村への意見聴取だけです。もっとも、意見を聴かなければならないとはいえ、市町村の同意までは要りません。厚生労働省の策定要領も、同意は必要ないが、できる限り市町村の意見を尊重するものとする、という整理をしています。

標準保険料率は2種類ある(法第82条の3)

都道府県は毎年度、2つの標準保険料率を算定します。

何を表すか使い道
市町村標準保険料率都道府県内の市町村ごとの標準的な水準県内市町村の間の負担の見える化
都道府県標準保険料率全国一律の算定方式による県全体の標準的な水準都道府県の間の比較

名前が似ていますが、役割が違います。市町村標準保険料率は県内比較用、都道府県標準保険料率は都道府県間の比較用です。

算定したら市町村に通知します(3項)。公表は努力義務です(4項)。

大事なのは、これが参考値だという点です。実際の保険料率は、政令で定める基準に従って市町村が条例で定めます(法第81条)。都道府県が示した率どおりにしなければならない、という規定はどこにもありません。

保険料水準の統一はどこまで進んでいるか

同じ都道府県に住み、同じ所得、同じ世帯構成なら、保険料も同じであるべきではないか。この考え方から進んでいるのが、保険料水準の統一です。

厚生労働省は令和5年10月に「保険料水準統一加速化プラン」を策定し、令和6年6月に第2版へ改定しました。第2版が示すスケジュールは次のとおりです。

段階期限
目標年度の意思決定(未設定の都道府県)令和8年
納付金ベースの統一令和11年度(令和12年度保険料算定)まで
完全統一への移行次期運営方針期間の中間年度=令和15年度まで
完全統一の最終期限令和17年度(令和18年度保険料算定)まで

統一には2つの型があります。

内容何が揃うか
納付金ベースの統一各市町村の納付金に医療費水準を反映させない(医療費指数反映係数α=0)納付金の算定方法
完全統一同一都道府県内で同じ所得水準・同じ世帯構成なら同じ保険料実際に払う保険料

完全統一を達成していれば、納付金ベースの統一も達成していることになります。完全統一に進むには、市町村ごとの歳入・歳出項目の扱いをどうするか、標準的な収納率でどう調整するか、保険料の算定方式(2方式・3方式・4方式)をどれに揃えるかまで決めなければなりません。ハードルは相当に高いといえます。

なお現行の運営方針で目標年度を定めていない都道府県は、令和8年までに意思決定できるよう取組を進めることとされています。ちょうど今が、その期限の年に当たります。

まとめ

  • 都道府県は財政運営と全体設計、市町村は資格管理・保険料徴収・給付・保健事業(法第4条)
  • 特別会計も運営協議会も、都道府県と市町村の両方に置く(法第10条・第11条)
  • 市町村は納付金を納め、都道府県から保険給付費等交付金を受け取る(法第75条の7・第75条の2)
  • 運営方針はおおむね6年ごと。市町村への意見聴取だけが明確な義務で、公表や分析・評価は努力義務(法第82条の2)
  • 標準保険料率は参考値。実際の保険料率を条例で定めるのは市町村(法第82条の3・第81条)

事業主の立場では、従業員の住所地によって国保の保険料が変わるという事実を知っておくと役に立ちます。今は市町村ごとに差がありますが、統一が進めば県内では差がなくなっていきます。退職予定者から「国保だといくらになるのか」と聞かれたときは、お住まいの市町村の窓口で試算してもらうよう案内するのが確実です。

参考資料