本記事投稿時点で残り1か月を切りました。指針はすでに告示され、やるべきことは出そろっています。何から手をつけるか。日数がかかるものから逆算すると、答えは決まります。
※以下の労働施策総合推進法と男女雇用機会均等法の条番号は、令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。
最優先は就業規則の改定
理由は単純です。手続に日数がかかるからです。
| 工程 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 案の作成 | 服務規律、懲戒事由、不利益取扱い禁止の条文化 | ― |
| 意見聴取 | 過半数労働組合または過半数代表者の意見書 | 労基法第90条第1項 |
| 届出 | 意見書を添付して所轄労働基準監督署へ | 労基法第89条、第90条第2項 |
| 周知 | 掲示、備付け、書面交付、電子的方法のいずれか | 労基法第106条第1項 |
過半数代表者を選ぶところから始めるなら、投票や挙手といった民主的な方法が必要です。ここから逆算すると、余裕はありません。
なお、届出義務があるのは常時10人以上の労働者を使用する事業場です。10人未満なら届出は不要ですが、指針が求める「規定し、周知・啓発する」ことは規模を問いません。
何を書き加えるのか
4つあります。
① 服務規律:求職者等に対する性的な言動の禁止
告示第52号4⑴イが求めるものです。「求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針」を規定します。
② 懲戒事由:求職者等セクハラを懲戒の対象に
告示第52号4⑴ロです。ここは書き方が2通りあります。
新しく懲戒規定を定めるか、いまの懲戒規定の適用対象になる旨を明確化するか。既存の規定で拾えるなら、後者で足ります。
自社の規程を開いて確認してください。「他の従業員に対するセクシュアルハラスメント」と書かれていれば、求職者は拾えません。改定が必要です。
③ 不利益取扱い禁止
カスハラと求職者等セクハラの相談等を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしない旨です。告示第51号4⑸ロと告示第52号4⑷ロが根拠になります。
ここは就業規則でなくても構いません。指針は社内報やパンフレットへの記載も例として挙げています。ただ、就業規則に書くほうが確実でしょう。
④ 服務規律:他社の労働者に対するカスハラの禁止
これは義務ではありません。告示第51号6⑷の「望ましい」取組です。自社の社員が加害側にならないための規定になります。
既存条項の点検を先に
いま「パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と限定列挙している会社は、2類型を足す改定が必要です。
書き方には2通りあります。
| 方式 | 内容 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 対象拡張型 | 既存のセクハラ条項の対象に「求職者等」を加える | 条数を増やしたくない。既存条項が包括的 |
| 独立条文型 | 求職者等セクハラの条文を新設する | 面談ルール等も規程に書き込みたい |
対象拡張型は改定量が少なくて済みます。ただし社員が「対象が広がった」と気づきにくい。研修や通達で補強してください。
就業規則には書けないもの
指針が求める措置のうち、規程になじまないものもあります。
| 内容 | 落とし込む先 |
|---|---|
| その場の対処手順(報告先、録音の基準、対応終了の目安) | 現場対応マニュアル |
| 悪質事案の決裁ルート | 社内規程または決裁権限規程 |
| 面談時間、場所、実施体制、SNSの指定 | 採用業務マニュアル、社内通達 |
| 相談受付票、対応記録票 | 様式集 |
| 求職者等向けの留意事項 | 採用サイト、オリエンテーション資料 |
就業規則には「詳細は別に定める」と書いて委任しておくと、運用を変えるたびに規程改定をしなくて済みます。
周知先を取り違えないこと
ここが実務でいちばん事故が起きます。措置ごとに周知する相手が違うからです。
| 措置 | 周知先 |
|---|---|
| カスハラの方針・対処の内容 | 管理監督者を含む労働者 |
| カスハラのプライバシー保護 | 労働者 |
| カスハラの不利益取扱い禁止 | 労働者 |
| 求職者等セクハラの方針・懲戒・面談ルール | 労働者及び求職者等 |
| 求職者等セクハラの相談窓口 | 求職者等 |
| 求職者等セクハラのプライバシー保護 | 労働者及び求職者等 |
| 求職者等セクハラの不利益取扱い禁止 | 労働者 |
求職者等への周知が漏れると、措置を講じたことになりません。
求職者等への導線
どこに載せるか。候補はこのあたりです。
- 採用サイトに「面談等に関する留意事項」のページを設ける
- 募集要項に相談窓口を記載する
- 応募受付時の自動返信メールに入れる
- 説明会の冒頭スライドで表示する
- インターンシップや実習のオリエンテーション資料に含める
社内イントラネットだけの掲示では、求職者に届きません。既存の窓口を流用する会社ほど、ここが抜けます。
研修は対象別に
一律の研修では効率が悪くなります。必要な内容が部門によって違うからです。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 全社員 | 5類型の概要、相談窓口、不利益取扱いの禁止 |
| 管理監督者 | カスハラの現場判断、あらかじめ定めた対処の内容 |
| 採用担当・面接官 | 求職者等セクハラ、面談ルール、質問のNGリスト |
| 実習・インターン受入部門 | 求職者等セクハラ、職場環境の点検 |
| 購買・営業 | 他社の労働者に対する加害防止 |
最後の行を忘れないでください。法第34条第2項の責務は努力義務ですが、自社が加害側になる場面への備えです。カスハラ対策を「守る側」の話だけで終わらせると、ここが抜け落ちます。
いま確認しておくこと
施行までに、次の3点を確認してください。
求職者等の範囲を定める厚生労働省令。法第13条第1項が省令に委任しています。具体的な範囲は省令で決まります。
改正後の条番号。施行日以後、e-Gov法令検索の表示が変わります。規程に条番号を引用している会社は、施行後に表記を確認する必要があります。
えるぼし関係。プラチナえるぼしの認定基準に、求職者等セクハラ措置の情報公表が加わります。こちらも令和8年10月1日からです。認定を受けている会社、申請予定の会社は対応が必要になります。
10月1日は開始日です
最後にお伝えしたいことがあります。
指針は、労働者や労働組合等の参画を得ながら運用状況を把握し、必要な見直しを検討することを求めています(告示第51号6⑵)。
完成させてから始めるのではありません。始めてから直していく前提で設計されています。
施行後に注意してほしいのが、相談件数です。ゼロだった場合、被害がないとは限りません。窓口が知られていないか、相談しにくい設計になっている可能性があります。周知が届いているかを確かめる仕組みを、あわせて用意しておいてください。
それから、ゼロから作る必要はありません。パワハラの措置義務は令和2年6月から(中小企業は令和4年4月から)始まっています。そのときに作った方針、窓口、マニュアル、研修は、大部分がそのまま使えます。
足りないものを見極めて、そこだけ足す。それが現実的な進め方でしょう。
まとめ
- 最優先は就業規則の改定です。意見聴取と届出に日数がかかります
- 求職者等セクハラの懲戒規定は、既存規定の適用対象である旨の明確化でも足ります
- 「他の従業員に対する」と書かれている規程は、そのままでは求職者を拾えません
- 対処手順や面談ルールは、就業規則ではなくマニュアルや通達で定めます
- 周知先は措置ごとに違います。求職者等への導線を必ず用意してください
- 研修は対象別に。購買・営業向けの加害防止研修が抜けやすい部分です
- 10月1日は完成日ではなく開始日です。運用しながら見直す前提で設計してください
まずは自社の就業規則のハラスメント条項を確認しましょう。
