相談窓口を、誰に知らせるのか。求職者等セクハラでは、答えが逆になります。守る相手が社外にいるからです。そして指針は、人事担当者以外を窓口にすることも考えられる、と書いています。理由を含めて整理します。
※以下の条番号は、令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。
窓口は「求職者等に」周知します
指針4⑵イはこう定めています。
相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知すること。
カスハラでは、窓口を知らせる相手は自社の労働者でした。被害を受けるのが社員だからです。
求職者等セクハラは逆です。被害を受けるのは社外の学生や求職者。その人たちに窓口を知らせなければ、制度は動きません。
窓口を定めた例として挙げられているのは3つです。
- 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
- 相談に対応するための制度を設けること
- 外部の機関に相談への対応を委託すること
求職者等に周知した例は、パンフレット、ホームページ等によって周知することです。
既存窓口を使うなら確認すること
すでにハラスメント相談窓口がある会社は、それを使えます。ただし確認が必要です。
社内イントラネットにだけ掲載していませんか。それでは求職者は到達できません。
採用サイト、募集要項、インターンシップのオリエンテーション資料。社外から見える場所に載せる必要があります。
人事担当者以外を窓口に
指針4⑵イには、見過ごせないなお書きがあります。
なお、求職者等は人事担当者への相談をためらうことも想定されることから、相談窓口の担当者として人事担当者以外の者を指定することも考えられる。
構造を考えれば当然でしょう。
採用選考中の学生にとって、人事部門は合否を決める相手です。そこに「面接官から不適切な質問を受けました」と言えるでしょうか。言えば選考に響くと考えるのが普通です。
選択肢を整理します。
| 窓口 | 利点 | 課題 |
|---|---|---|
| 人事部門 | 事実確認や懲戒に直結する | 合否を握る部門であり、相談をためらわせる |
| 人事以外の内部部門 | 心理的な壁が下がる | 事後対応への引継ぎ設計が必要 |
| 外部委託 | 中立性が高い | 社内への引継ぎ基準を契約で決める必要がある |
唯一の相談先が人事部門という状態は、事実上「相談できない」のと変わりません。実質を考えて設計してください。
担当者が動ける状態にする
指針4⑵ロは、担当者が内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることを求めています。
例として挙げられているのは、担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること、あらかじめ作成したマニュアルに基づき対応すること、担当者に研修を行うことの3つです。
ロには、もうひとつ重要な内容が入っています。
被害を受けた求職者等が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況やその言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、次のいずれの場合でも広く相談に対応し、適切な対応を行うこと。
- 現実に生じている場合
- その発生のおそれがある場合
- 該当するか否か微妙な場合
例として、放置すれば求職活動等を阻害するおそれがある場合と、性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景となってセクハラが生じるおそれがある場合が挙げられています。
窓口で該当性を判定してはいけません。この点はカスハラと同じです。
事後対応は4段構え
指針4⑶は、相談の申出があった場合の対応を定めています。
| 段 | 内容 | 発動する場面 |
|---|---|---|
| イ | 事実関係を迅速かつ正確に確認する | 相談の申出があったとき |
| ロ | 被害者に対する配慮のための措置 | 事実が確認できたとき |
| ハ | 行為者に対する措置 | 事実が確認できたとき |
| ニ | 再発防止に向けた措置 | 確認できたときも、できなかったときも |
カスハラは3段でした。イ、ロ、ニの3つです。行為者が社外なので、行為者への措置がなかったからです。
ここには入っています。行為者が自社の社員だからです。
イ:事実関係の確認
認められる例は2つです。
ひとつ目。相談窓口の担当者、人事部門または専門の委員会等が、相談者及び行為者とされる者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。
カスハラでは「必要かつ可能な場合には行為者からも聴取することも考えられる」でした。行為者が社外にいて、連絡先すら分からないことがあるからです。
こちらは違います。行為者は自社の社員ですから、双方から聞けます。
ふたつ目。事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第24条(改正後。現行の調停の委任である第18条に相当します)に基づく調停の申請を行うこと、その他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。
ロ:被害者への配慮
事実が確認できた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行います。
例として、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者を引き離すための対応、行為者の謝罪、人事担当者による被害者への相談対応等の措置を講ずることが挙げられています。
ハ:行為者への措置
事実が確認できた場合、行為者に対する措置も適正に行います。
例は2つです。
- 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における求職者等セクハラに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者を引き離すための対応、行為者の謝罪等の措置を講ずること
- 法第24条に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること
「規定等に基づき」とあります。前回扱った⑴ロ(懲戒規定の整備)と対になっています。規程がなければ、ここで動けません。
ニ:再発防止
改めて方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じます。
そして、こちらにも同じ一文があります。
なお、求職者等セクハラが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。
併せて講ずべき措置
指針4⑷は2つあります。
イはプライバシーの保護です。相談者・行為者等の情報はプライバシーに属するため、必要な措置を講じ、その旨を労働者及び求職者等に周知します。
ロは不利益取扱いの禁止です。法第13条第2項、第23条第2項、第24条第2項を踏まえ、次の行為を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発します。
- 事実関係の確認等の措置に協力したこと
- 都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め、調停の申請を行ったこと
- 調停の出頭の求めに応じたこと
カスハラとの違い
カスハラの不利益取扱い禁止には「相談をしたこと」が含まれていました。こちらには入っていません。
相談する主体が求職者等だからです。求職者は労働者ではないので、解雇その他の不利益取扱いという概念が成り立ちません。
保護されるのは、調査に協力した自社の社員です。周知先が「労働者に」となっているのも同じ理由です。
3つの措置で周知先がすべて違うので、整理しておきます。
| 措置 | 周知先 |
|---|---|
| ⑴方針・懲戒・ルール | 労働者及び求職者等 |
| ⑵相談窓口 | 求職者等 |
| ⑷イ プライバシー保護 | 労働者及び求職者等 |
| ⑷ロ 不利益取扱いの禁止 | 労働者 |
望ましい取組(指針5・6)
指針5は、セクハラに関する望ましい取組です。
⑴は教育機関との連携です。求職活動等を行う大学生や専門学校生が所属する教育機関が設置する相談窓口の担当者等から、相談に関する情報提供があった場合には、連携し、適切な対応を行うことが望ましいとされています。
学生が最初に相談する先は、企業ではなく大学のキャリアセンターであることが多いはずです。この経路が通じていれば、企業が知らないまま事案が広がることを防げます。インターンシップや実習で協定を結んでいる教育機関があるなら、連絡窓口を決めておくとよいでしょう。
⑵は、顧客等による求職活動等におけるセクハラに類する相談があった場合の対応です。
指針6は、セクハラ以外のハラスメントに関する取組です。
⑴は、求職活動等におけるパワハラ、妊娠・出産等に関するハラスメント、育児休業等に関するハラスメントに類する行為について、同様の方針を併せて示すことが望ましいというものです。
あわせて、パワハラ指針を踏まえて次の行為への対応も望ましいとされています。
- 求職者等の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動
- 求職者等の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、了解を得ずに他の者に暴露すること、開示することを強要すること、または禁止すること
⑵は、顧客等による求職活動等におけるカスハラに類する相談があった場合の対応です。
まとめ
- 相談窓口を周知する相手は求職者等です。カスハラとは逆になります
- 求職者等は人事担当者への相談をためらうため、人事以外の者を窓口にすることも考えられます
- 事後対応は4段構え。カスハラにはなかった「行為者に対する措置」が加わります
- 事実確認は相談者と行為者の双方から行います
- 行為者への措置は、就業規則等の規定に基づいて行います
- 不利益取扱いの禁止で守られるのは、調査に協力した自社の労働者です
- 教育機関からの情報提供があった場合の連携が、望ましい取組とされています
方針、窓口、不利益取扱いの禁止。それぞれ周知先が少しずつ違いますので、整理して制度設計しましょう。
