指針が挙げる典型例は6つ。そのうち3つがインターンシップです。採用面接は1例しかありません。どこにリスクがあると考えられているのか、例の並びがそのまま答えになっています。
※以下の条番号は、令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。
「性的な言動」の定義は既存のものと同じ
指針2⑷は、性的な言動を「性的な内容の発言及び性的な行動」と定めています。
| 区分 | 含まれるもの |
|---|---|
| 性的な内容の発言 | 性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等 |
| 性的な行動 | 性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等 |
これは職場のセクハラ指針(平成18年厚生労働省告示第615号)の定義と同じです。新しい概念ではありません。
すでにセクハラ研修をやっている会社なら、この部分の教材はそのまま使えます。
該当するのはどういう状態か
指針2⑸は、より詳しい要件を示しています。
求職活動等において行われる求職者等の意に反する性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害され、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、その求職者等が求職活動等を行う上で看過できない程度の支障が生じること。
2つの要件が読み取れます。
ひとつは「意に反する」性的な言動であること。もうひとつは「看過できない程度の支障」が生じることです。
「嫌がっていなかった」は通りにくい
「意に反する」の判断には、注意が必要です。
求職者は評価される立場にあります。内定がほしい学生が、面接官やOB訪問先の社員に対して、その場で拒否の意思を示せるでしょうか。笑ってやり過ごすほうが自然でしょう。
社内のセクハラでも同じ問題はありますが、求職者の場合はより深刻です。会社との関係が切れれば、それで終わりだからです。相談する先も、社内にはありません。
「嫌がっていなかった」という弁解は通りにくいと考えるべきです。
6つの典型例
指針が挙げる例を見ていきます。
イ 少人数の説明会において、労働者が求職者等の腰、胸等に触ったため、その求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること
ロ 企業が実施するインターンシップにおいて、労働者が求職者等に対して性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行ったため、その求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が手につかないこと
ハ 企業が実施するインターンシップにおいて、性的な内容を含むポスターの掲示や画面の表示等を行っているため、求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が手につかないこと
ニ 面接中、面接官を務める労働者から性的な事実に関する質問を受け、求職者が苦痛に感じてその求職活動の意欲が低下していること
ホ 求職者等が労働者への訪問を行った際、その労働者に性的な関係を求められ、その求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること
ヘ インターンシップ中に労働者が求職者等を執拗に私的な食事に誘い、その求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること
指針は「その状況は多様であるが、典型的な例として」と書いています。限定列挙ではありません。
例の並びが示すもの
場面ごとに分けてみます。
| 場面 | 該当する例 | 件数 |
|---|---|---|
| インターンシップ | ロ・ハ・ヘ | 3 |
| 説明会 | イ | 1 |
| 採用面接 | ニ | 1 |
| 労働者への訪問 | ホ | 1 |
半分がインターンシップです。
理由は想像がつきます。滞在時間が長い。指導する社員と1対1になる場面が多い。学生は評価される立場にある。この3つが重なる場所だからでしょう。
面接は数十分で終わり、複数人が同席することも多い。インターンシップは数日から数週間続きます。リスクの量が違います。
インターンシップを実施している会社は、ここを重点対象にしてください。
ハだけ性質が違います
イ、ロ、ニ、ホ、ヘは、誰かが誰かに対して何かをした例です。行為者が特定できます。
ハは違います。
「性的な内容を含むポスターの掲示や画面の表示等を行っているため」
求職者に向けた行為ではありません。職場にもともとある環境が、そのまま該当し得るとされています。
インターンシップや実習の受入れが決まったら、受入部門の物理的な環境を見てください。
- 壁のポスターやカレンダー
- モニターに表示されている画面
- 共有パソコンのデスクトップの壁紙
- 休憩室に置かれている雑誌
既存のセクハラ対策で職場環境の点検を済ませているなら、そのまま使えます。やっていない会社は、ここから始めることになります。
ニは別の規制とも重なります
面接での質問は、もともと複数の規制がかかる領域です。
| 質問の内容 | かかる規制 |
|---|---|
| 性的な事実関係を尋ねること | 求職者等セクハラ |
| 結婚や出産の予定を尋ねること | 均等法第5条(募集・採用の均等な機会)に抵触するおそれ |
| 本籍や家族の状況を尋ねること | 職業安定法第5条の5、公正な採用選考の観点 |
面接官の研修では、これらを一体で扱うほうが効率的です。
質問項目のNGリストをすでに作っている会社は、性的な事実関係に関する項目が入っているかを確認してください。抜けていることがあります。
ヘの読み方
「執拗に私的な食事に誘う」
これが性的な言動の典型例として明示されています。判断に迷う人が多いところでしょう。
業界によっては、OB訪問の後に食事に行く、インターン期間中に懇親会を開くといった慣行があります。個別の誘いがただちに該当するわけではありません。
キーワードは「執拗に」と「私的な」です。
一度断られたのに繰り返す。会社の行事ではなく個人的な誘いである。この2つが揃うと危うくなります。
こうした線引きこそ、次回扱う「求職活動等に関するルールの明確化」で決めるべき事柄です。
対価型・環境型の区分がありません
既存の職場のセクハラ指針を知っている方は、違和感を持つはずです。あの指針は、セクハラを対価型と環境型に分けて定義していました。
告示第52号には、この区分がありません。
理由は明快です。対価型は、拒否したことで解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、不利益な配置転換といった不利益を受けることをいいます。
これらはすべて雇用関係を前提としています。求職者にはまだ雇用関係がありません。枠組みが成り立たないのです。
| 職場のセクハラ指針 | 求職者等セクハラ指針 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 均等法第11条第4項 | 均等法第13条第3項 |
| 被害者 | 雇用する労働者 | 求職者等 |
| 対価型・環境型の区分 | あり | なし |
| 結果 | 就業環境が害される | 求職活動等が阻害される |
| 「性的な言動」の定義 | 同じ | 同じ |
とはいえ、実質的に対価型に近い事案は起こり得ます。「関係に応じれば内定を出す」といった言動です。
この場合も、指針の枠組みでは「求職活動等が阻害される」かどうかで判断することになります。区分がないだけで、対象外になるわけではありません。
意図があったかどうかは要件ではない
ロには「意図的かつ継続的に」という言葉が入っています。ここだけ読むと、わざとやった場合だけが対象のように見えます。
そうではありません。これは典型例の記述であって、要件ではないからです。
定義(指針2⑸)には、故意の要素は入っていません。「そんなつもりはなかった」は理由にならないです。
まとめ
- 「性的な言動」の定義は、既存の職場のセクハラ指針と同じです
- 要件は「意に反する」性的な言動と、「看過できない程度の支障」の2つです
- 求職者は拒否の意思を示しにくい立場にあります。「嫌がっていなかった」は通りにくいでしょう
- 典型例6つのうち3つがインターンシップです。リスクの所在がここに表れています
- ハは職場環境そのものが該当する例です。受入部門の物理的な点検が必要です
- 対価型・環境型の区分はありません。雇用関係がないからです
- 意図があったかどうかは要件ではありません
