令和8年10月1日から、措置義務の対象になるハラスメントは5類型になります。共通する部分と、そうでない部分があります。違いはどこから生まれるのか。ひとつの視点で整理できます。
※以下の労働施策総合推進法と男女雇用機会均等法の条番号は、令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。
5つの類型と根拠
まず一覧にします。
| 類型 | 根拠条文 | 指針 |
|---|---|---|
| パワーハラスメント | 労推法第31条第1項(現行の第30条の2第1項に相当) | 令和2年厚生労働省告示第5号 |
| セクシュアルハラスメント | 均等法第11条第1項 | 平成18年厚生労働省告示第615号 |
| 妊娠・出産等に関するハラスメント | 均等法第11条の3第1項 | 平成28年厚生労働省告示第312号 |
| 育児休業等に関するハラスメント | 育児介護休業法第25条第1項 | 平成28年厚生労働省告示第313号 |
| カスタマーハラスメント | 労推法第33条第1項 | 令和8年厚生労働省告示第51号 |
| 求職者等セクシュアルハラスメント | 均等法第13条第1項 | 令和8年厚生労働省告示第52号 |
根拠となる法律は3本あります。労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法です。ハラスメント規程を1本にまとめる場合でも、根拠条文は分けて管理してください。
違いはどこから生まれるか
答えは単純です。行為者と被害者が、社内にいるか社外にいるか。
| 類型 | 行為者 | 被害者 |
|---|---|---|
| パワハラ | 社内 | 社内 |
| セクハラ | 社内 | 社内 |
| 妊娠出産等・育休等ハラ | 社内 | 社内 |
| カスハラ | 社外(顧客等) | 社内 |
| 求職者等セクハラ | 社内 | 社外(求職者等) |
新しい2類型は、片方が社外にいます。ここからすべての差が生まれます。
行為者が社外なら、懲戒できません。だからカスハラには懲戒規定の整備がありません。代わりに抑止措置が置かれています。
被害者が社外なら、相談窓口を社外に知らせる必要があります。だから求職者等セクハラでは、窓口の周知先が求職者等になります。
この1点を押さえれば、あとは自然に導けます。
措置義務の対応表
一覧で確認しましょう。
| 措置 | パワハラ | セクハラ | 妊娠出産等・育休等 | カスハラ | 求職者等セクハラ |
|---|---|---|---|---|---|
| 方針の明確化・周知 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 懲戒規定の整備 | ○ | ○ | ○ | × | ○ |
| あらかじめ定めた対処の内容 | × | × | × | ○ | × |
| 求職活動等のルール | × | × | × | × | ○ |
| 制度の周知・利用しやすい環境整備 | × | × | ○ | × | × |
| 相談体制の整備 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 事実確認 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 被害者への配慮 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 行為者への措置 | ○ | ○ | ○ | × | ○ |
| 原因・背景の解消 | × | × | ○ | × | × |
| 再発防止 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 抑止措置 | × | × | × | ○ | × |
| プライバシー保護 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 不利益取扱い禁止の周知 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
各類型に固有の措置
太字にした部分だけを取り出します。
カスハラだけにあるものは2つ。あらかじめ定めた対処の内容の周知と、抑止措置です。どちらも、懲戒が使えないことの裏返しです。その場でどう動くかを事前に決め、悪質な相手には出入禁止や法的手続で臨む。これがカスハラの構造です。
求職者等セクハラだけにあるものは、求職活動等に関するルールの明確化です。面談時間、場所、実施体制、SNSの種類を決めます。OB訪問という、会社が把握しにくい場面を想定した措置です。
妊娠出産等・育休等ハラだけにあるものは2つ。制度等の利用ができる旨の周知と、原因・背景となる要因を解消するための措置です。制度利用への嫌がらせという性質に対応しています。業務体制の整備が求められる点が、他の類型と異なります。
事実確認の方法も違います
もうひとつ、実務で効いてくる差があります。
| 類型 | 行為者からの聴取 |
|---|---|
| パワハラ、セクハラ、妊娠出産等・育休等、求職者等セクハラ | 相談者と行為者の双方から確認 |
| カスハラ | 必要かつ可能な場合には行為者からも聴取することも考えられる |
カスハラだけ表現が弱くなっています。行為者が社外にいて、名前も連絡先も分からないことがあるからです。
裏を返せば、カスハラでは相談者の供述と客観的な記録が事実確認の中心になります。録音・録画の設計が重要になる理由がここにあります。
相談窓口の周知先
ここが最も事故が起きやすい部分です。
| 類型 | 窓口の周知先 |
|---|---|
| パワハラ、セクハラ、妊娠出産等・育休等、カスハラ | 労働者 |
| 求職者等セクハラ | 求職者等 |
既存の窓口を流用する会社が多いはずです。そのとき、社内イントラネットにだけ載せていると、求職者は到達できません。
採用サイト、募集要項、インターンシップのオリエンテーション資料。社外から見える場所に掲示する導線を追加してください。
共通する部分は流用できます
違いを見てきましたが、共通部分のほうが多いことにも気づいたでしょうか。
- 方針の明確化と周知・啓発
- 相談窓口の設置と、担当者が適切に対応できる体制
- 現実に生じている場合だけでなく、おそれがある場合や微妙な場合も広く相談に対応すること
- 事実確認、被害者への配慮、再発防止という流れ
- 事実が確認できなかった場合も再発防止措置を講ずること
- プライバシーの保護
- 相談等を理由とする不利益取扱いの禁止
すでにパワハラ・セクハラ対策を整備している会社なら、土台はできています。追加すべきものを見極めれば、作業量は思ったほど多くありません。
窓口は一体化できます
カスハラ指針4⑵イには、次のなお書きがあります。
職場における他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置をすることも考えられる。
入口は一本化できます。労働者からすれば、窓口が分かれているほうが迷います。
ただし、受けた後は分岐が必要です。
| 工程 | 一体化 | 理由 |
|---|---|---|
| 相談の受付 | できる | 労働者が迷わない。担当者の育成を集約できる |
| 求職者等からの受付 | 別導線が必要 | 社外から見える場所への掲示が要る |
| 事実確認 | 分岐が必要 | カスハラは行為者からの聴取が難しい |
| 行為者への措置 | 分岐が必要 | カスハラだけ懲戒が使えない |
| 記録・集計 | 類型別に分ける | 再発防止の分析単位が違う |
規程改定で必要になるもの
10月1日に向けて、就業規則等に手を入れるべき箇所を整理します。
| 条項 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 服務規律 | 求職者等に対する性的な言動の禁止 | 告示第52号4⑴イ・ロ |
| 懲戒事由 | 求職者等セクハラを懲戒事由として明記、または既存規定の適用対象である旨の明確化 | 告示第52号4⑴ロ |
| 服務規律 | 他社の労働者に対するカスハラの禁止(望ましい) | 労推法第34条第2項〜第4項、告示第51号6⑷ |
| 不利益取扱い禁止 | カスハラ・求職者等セクハラの相談等を理由とする不利益取扱いの禁止 | 告示第51号4⑸ロ、告示第52号4⑷ロ |
既存のハラスメント条項に「パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と限定列挙している場合、2類型を追加する改定が必要になります。
研修は対象別に組む
最後にひとつ。研修は一律にしないほうが効率的です。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 全社員 | 5類型の概要、相談窓口、不利益取扱いの禁止 |
| 管理監督者 | カスハラの現場判断、あらかじめ定めた対処の内容 |
| 採用担当・面接官 | 求職者等セクハラ、求職活動等のルール、質問のNGリスト |
| 実習・インターン受入部門 | 求職者等セクハラ、職場環境の点検 |
| 購買・営業 | 他社の労働者に対する加害防止 |
いちばん抜けやすいのが最後の行です。カスハラ対策を「守る側」の話だけで終わらせないでください。
まとめ
- 措置義務の対象は5類型になります。根拠となる法律は3本にまたがります
- 違いは、行為者と被害者が社内にいるか社外にいるかで決まります
- 行為者が社外のカスハラには懲戒規定の整備がなく、代わりに抑止措置があります
- 被害者が社外の求職者等セクハラは、相談窓口を求職者等に周知します
- 事実確認は、カスハラだけ行為者からの聴取の位置づけが弱くなっています
- 共通部分は多く、既存の仕組みを流用できます
- 窓口は一体化できますが、受付後の処理は類型ごとに分岐させてください
自社の規程が5類型を拾えているか、まずは確認しましょう。
