病院の窓口で3割払う。その根拠が国民健康保険法第42条です。ただ条文を読むと「3割」とは書いておらず、「6歳に達する日以後の最初の3月31日」といった独特の表現が並びます。令和8年改正では、市販薬と同じ成分の処方薬について新しい負担も生まれます。給付と負担の基本を整理します。
療養の給付とは何か(法第36条第1項)
市町村および組合は、被保険者の疾病および負傷に関して、次の5つの療養の給付を行います。
| 内容 | |
|---|---|
| ① | 診察 |
| ② | 薬剤又は治療材料の支給 |
| ③ | 処置、手術その他の治療 |
| ④ | 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護 |
| ⑤ | 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護 |
健康保険法第63条第1項とまったく同じ5項目です。医療保険である以上、給付の中身に違いを設ける理由がありません。
条文が対象とするのは「疾病及び負傷」です。出産や死亡は療養の給付の対象ではなく、出産育児一時金や葬祭費という別の給付で扱います。
業務上の傷病も対象になり得る
国保法には、健保法第1条のような「業務災害以外の」という限定がありません。業務上のけがや病気でも、労災保険から給付を受けられない場合には国保の給付対象になり得ます。
ただし労災保険法などから医療に関する給付を受けられるときは、国保の給付は行いません(法第56条第1項)。二重に受け取ることはできない仕組みです。
療養の給付に含まれない5つ(法第36条第2項)
次の5つは、療養の給付には含まれません。
| 内容 | |
|---|---|
| ① | 食事療養 |
| ② | 生活療養 |
| ③ | 評価療養 |
| ④ | 患者申出療養 |
| ⑤ | 選定療養 |
ここで注意したいのは、含まれない=保険が効かない、ではないという点です。
これらは療養の給付とは別の給付で対応します。食事療養なら入院時食事療養費、生活療養なら入院時生活療養費、評価療養・患者申出療養・選定療養なら保険外併用療養費です。給付の器が違うだけで、保険給付の対象であることに変わりはありません。
それぞれの給付の中身は、稿を改めて扱います。
受け方はフリーアクセス(法第36条第3項)
法第36条第3項は、療養の給付を受けようとするときは、電子資格確認等により被保険者であることの確認を受け、保険医療機関等のうち自己の選定するものから受けると定めています。
かかりつけ医を経由しなければ専門医にかかれない、という国もあります。日本では患者が医療機関を選べるフリーアクセスが、条文上も担保されているわけです。
「電子資格確認等により」という書きぶりは、令和5年法律第48号による改正後のものです。マイナンバーカードによる確認が原則の姿として条文に書かれています。
一部負担金の割合(法第42条第1項)
療養の給付を受ける者は、その給付を受ける際、算定した費用の額に次の割合を乗じて得た額を、一部負担金として保険医療機関等に支払います。
| 区分 | 割合 |
|---|---|
| 6歳に達する日以後の最初の3月31日以前 | 10分の2 |
| その翌日以後、70歳に達する日の属する月以前 | 10分の3 |
| 70歳に達する日の属する月の翌月以後 | 10分の2 |
| 70歳以上で、政令の定めるところにより算定した所得の額が政令で定める額以上のとき | 10分の3 |
日常語に直すと、義務教育就学前が2割、そこから70歳未満が3割、70歳から74歳が2割(現役並み所得者は3割)です。75歳以上は後期高齢者医療制度に移るので、国保の一部負担金の規定は適用されません。
なぜ「6歳」ではなく「3月31日」なのか
誕生日で区切ると、同じクラスの子どもで窓口負担が変わってしまいます。学年で揃えるために、6歳に達する日以後の最初の3月31日という表現が使われています。
「年齢到達日」ではなく「年度末」で切る書き方は、児童手当や医療費助成にも共通する社会保障法令の定型表現です。
70歳の区切りは「翌月から」
70歳のほうは、達する日の属する月の翌月から2割になります。誕生日当日から変わるわけではありません。
さらに細かい話をすると、「70歳に達する日」は誕生日の前日です。そのため1日生まれの人は前月が「達する日の属する月」になり、切り替わりが1か月早くなります。年齢計算に関する法律の考え方が効いてくる場面です。
70歳以上の3割判定は政令が決める
第4号の所得基準は政令に委ねられています。国民健康保険法施行令第27条の2が、療養の給付を受ける日の属する年の前年(1月から7月までは前々年)の所得について算定するとしたうえで、市町村民税の総所得金額等をもとに計算する方法を定めています。
19歳未満の被保険者がいる世帯には控除の仕組みも置かれており、単純な所得の多寡だけで決まるわけではありません。
一部負担金を軽くする2つの仕組み
①条例・規約による割合の減額
市町村および組合は、条例または規約の定めるところにより、法第42条第1項の一部負担金の割合を減ずることができます(法第43条第1項)。
自治体の子ども医療費助成が制度として成り立っているのは、この規定があるからです。健康保険法には同じ仕組みがありません。国保の保険者が地方公共団体であることの表れといえます。
なお、割合を減じている市町村が属する都道府県への国庫負担の算定では、その軽減措置が講じられていないものとして計算する扱いがあります。国が肩代わりするわけではない、という整理です。
②減免と徴収猶予
特別の理由があり、保険医療機関等に一部負担金を支払うことが困難であると認められる被保険者に対しては、減額・免除・徴収猶予の措置を採ることができます。
災害で家屋が全壊した、失業して収入が途絶えたといったケースが想定されています。申請に基づく個別の判断です。
令和8年改正:一部保険外療養の創設
令和8年6月5日公布の「健康保険法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第31号)は、保険給付の範囲そのものに手を入れました。
OTC医薬品(要指導医薬品または一般用医薬品)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養などについて、その要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるものを「一部保険外療養」として創設する、というものです。
何がどう変わるのか
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量が異ならない医療用医薬品(約77成分) |
| 負担 | 薬剤費の4分の1を別途負担 |
| 位置づけ | 保険外併用療養費制度の中の新しい仕組み。患者は「特別の料金」を支払う |
| 施行 | 令和9年3月施行を想定 |
主な対応症状として、鼻炎、胃痛・胸やけ、便秘、解熱・痛み止め、風邪症状全般、腰痛・肩こり、みずむし、口内炎などが挙げられています。
一部負担金とは別物
一部負担金は、保険給付の対象である費用に割合を乗じて計算します。これに対し一部保険外療養は、薬剤費のうち一定部分をそもそも保険給付の対象外とする仕組みです。
制度が複雑にならないよう、一部保険外療養に該当する場合は長期収載品の選定療養の特別の料金は求めないこととされています。
対象外の範囲はまだ検討中
厚生労働省は技術的検討会を設け、負担を求めない者・療養の範囲を議論しています。中間とりまとめでは、指定難病患者(軽度者を含む)、国の公費負担医療の受給者などが挙げられ、湿布・皮膚保湿剤等については令和10年度末までの経過措置を講じる方向が示されています。
ただし令和8年秋頃に結論を得る予定とされており、現時点では確定していません。顧問先への説明は、範囲が固まってからにするのが安全です。
まとめ
- 療養の給付は5項目。健保法第63条第1項と同じ(法第36条第1項)
- 食事療養・生活療養・評価療養・患者申出療養・選定療養は療養の給付に含まれないが、別の給付で保険の対象になる(同第2項)
- 受け方はフリーアクセス。電子資格確認等で確認を受け、自己の選定する保険医療機関等から受ける(同第3項)
- 一部負担金は義務教育就学前2割、70歳未満3割、70歳以上2割(現役並み所得者3割)(法第42条第1項)
- 条例・規約で割合を減ずることができる。これが子ども医療費助成の根拠(法第43条第1項)
- 令和8年改正で一部保険外療養を創設。OTC類似薬は薬剤費の4分の1が別途負担に(令和9年3月施行想定)
従業員が70歳になる年は、窓口負担が誕生月の翌月から2割に変わります。とはいえ在職中で健保の被保険者なら、国保ではなく健保法第74条の話です。退職して国保に移る人と、在職を続ける人とで根拠条文が変わる点は、案内するときに意識しておくと説明が正確になります。
