国民健康保険の資格取得・喪失と届出|法第7条〜第9条をわかりやすく解説

国民健康保険の資格取得・喪失と届出 労働社会保険諸法令の基礎知識
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国保は資格取得が「その日から」、喪失が「翌日から」です。この1日のずれには理由があります。また、引っ越しのときに国保の届出をした覚えがないのは、住民票の届出でみなされているからです。ただし条件があります。届出まわりの落とし穴を条文で整理します。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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資格取得は「その日から」(法第7条)

法第7条は、都道府県等が行う国保の被保険者は、都道府県の区域内に住所を有するに至った日、または法第6条各号のいずれにも該当しなくなった日から資格を取得すると定めています。

ポイントは「その日から」です。翌日ではありません。

会社を退職した場合で考えてみます。3月31日退職なら、健康保険の資格喪失は4月1日です。すると4月1日に法第6条第1号(健保の被保険者)に該当しなくなるので、同じ4月1日から国保の被保険者になります。空白の日は生じません。

資格喪失は原則「翌日から」(法第8条)

一方、喪失は原則として翌日です。

喪失日
都道府県の区域内に住所を有しなくなったときその日の翌日
法第6条各号(第9号・第10号を除く)に該当するに至ったときその日の翌日
住所を有しなくなった日に他の都道府県の区域内に住所を有するに至ったときその日(ただし書)
生活保護を受けるに至ったとき(第9号)その日(第2項)
国保組合の被保険者となったとき(第10号)その日(第2項)

なぜ取得は当日で喪失は翌日なのか

医療保険に1日でも空白があると、その日は全額自己負担になります。取得を当日、喪失を翌日にしておけば、次の保険に入る日と重なることはあっても、空白は生まれません。

その代わり、重複が生じます。3月31日に就職して健保の被保険者になった人は、国保の喪失が4月1日なので、3月31日は健保と国保の両方の資格を持つことになります。

当日喪失になる3つの例外

例外は3つあります。

1つ目は、他の都道府県へ転出したとき。転出先で同じ日に取得するので、翌日にする必要がありません。ただし書がこれを定めています。

2つ目と3つ目は、生活保護を受けるに至ったとき(法第6条第9号)と、国保組合の被保険者となったとき(同第10号)です。法第8条第2項が、この2つを当日喪失としています。

注意したいのは国外転出です。「他の都道府県の区域内に住所を有するに至ったとき」に当たらないので、ただし書は使えません。原則どおり、住所を有しなくなった日の翌日に喪失します。

令和8年改正で喪失日が1日前倒しに

令和8年法律第31号は、この喪失日の扱いにも手を入れました。

保険者の異動を原因とする資格喪失日を1日前倒しし、資格喪失の原因たる事実が発生した日を資格喪失日とする、というものです。令和7年の地方分権提案を受けた改正です。

目的は、低所得者に対する保険料軽減判定の適正化などとされています。月末をまたぐ重複を解消する狙いがあります。

届出義務者は世帯主(法第9条)

法第9条第1項は、世帯主は、その世帯に属する被保険者の資格の取得および喪失に関する事項その他必要な事項を市町村に届け出なければならないと定めています。

資格を喪失したときは、速やかに届け出る必要があります(第5項)。

届出・手続きをする人
健康保険事業主
国民健康保険世帯主(法第9条第1項)
国保組合組合員(法第22条で読替え準用)

国保では、被保険者本人ではなく世帯主が届出義務者です。保険料の納付義務者が世帯主であること(法第76条第1項)と対応しています。

届出は資格の発生要件ではない

大事なのは、届出をしたから被保険者になるのではないという点です。Day354で見たとおり、要件を満たせば当然に被保険者になります(強制加入)。

届出は、保険者が資格を把握するための手続きです。届出が遅れても資格は取得日にさかのぼって存在しており、保険料もその日から発生します。「届出が遅れたから保険料は届出の日から」とはなりません。

住民票の届出でみなされる仕組みと、その条件

法第9条第6項は、住民基本台帳法の一定の届出があったときは、同一の事由に基づく国保の届出があったものとみなすと定めています。

対象となるのは、住基法第22条から第24条まで(転入届・転居届・転出届)、第25条(世帯変更届)、第30条の46、第30条の47の規定による届出です。

条件は「第28条の付記」

ただし、条文にはかっこ書きで条件が付いています。当該届出に係る書面に住民基本台帳法第28条の規定による付記がされたときに限る、というものです。

住基法第28条はこう定めています。

この章又は第4章の3の規定による届出をすべき者が国民健康保険の被保険者であるときは、その者は、当該届出に係る書面に、その資格を証する事項で政令で定めるものを付記するものとする。

転入届や転居届の用紙に、国民健康保険に関する記入欄があるのを見たことがあるはずです。あれがこの付記です。

同じ趣旨の特例が、後期高齢者医療(第28条の2)、介護保険(第28条の3)、国民年金(第29条)、児童手当(第29条の2)にも置かれています。

付記がされていなければ、みなしは働きません。国保の届出は別途必要になります。

みなされるのは「届出」だけ

もうひとつ大事なのは、みなされる範囲です。法第9条第6項がみなすのは、第1項と第5項の届出、つまり資格の取得・喪失に関する届出だけです。

それ以外の手続きは別に必要になります。

場面理由
資格確認書が必要なとき法第9条第2項は、世帯主が交付を「求めることができる」という建て付け
資格情報のお知らせが必要なとき同じく法第9条第4項の求めが必要
転出時に旧保険者へ返還すべきものがあるとき返還は届出とは別の義務
就職・退職による資格の得喪住基法の届出事由ではないため、みなしの対象外
国保組合の被保険者法第22条は法第9条を準用するが、第6項は準用しない

とくに国保組合は注意が必要です。住民票を動かしても、組合への届出は自動では成立しません。

なお、これらは条文から導ける範囲の話です。転入時の保険料算定に必要な情報の確認や口座振替の手続きなど、実務上の運用は市町村ごとに異なります。

マイナ保険証と資格確認書

法第36条第3項は、療養の給付を受けようとするときは、電子資格確認等により被保険者であることの確認を受けると定めています。マイナンバーカードによる確認が、条文上の原則の姿になっているわけです。

その上で、法第9条が2つの書面を用意しています。

条文内容
いわゆる資格確認書第9条第2項電子資格確認を受けることができない状況にあるとき、世帯主が資格に係る情報を記載した書面の交付等を求めることができる
いわゆる資格情報のお知らせ第9条第4項世帯主が資格に係る事実を記載した書面の交付等を求めることができる

第2項の書面の交付を受けた世帯主と同一世帯の被保険者は、その書面等を提示することで被保険者であることの確認を受けられます(第3項)。

条文には「資格確認書」という言葉は出てきません。条文上は「資格に係る情報として厚生労働省令で定める事項を記載した書面」です。実務で使われている名称と条文の書きぶりが違う点は、頭に置いておくとよいところです。

これらは令和5年法律第48号による改正後の姿です。

まとめ

  • 資格取得は住所を有するに至った日、または適用除外に該当しなくなった日から(法第7条)
  • 資格喪失は原則としてその日の翌日。他都道府県への転出、生活保護、国保組合は当日(法第8条)
  • 令和8年改正で、保険者の異動を原因とする喪失日が1日前倒しになる
  • 届出義務者は世帯主。届出は資格の発生要件ではない(法第9条第1項)
  • 住民票の届出でみなされるのは、第28条の付記がされている場合の、資格の取得・喪失の届出だけ(法第9条第6項)
  • 資格確認書と資格情報のお知らせは、世帯主が交付を求める建て付け(法第9条第2項・第4項)

退職者に国保の手続きを案内するときは、「住民票を動かせば自動」と伝えないほうが安全です。退職による資格の得喪は住民票と関係がなく、健康保険の資格喪失を証明する書類を持って市町村の窓口へ行く必要があります。

参考資料