医師国保、建設国保、食品国保。名前は聞いたことがあっても、市町村の国保と何が違うのかまでは意外と知られていません。法人成りしたのに医師国保に残っている先生がいるのは、健康保険の適用除外という仕組みがあるからです。令和8年改正でその手続も変わります。
国保組合は「同じ仕事の仲間」で作る保険者
国民健康保険組合(以下「組合」)は、同種の事業または業務に従事する者で、その組合の地区内に住所を有する者を組合員として組織します(法第13条第1項)。
地区は、1つまたは2つ以上の市町村の区域によります。ただし特別の理由があるときは、この区域によらなくてもかまいません(同第2項)。
組合は法人です(法第14条)。名称中には「国民健康保険組合」という文字を用いなければならず、組合以外の者がこれに類する名称を使うことは禁じられています(法第15条)。
実際にある組合は、医師・歯科医師・薬剤師の組合、建設関係の組合、食品や市場などの一般業種の組合に大別されます。
保険者としては「任意」の存在
Day351で触れたとおり、法第3条は保険者を2種類定めています。ここに義務と任意の差があります。
| 保険者 | 条文 | 語尾 |
|---|---|---|
| 都道府県+当該都道府県内の市町村 | 法第3条第1項 | 国民健康保険を行うものとする |
| 国民健康保険組合 | 法第3条第2項 | 行うことができる |
歴史的にも、昭和23年に市町村公営が原則とされ、市町村が実施していない場合に限って組合の設立を認める形になりました。今は原則として新たな組合の設立は認められていません。既存の組合が例外として存続している、というのが実態です。
設立には知事の認可がいる(法第17条)
組合を設立しようとするときは、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けなければなりません。認可の申請には人数要件があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 発起人 | 15人以上が規約を作成する |
| 同意 | 組合員となるべき者300人以上の同意を得る |
知事はすぐに認可できるわけではありません。あらかじめ、組合の地区を区域に含む市町村の市町村長の意見を聴き、その組合の設立によって都道府県や市町村の国保事業の運営に支障を及ぼさないと認めるときでなければ、認可してはならないとされています。
地区が2つ以上の都道府県にまたがる組合なら、他の都道府県知事の意見も聴きます。そしてその他の都道府県知事は、意見を述べる前に、自分の県内の市町村長の意見を聴かなければなりません。二段構えの意見聴取です。
組合は、設立の認可を受けた時に成立します(同第5項)。
被保険者は「住所」ではなく「組合員かどうか」で決まる
ここが市町村国保との一番大きな違いです。
| 都道府県等が行う国保 | 国民健康保険組合 | |
|---|---|---|
| 被保険者になる基準 | 都道府県の区域内に住所を有する(法第5条) | 組合員及び組合員の世帯に属する者(法第19条) |
| 届出先 | 市町村(法第9条) | 組合(法第22条で読替え準用) |
| 保険料を納める人 | 世帯主(法第76条第1項) | 組合員(同第2項) |
| 保険料の定め方 | 条例 | 規約 |
組合員の世帯に属する者であっても、法第6条各号(第10号を除く)に該当する者や、他の組合の被保険者である者は、被保険者になりません(法第19条第1項ただし書)。
なお組合は、規約の定めにより、組合員の世帯に属する者を包括して被保険者としないこともできます(同第2項)。組合員本人だけを被保険者とする設計も許されているわけです。
届出の準用には落とし穴がある
組合の被保険者に関する届出は、法第9条を読み替えて準用します(法第22条)。「世帯主」を「組合員」に、「市町村」を「組合」に読み替えるかたちです。
ただし、法第9条第6項は準用されません。第6項は、住民基本台帳法上の届出があれば国保の届出があったものとみなすという規定です。住所を基準としない組合には、当てはめようがありません。
健康保険の適用除外という例外
原則から確認します。法人の事業所や、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(特定の業種)は健康保険の適用事業所です。そこに使用される者は健康保険の被保険者になるので、国保組合の被保険者にはなれません(法第6条第1号)。
ところが例外があります。健康保険法第3条第1項第8号は、厚生労働大臣、健康保険組合または共済組合の承認を受けた者を、健康保険の被保険者としない、と定めています。この承認を受ければ、健康保険が適用除外となり、引き続き組合に残れます。
典型的なのは、個人事業所として組合に加入していた事業所が法人成りしたケースです。医療法人化した診療所、法人化した設計事務所などがこれに当たります。
実務では、加入しようとする人ごとに「健康保険被保険者適用除外承認申請書」を管轄の年金事務所に提出し、承認を受けます。年金事務所が「健康保険被保険者適用除外承認証」を交付し、それを組合に提出して手続きが完了する流れです。
なぜ例外が認められているのか
厚生労働省は、組合の事業運営の継続性という観点から説明しています。法人成りのたびに被保険者が抜けていけば、組合の財政基盤が揺らぎます。長年その業種の医療を支えてきた組合を存続させるための例外だ、という整理です。
国庫補助と令和8年改正
国は組合に対し、療養の給付等に要する費用などについて、組合の財政力を勘案して13%から32%までの範囲内で政令で定める割合を補助することができます(法第73条第1項第1号)。財政力のある組合ほど補助率が低くなる仕組みです。
さらに、健保の適用除外承認を受けて組合の被保険者となっている人(法律上は「組合特定被保険者」といいます)とその世帯の被保険者については、32%を下回る割合(特定割合)で算定されます。本来は被用者保険に入るべき層なので、協会けんぽへの国庫補助の割合を勘案して抑えるという考え方です。
例外的な補助率12%・10%の新設
令和8年6月5日公布の「健康保険法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第31号)で、この補助率に例外が加わりました。
補助率13%の区分に該当する組合のうち、次の3つすべてに当てはまる組合には、例外的な補助率(12%・10%)を適用します。
| 要件 | |
|---|---|
| ① | 保険料負担率(被保険者一人当たり保険料÷組合の平均所得)が低い |
| ② | 積立金が多い(かつ被保険者数3,000人以上。経過措置) |
| ③ | 医療費適正化等の取組の実施状況が低調 |
保険料を抑えられていて、お金を貯め込んでいて、医療費適正化にも熱心でない。そういう組合への補助は下げます、という趣旨です。あわせて、補助率を区分する所得基準と各組合の平均所得の算出方法も見直されます。
施行日は令和9年4月1日です。
適用除外の手続が申出だけで済むようになる
同じ改正で、健康保険の適用除外の手続も変わります。年金機構による承認を必要とせず、申出を行うことのみで足りることとされました。
狙いは2つです。組合の事務手続を簡素化すること、そして被保険者の資格情報の管理に生じるタイムラグを解消することです。
現行の運用では、申請してから承認証が交付されるまでの間、資格の確定が待たされます。この空白がなくなるわけです。こちらも施行日は令和9年4月1日です。
まとめ
- 組合は同種の事業・業務に従事する者で組織する法人。保険者としては任意の存在(法第13条・第14条・第3条第2項)
- 設立には都道府県知事の認可が必要。発起人15人以上、組合員となるべき者300人以上の同意(法第17条)
- 被保険者は住所ではなく組合員資格で決まる(法第19条)
- 法人成りしても、健康保険法第3条第1項第8号の承認を受ければ組合に残れる
- 令和8年改正で、例外的な補助率(12%・10%)の新設と、適用除外手続の簡素化。いずれも令和9年4月1日施行
法人化を検討している医療機関や建設業の事業主にとって、組合に残れるかどうかは保険料負担に直結します。組合の保険料は所得にかかわらず定額のことが多く、所得が高い層ほど協会けんぽより有利になりがちです。法人成りの相談を受けたら、適用除外承認の可否を早めに確認しておくと話が早く進みます。
