高齢者医療確保法|前期高齢者の財政調整を解説(前期高齢者納付金・交付金・報酬調整)

高齢者医療確保法|前期高齢者の財政調整 労働社会保険諸法令の基礎知識
この記事は約4分で読めます。

65歳から74歳までの人は、75歳以上とは違い、それまで加入していた健康保険や国民健康保険のまま医療を受けます。ところが、会社を退職すると国民健康保険に移る人が多いため、国民健康保険には前期高齢者が集中します。この偏りをならすのが、高齢者医療確保法の第3章が定める前期高齢者の財政調整です。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
-----------------
博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
-----------------
医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
-----------------
オンライン相談(Zoom)で全国対応
まずは無料相談(30分)から
【無料相談お申し込み】

\【就業規則ラボ】就業規則の知識を毎日お届け!フォローすると労務リスクに強くなります/

前期高齢者とは(第32条第1項)

前期高齢者は、第32条第1項で次のように定められています。

六十五歳に達する日の属する月の翌月(その日が月の初日であるときは、その日の属する月)以後である加入者であつて、七十五歳に達する日の属する月以前であるもの

年齢の区切りは、誕生日の当日ではなく「月」です。たとえば、6月15日生まれの人は、65歳に達する日(誕生日の前日の6月14日)の属する月の翌月、つまり7月から前期高齢者になります。

なぜ財政調整が必要なのか

会社員として働いているあいだは、健康保険組合や協会けんぽに加入しています。退職すると、多くの人が国民健康保険に移ります。

その結果、国民健康保険には65歳以上の加入者が多く集まります。年齢が上がるほど医療費は増えるため、国民健康保険だけに負担が偏ってしまいます。

そこで、加入する保険はそのままにして、保険者どうしでお金をやりとりし、負担をならす仕組みが設けられています。

お金の流れ

前期高齢者の財政調整では、医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(略称:DX審査支払機構、条文では「機構」)がお金を集めて配ります。

順番内容条文
1機構が、保険者から前期高齢者納付金を徴収する第36条第1項
2機構が、保険者に前期高齢者交付金を交付する第32条第1項
3交付金は、納付金をもって充てる第32条第2項

この機構は、令和8年10月1日に社会保険診療報酬支払基金から改組された組織です。古い解説で「支払基金」とあるところは、「機構」と読み替えてください。

なお、この章では、国民健康保険の保険者は都道府県とされています(第32条第1項)。

何を基準にならすのか

前期高齢者加入率を全国平均と比べる

財政調整の基準になるのは、前期高齢者加入率です。全国平均の前期高齢者加入率と、その保険者の前期高齢者加入率を比べて、負担を調整します(第34条第7項)。

保険者傾向主な例
前期高齢者加入率が全国平均より低い納付金を多く出す健康保険組合、協会けんぽなど
前期高齢者加入率が全国平均より高い交付金を受け取る国民健康保険

実際の計算は、概算と確定、負担の調整などを含むかなり複雑な式です。ここでは、調整の方向だけを示しています。

調整の対象

調整の対象には、前期高齢者の給付費だけでなく、前期高齢者に係る後期高齢者支援金も含まれます(第34条第1項)。

被用者保険には報酬調整もある

健康保険組合や協会けんぽなど被用者保険の間では、加入者の数だけでなく、報酬の水準も使って調整します(第34条第1項第1号)。

割合調整のしかた
3分の2加入者数に応じた調整
3分の1報酬水準に応じた調整

報酬調整は、令和5年の改正(令和5年法律第31号)で導入されました。報酬水準は、保険者ごとの標準報酬総額を加入者数で割った額を使って比べます(第34条第4項)。報酬水準が高い保険者ほど、負担が重くなる仕組みです。

後期高齢者医療との違い

前期高齢者(65〜74歳)後期高齢者(75歳以上)
加入する医療保険それまでの健康保険・国民健康保険のまま後期高齢者医療
高齢者医療確保法の仕組み保険者どうしの財政調整(第3章)独立した制度(第4章)
お金の流れ機構が納付金を集め、交付金として配る公費5割・支援金・保険料でまかなう
窓口負担の根拠健康保険法・国民健康保険法(原則2割)高齢者医療確保法第67条(原則1割)

在職中の65歳以上の従業員

65歳を過ぎても会社で働き続ける従業員は、会社の健康保険の加入者のままです。後期高齢者医療に移るのは75歳になってからです。

前期高齢者の医療費は、勤め先の健康保険組合や協会けんぽが納める前期高齢者納付金を通じて、全国で支え合っています。会社の健康保険料には、こうした納付金の財源も含まれています。

まとめ

  • 前期高齢者は、65歳に達する日の属する月の翌月から、75歳に達する日の属する月までの加入者です(第32条第1項)。
  • 加入する保険はそのままで、保険者どうしで前期高齢者納付金と前期高齢者交付金をやりとりします。
  • 前期高齢者加入率が全国平均より低い保険者は納付金を多く出し、高い保険者は交付金を受け取ります。
  • 被用者保険の間では、3分の2を加入者数、3分の1を報酬水準で調整します。
  • お金を集めて配るのは、令和8年10月1日に改組された医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(DX審査支払機構)です。

参考資料