障害者雇用促進法は、国と地方公共団体を民間事業主とは別の条文で扱っています。法定雇用率が高いことは知られていますが、条文の建て方そのものが違います。さらに、差別禁止と合理的配慮については国家公務員と地方公務員で適用される法律が分かれており、地方公務員には促進法の規定がそのまま適用されます。今回は公務部門の特則を整理します。
公務部門は法第43条の適用外
民間事業主の雇用義務を定める法第43条第1項は、その「事業主」を次のように定義しています。
事業主(常時雇用する労働者を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。…)
つまり公務部門は法第43条の対象外であり、法第38条以下で別建てになっています。
法第38条|義務の内容は「採用に関する計画の作成」
第三十八条 国及び地方公共団体の任命権者は、職員(当該機関に常時勤務する職員であつて、警察官、自衛官その他の政令で定める職員以外のものに限る。…)の採用について、当該機関に勤務する対象障害者である職員の数が、当該機関の職員の総数に、第四十三条第二項に規定する障害者雇用率を下回らない率であつて政令で定めるものを乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)未満である場合には、対象障害者である職員の数がその率を乗じて得た数以上となるようにするため、政令で定めるところにより、対象障害者の採用に関する計画を作成しなければならない。
読み比べると、民間と公務で義務の内容が違うことがわかります。
| 民間(法第43条第1項) | 公務(法第38条第1項) | |
|---|---|---|
| 義務の内容 | 対象障害者である労働者の数が法定雇用障害者数以上であるようにしなければならない | 未達の場合、対象障害者の採用に関する計画を作成しなければならない |
| 義務の対象 | 雇用状態そのもの | 計画の作成 |
| 未達の場合 | 納付金(100人超)+厚生労働大臣の命令により雇入れ計画作成(法第46条第1項) | 条文により当然に計画作成義務が生じる |
民間では、未達であっても厚生労働大臣の命令があって初めて雇入れ計画の作成義務が生じます。公務では、命令を待たずに法第38条により直接義務が発生します。行政が自らに命令を発することはできないため、条文の建て方でこれを代替しているものと読めます。
「下回らない率」という縛り
法第38条は、公務部門に適用される率を「第43条第2項に規定する障害者雇用率を下回らない率であつて政令で定めるもの」としています。
政令が民間の障害者雇用率より低い率を定めることは、条文上できません。法第6条が国及び地方公共団体の責務として「自ら率先して障害者を雇用する」ことを掲げていますが、その責務がこの一文で具体的な縛りになっているということです。
分母から除かれるのは「職種」
法第38条は、算定対象となる職員を「常時勤務する職員であつて、警察官、自衛官その他の政令で定める職員以外のものに限る」としています。
民間の除外率制度が「業種」に着目して分母から一定割合を控除する仕組みであるのに対し、公務部門は「職種」に着目して特定の職員を分母から外す仕組みです。除外率のように段階的に縮小するという建て方にもなっていません。同じ「除く」でも、設計思想が異なります。
法定雇用率(令和8年7月1日から0.2ポイント引上げ)
| 区分 | 法定雇用率 |
|---|---|
| 民間企業 | 2.7% |
| 国、地方公共団体 | 3.0% |
| 都道府県などの教育委員会 | 2.9% |
教育委員会だけが国・地方公共団体より0.1ポイント低く設定されています。
公務部門に課される5つの義務
厚生労働省は、障害者雇用率制度の実効性の確保等を図るため、国や地方公共団体に次の義務が課されているとしています。
| 義務 | 根拠条文 |
|---|---|
| 障害者雇用率未達成の場合の「障害者採用計画」の作成 | 法第38条第1項 |
| 作成した障害者採用計画及びその実施状況の通報 | 法第39条第1項 |
| 対象障害者である職員の任免状況の通報および公表 | 法第40条 |
| 障害者の確認に関する書類の保存 | 法第81条の2 |
| 障害者の雇用状況等に関する報告徴収 | 法第82条 |
民間のロクイチ報告(法第43条第7項)に対応するのが、公務部門では法第40条の任免状況の通報です。ただし公務部門は通報に加えて公表まで求められています。
障害者活躍推進計画(法第7条の2・第7条の3)
公務部門にのみ課されている、雇用率とは別の枠組みです。
作成指針(法第7条の2)
厚生労働大臣は、障害者雇用対策基本方針に基づき、障害者活躍推進計画の作成に関する指針を定めるものとされ、定め、または変更したときは遅滞なくこれを公表しなければならないとされています。
現行の指針は「障害者活躍推進計画作成指針」(令和元年厚生労働省告示第198号)です。
計画の作成(法第7条の3)
第七条の三 国及び地方公共団体の任命権者(委任を受けて任命権を行う者を除く。以下同じ。)は、障害者活躍推進計画作成指針に即して、当該機関(当該任命権者の委任を受けて任命権を行う者に係る機関を含む。)が実施する障害者である職員の職業生活における活躍の推進に関する取組に関する計画(以下この条及び第七十八条第一項第二号において「障害者活躍推進計画」という。)を作成しなければならない。
同条は7項構成で、義務の性質が項ごとに書き分けられています。
| 項 | 内容 | 義務の性質 |
|---|---|---|
| 1項 | 作成指針に即して障害者活躍推進計画を作成する | しなければならない |
| 2項 | 計画に定める事項(取組の実施により達成しようとする目標等) | ものとする |
| 3項 | 厚生労働大臣は、任命権者の求めに応じ、作成に関し必要な助言を行う | することができる |
| 4項 | 作成・変更したときは、遅滞なく職員に周知させるための措置を講ずる | しなければならない |
| 5項 | 作成・変更したときは、遅滞なく公表する | しなければならない |
| 6項 | 毎年少なくとも1回、計画に基づく取組の実施の状況を公表する | しなければならない |
| 7項 | 計画に基づく取組を実施し、定められた目標を達成する | 努めなければならない |
作成・周知・公表・実施状況の公表はいずれも義務です。一方、7項の目標達成は努力義務にとどまります。計画を作って公表し毎年の進捗を公表することまでは強制されるが、目標そのものの達成は努力義務、という構造です。
作成の主体が「任命権者」である点にも注意が必要です。自治体単位ではなく、任命権者ごとに作成します。同じ自治体でも、知事、教育委員会、警察本部長などがそれぞれ作成主体になります。
なお、障害者雇用推進者(法第78条)は第2項が事業主向けですが、第1項第2号がこの障害者活躍推進計画に関連しています。公務部門版が第1項に置かれているということです。
差別禁止・合理的配慮の適用関係
ここが実務上もっとも重要な整理です。厚生労働省は、公務部門の障害者差別の禁止および合理的配慮の提供義務について、公務員の勤務条件が法律で定められている等、独自の法体系が存在することから、それぞれの法制度の中で対応が図られているとしています。
| 差別の禁止 | 合理的配慮の提供義務 | |
|---|---|---|
| 民間労働者 | 促進法第34条・第35条 | 促進法第36条の2・第36条の3 |
| 国家公務員 | 国家公務員法第27条(平等取扱いの原則) | 国家公務員法第27条及び同法第71条(能率の根本基準) |
| 地方公務員 | 地方公務員法第13条(平等取扱いの原則) | 促進法の規定が適用される |
条文上の根拠は法第85条の3
この適用関係は、法第85条の3(適用除外)に定められています。
第八十五条の三 第三十四条から第三十六条まで、第三十六条の六及び前章の規定は、国家公務員及び地方公務員に、第三十六条の二から第三十六条の五までの規定は、一般職の国家公務員(行政執行法人の労働関係に関する法律第二条第二号の職員を除く。)、裁判所職員臨時措置法の適用を受ける裁判所職員、国会職員法の適用を受ける国会職員及び自衛隊法第二条第五項に規定する隊員に関しては、適用しない。
前段と後段で、除外される規定と除外される者が異なります。
| 適用除外される規定 | 適用除外される者 | |
|---|---|---|
| 前段 | 法第34条〜第36条(差別の禁止と指針)、法第36条の6(助言・指導・勧告)、前章(紛争の解決) | 国家公務員及び地方公務員 |
| 後段 | 法第36条の2〜第36条の5(合理的配慮とその指針) | 一般職の国家公務員(行政執行法人の職員を除く)、裁判所職員、国会職員、自衛隊員 |
後段の列挙に地方公務員が入っていません。これが、地方公務員に促進法の合理的配慮規定が適用される条文上の根拠です。あわせて法第36条の5(指針の根拠)も適用されますから、合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)がそのまま地方自治体に及びます。過重な負担の6要素、採用後の確認手続、指針第6の相談体制4項目のいずれもです。
なお、後段のカッコ書き「行政執行法人の労働関係に関する法律第2条第2号の職員を除く」は二重否定です。行政執行法人の職員は適用除外の対象から外れますので、これらの職員には法第36条の2から第36条の5までが適用されます。
地方公務員は義務を負うが、促進法の紛争解決ルートは使えない
前段により、紛争の解決の章(法第74条の4〜第74条の8)は国家公務員・地方公務員ともに一律で適用除外です。地方公務員について整理すると、次のようになります。
| 地方公務員への適用 | |
|---|---|
| 合理的配慮の提供義務(法第36条の2・第36条の3) | 適用される |
| 意向の尊重・相談体制の整備(法第36条の4) | 適用される |
| 合理的配慮指針(告示第117号) | 及ぶ |
| 苦情の自主的解決(法第74条の4) | 適用されない |
| 都道府県労働局長の助言・指導・勧告(法第74条の6) | 適用されない |
| 調停(法第74条の7) | 適用されない |
| 厚生労働大臣の助言・指導・勧告(法第36条の6) | 適用されない |
義務は促進法、紛争解決は公務員法制(人事委員会・公平委員会等)という組み合わせになります。自治体の相談体制を設計する際は、社内で解決できなかった場合に労働局へ持ち込むという出口が存在しないことが前提になります。受け皿を自治体自身の制度の中に用意しておく必要性が、民間企業より高いということです。
国家公務員には促進法の合理的配慮規定が適用されない
国家公務員については、差別の禁止も合理的配慮の提供義務も、国家公務員法の規定に基づいて対応が図られています。これを受けて人事院が、平成30年12月に「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針」(国家公務員の合理的配慮指針)を策定しています。民間向けの合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)とは別の指針です。
なぜ令和元年に改正されたのか
障害者活躍推進計画や書類保存義務が置かれた背景には、平成30年に明らかになった不適切計上の問題があります。厚生労働省が公表している経緯は次のとおりです。
国及び地方公共団体の機関は、毎年6月1日現在の障害者の任免に関する状況を厚生労働大臣に通報しなければならないこととされていました。しかし2018年5月以降、通報の対象となる障害者の確認が適切に実施されていない疑いが生じました。厚生労働省は国や地方公共団体の機関に対し、2017年6月1日現在の状況の通報内容を再点検するよう依頼し、改めて提出された通報内容を取りまとめて公表しました。
同年10月22日の「国の行政機関における障害者雇用に係る事案に関する検証委員会」報告書は、厚生労働省側の公務部門における障害者雇用の実態に対する関心の低さや周知等の不手際と、各行政機関側の障害者雇用に対する意識の低さ、恣意的な基準解釈等という問題とが相まって、大規模な不適切計上が長年にわたって継続するに至ったと指摘しています。
翌日の10月23日、関係閣僚会議が「公務部門における障害者雇用に関する基本方針」を策定・公表しました。この基本方針に基づき、法定雇用率を達成していない府省は障害者採用計画を策定し、法定雇用率の速やかな達成に向けた取組を進めることとされました。あわせて人事院に対しても、国家公務員における合理的配慮指針の策定、早出遅出勤務の特例の設定・フレックスタイム制の柔軟化・休憩時間の弾力的な設定等の措置、人事院が能力実証等の一部を統一的に行う障害者を対象とした選考試験の導入などが要請されました。
この流れの中で、障害者活躍推進計画の作成義務(法第7条の3)や、障害者の確認に関する書類の保存義務(法第81条の2)が置かれました。書類保存義務がわざわざ条文化されているのは、確認が適切に行われていなかったという経緯があるからです。条文の背景を知ると、規定が置かれた理由が見えてきます。
公務部門の実雇用率の現状(令和7年6月1日現在)
| 区分 | 実雇用率 | 前年 |
|---|---|---|
| 国 | 3.04% | 3.07% |
| 都道府県 | 3.03% | 3.05% |
| 市町村 | 2.69% | 2.75% |
| 教育委員会 | 2.31% | 2.43% |
| 独立行政法人など | 2.67% | 2.85% |
いずれも前年より低下しており、市町村・教育委員会・独立行政法人は当時の法定雇用率2.8%を下回っています。令和8年7月からは3.0%・2.9%になりますので、未達成の機関はさらに増える見込みです。とくに教育委員会は2.31%で、2.9%との差が0.59ポイントあります。
まとめ
- 公務部門は法第43条の適用外(同条第1項が「国及び地方公共団体を除く」と定義)。法第38条以下で別建て。
- 民間の義務は「雇用状態そのもの」、公務の義務は未達の場合の「採用に関する計画の作成」。民間は厚生労働大臣の命令が必要(法第46条)だが、公務は条文により当然に義務が生じる。
- 公務部門の率は「障害者雇用率を下回らない率」(法第38条)。民間より低く設定することはできない。
- 分母から除かれるのは職種(警察官、自衛官その他の政令で定める職員)。民間の除外率が業種に着目するのと異なる。
- 令和8年7月1日から、国・地方公共団体3.0%、都道府県などの教育委員会2.9%。
- 障害者活躍推進計画(法第7条の3)は任命権者ごとに作成。作成・職員への周知・公表・毎年少なくとも1回の実施状況の公表はいずれも義務だが、目標の達成は努力義務(第7項)。
- 差別禁止・合理的配慮は、国家公務員は国家公務員法第27条・第71条、地方公務員は差別禁止が地方公務員法第13条、合理的配慮は促進法が適用。
- これらの規定の背景には、平成30年に明らかになった公務部門の不適切計上の問題がある。
