障害者雇用促進法|紛争解決の手続と、選任すべき2つの担当者

障害者雇用促進法|紛争解決の手続と、選任すべき2つの担当者 労働社会保険諸法令の基礎知識
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障害者雇用に関する紛争は、社内の苦情処理から都道府県労働局長の助言、そして調停へと段階を踏んで進みます。ところがこの段階設計には、条文ごとに対象範囲が違うという特徴があります。とくに募集・採用の場面をめぐる紛争は、社内で自主的に解決する枠組みが法律上用意されておらず、いきなり行政のルートに乗ります。今回は紛争解決手続の全体像と、あわせて選任が求められる2人の担当者を整理します。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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紛争解決は3層構造になっている

障害者雇用促進法が用意している解決の仕組みは、大きく3層です。

根拠条文内容義務の性質
社内(予防)法第36条の4第2項相談体制の整備その他雇用管理上必要な措置義務
社内(解決)法第74条の4苦情の自主的解決(苦情処理機関に委ねる等)努力義務
行政法第74条の6〜第74条の8都道府県労働局長の助言・指導・勧告、調停(行政の権限)

合理的配慮指針第6の5は、相談体制の整備等に当たっては、障害者である労働者の疑義の解消や「苦情の自主的な解決」に資するものであることに留意するとしています。相談体制は、この流れの上流を社内で塞ぐ機能を担っているということです。

苦情の自主的解決(法第74条の4)

事業主は、第三十五条及び第三十六条の三に定める事項に関し、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。

努力義務として規定されています。ここで注目すべきは、対象となる事項が法第35条と法第36条の3の2つに限られているという点です。

条文内容法74条の4の対象
法第34条募集・採用における差別の禁止含まれない
法第35条待遇における差別の禁止含まれる
法第36条の2募集・採用時の合理的配慮含まれない
法第36条の3採用後の合理的配慮含まれる

対象が2つの条文に限られている理由

答えは苦情処理機関の定義そのものにあります。

事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関

労使構成の社内機関である以上、まだ労働者ではない応募者の苦情を処理する枠組みにはなりません。だからこそ、募集・採用に関する法第34条と法第36条の2が除かれているわけです。条文の構造として筋が通っています。

個別労働紛争解決促進法の適用除外(法第74条の5)

第三十四条、第三十五条、第三十六条の二及び第三十六条の三に定める事項についての障害者である労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第七十四条の八までに定めるところによる。

こちらは対象が4つの条文すべてです。法第74条の4より範囲が広くなっています。

適用が除外されるのは、個別労働関係紛争解決促進法の第4条(都道府県労働局長による助言・指導)、第5条(あっせんの委任)、第12条から第19条まで(紛争調整委員会によるあっせん)です。つまり、一般の個別労働紛争で使われるあっせんのルートには乗らず、障害者雇用促進法が用意する専用のルートに乗ります。

ここから読み取れることがあります。募集・採用に関する紛争(法第34条・第36条の2)は、社内での自主的解決の枠組みを持たないまま、直接この行政ルートの対象になるということです。採用選考の場面で合理的配慮の申出にどう応じるかという判断は、社内で緩衝する仕組みがない分、慎重さが求められます。

都道府県労働局長による助言・指導・勧告(法第74条の6)

都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。

要件は「当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合」です。行政が職権で乗り出すのではなく、当事者の申立てを起点とします。労働者側からの一方的な申立てでも足ります。

なお、事業主は、障害者である労働者がこの援助を求めたことを理由として不利益な取扱いをしてはならないとされています。指針第6の4(相談をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止)と同じ思想が、行政ルートについても置かれているということです。

障害者雇用調停会議による調停(法第74条の7・第74条の8)

自主的な解決が難しく、より踏み込んだ調整が必要な場合には、障害者雇用調停会議による調停が用意されています。

法第74条の8は男女雇用機会均等法の規定を準用しており、準用される同法第19条により、調停は3人の調停委員が行います。同法第20条第1項の準用により、委員会は調停のため必要があると認めるときは、関係当事者や同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人の出頭を求め、意見を聴くことができます。

労働局長の助言・指導・勧告と調停は、いずれも都道府県労働局長または調停委員が公平な第三者として紛争の当事者の間に立ち、両当事者の納得が得られるよう解決策を提示するという性格の制度です。

「助言・指導・勧告」が2か所にある

この法律には「助言、指導又は勧告」という同じ文言の規定が2か所あり、混同されやすい箇所です。

法第36条の6法第74条の6
主体厚生労働大臣(実務上は公共職業安定所等)都道府県労働局長
相手事業主紛争の当事者
契機規定の施行に関し必要があると認めるとき当事者から援助を求められたとき
性格法令違反等事案への是正紛争解決の援助
対象条文法34条・35条・36条の2〜36条の4法34条・35条・36条の2・36条の3

法第36条の6は行政が是正を求めるもの、法第74条の6は当事者間の紛争を解決するために援助するもの、という違いです。

選任すべき2人の担当者

障害者雇用促進法は、事業主に2種類の担当者を置くことを求めています。義務の性質と選任単位が異なるため、対で押さえておく必要があります。

障害者雇用推進者障害者職業生活相談員
根拠条文法第78条第2項法第79条第2項
義務の性質努力義務(選任するよう努めなければならない)義務(選任しなければならない)
選任単位企業単位事業所単位
選任の基準障害者雇用状況報告の義務がある規模の事業主障害者である労働者が5人以上
資格要件業務を責任をもって行える地位にある者資格認定講習の修了その他省令で定める資格
主な役割社内体制・施設設備の整備、報告・届出、行政との連絡障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導
届出障害者雇用状況報告書に役職・氏名を記入管轄ハローワークに選任届

障害者雇用推進者(法第78条第2項)

障害者雇用状況報告の義務がある規模の事業主は、障害者雇用推進者を選任するよう努めなければならないとされています。担当する業務は次のとおりです。

  • 障害者の雇用の促進及びその雇用の継続を図るために必要な施設又は設備の設置・整備その他の諸条件の整備を図るための業務
  • 障害者雇用状況報告(法第43条第7項)および障害者である労働者を解雇する場合の届出(法第81条第1項)を行う業務
  • 対象障害者の雇入れに関する計画(法第46条)について命令・勧告を受けたときの、国との連絡に関する業務または計画の作成および円滑な実施を図るための業務

いずれも社内で決定権を持たなければ実行できない業務です。そのため、これらの業務を自己の判断に基づき責任をもって行える地位にある者から選任することとされており、実務上は人事労務担当の部長クラスが想定されています。名前だけ置くポストではないということです。

なお、障害者雇用状況報告書の様式には障害者雇用推進者の役職・氏名を記入する欄があります。努力義務であっても、選任状況は毎年の報告を通じて行政に把握される仕組みになっています。

障害者職業生活相談員(法第79条第2項)

事業主は、厚生労働省令で定める数以上の障害者である労働者を雇用する事業所においては、その雇用する労働者であつて、資格認定講習を修了したものその他厚生労働省令で定める資格を有するもののうちから、厚生労働省令で定めるところにより、障害者職業生活相談員を選任し、その者に当該事業所に雇用されている障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導を行わせなければならない。

この「厚生労働省令で定める数」は施行規則により5人とされています。こちらは努力義務ではなく義務です。

なお法第79条第1項は、国及び地方公共団体の任命権者について同様の義務を定めています。民間事業主に関する規定は第2項です。

資格認定講習は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が実施しており、受講は無料です。社内に要件を満たす者がいない場合は、この講習を修了させてから選任するという手順になります。

「5人」にカウント特例は使えない

実務上もっとも誤りやすいのがこの点です。ダブルカウント(重度身体障害者・重度知的障害者を2人と数える)や0.5カウント(短時間労働者)は、この5人の判定には適用されません

JEEDのQ&Aは、障害の程度(重度・軽度等)や労働時間の長短(雇用保険の被保険者か否か)等に関わらず、常時雇用している障害者の実人数が5名以上いる事業所が対象だとしています。

たとえば、重度身体障害者3人と週20時間勤務の精神障害者2人を雇用している事業所は、実雇用率上は3×2+2×1=8人分としてカウントされますが、相談員の選任義務も実人数5人として発生します。逆に、実雇用率のカウント上は5を超えていても実人数が4人であれば、選任義務は生じません。

また事業所単位である点も重要です。ここでいう事業所とは、本店・支店・工場・事務所などのように一つの経営組織として独立性をもったものを指し、雇用保険制度上の適用事業所と同様の考え方です。企業全体で障害者を10人雇用していても、5つの事業所に2人ずつ分散していれば、どの事業所にも選任義務は生じません。逆に、企業規模が小さくても1つの事業所に5人が集まっていれば義務が生じます。

補足:障害者雇用状況報告には罰則がある

紛争解決や担当者の選任とあわせて押さえておきたいのが、報告義務の罰則です。厚生労働省の障害者雇用状況報告の記入要領には、次の記載があります。

※ この報告をしない場合又は虚偽の報告をした場合は、障害者雇用促進法第86条第1号の規定により、罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。

法定雇用率の未達成そのものには罰則がなく、納付金と行政指導(雇入れ計画作成命令から企業名公表まで)で対応する仕組みになっています。これに対して、報告しないこと・虚偽の報告をすることには罰則が定められているという構造です。

あわせて、報告義務の判定人数についても正確な理解が必要です。同じ記入要領は、報告義務のある事業主を「企業全体の常用雇用労働者(除外率により除外すべき労働者を控除した数)が40.0人以上の事業主」としており、除外率設定業種(建設業・医療業・鉄道業等)では控除後の数で判定します。また、独立行政法人・公団・公庫等の一定の特殊法人については別基準(現行36.0人以上)が置かれています。

まとめ

  1. 紛争解決は、相談体制の整備(法第36条の4第2項・義務)→苦情の自主的解決(法第74条の4・努力義務)→行政の関与(法第74条の6以降)という3層構造。
  2. 法第74条の4の対象は法第35条と法第36条の3の2つだけ。苦情処理機関が労使構成の社内機関であるため、まだ労働者でない応募者に関する法第34条・第36条の2は含まれない。
  3. 法第74条の5により、個別労働関係紛争解決促進法のあっせんルートは適用除外。専用ルート(法第74条の6〜第74条の8)に乗る。対象は4条文すべてであり、募集・採用の紛争は社内での緩衝なしに行政ルートへ進む。
  4. 法第74条の6は都道府県労働局長が紛争の当事者に対し、当事者からの援助の求めに応じて行う。法第36条の6(厚生労働大臣が事業主に対して行う是正)とは別物。
  5. 調停は障害者雇用調停会議が行い、3人の調停委員による(法第74条の8で準用する均等法第19条)。
  6. 障害者雇用推進者(法第78条第2項)は努力義務・企業単位、障害者職業生活相談員(法第79条第2項)は義務・事業所単位・障害者5人以上
  7. 相談員の「5人」は実人数。ダブルカウント・0.5カウントは適用されない。

実務としてまず確認すべきは、事業所ごとの障害者の実人数です。企業全体の実雇用率だけを見ていると、特定の事業所に障害者が集まっていて相談員の選任義務が発生していることに気づけません。逆に、実雇用率のカウント上は達成していても実人数が4人以下であれば義務は生じません。実雇用率の管理台帳とは別に、事業所別・実人数の一覧を持っておくのが確実です。

なお、この章(第三章の二 紛争の解決)の規定は、法第85条の3により国家公務員及び地方公務員には適用されません。地方公務員には合理的配慮の提供義務(法第36条の3)が適用されるにもかかわらず、その紛争についてはここで扱った苦情の自主的解決・都道府県労働局長の助言指導勧告・調停のいずれも使えず、人事委員会・公平委員会等の公務員法制の枠組みで対応することになります。