障害者雇用促進法|障害者雇用状況報告(ロクイチ報告)・雇入れ計画作成命令・企業名公表

障害者雇用促進法|障害者雇用状況報告(ロクイチ報告)・雇入れ計画作成命令・企業名公表 労働社会保険諸法令の基礎知識
この記事は約6分で読めます。

障害者雇用率が未達成であっても、その日のうちに企業名が公表されるわけではありません。障害者雇用促進法は、報告→計画作成→勧告→公表という段階を踏んだ行政指導の仕組みを持っています。今回は、この一連のプロセスを条文の順番に沿って整理します。自社が今どの段階にあるか、あるいはどの段階まで進む可能性があるかを把握しておくことは、37.5人以上への対象拡大を控えた今、実務上の意味が大きくなっています。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
-----------------
博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
-----------------
医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
-----------------
オンライン相談(Zoom)で全国対応
まずは無料相談(30分)から
【無料相談お申し込み】

\【就業規則ラボ】就業規則の知識を毎日お届け!フォローすると労務リスクに強くなります/

出発点:障害者雇用状況報告(法第43条第7項)

すべての行政指導の起点になるのが、通称「ロクイチ報告」です。法第43条第7項は、事業主に対し、対象障害者である労働者の雇用に関する状況を、毎年、厚生労働大臣に報告することを義務づけています。

  • 報告基準日:毎年6月1日現在の状況
  • 提出期限:原則7月15日(令和8年も同様に7月15日)
  • 報告義務のある事業主:法定雇用障害者数が生じる規模の事業主

ここで見落とされがちなのが、雇用している障害者数が0人であっても報告義務があるという点です。「障害者を雇っていないから報告書は関係ない」という判断は誤りで、対象規模の事業主であれば、ゼロという結果自体を報告する義務があります。

2026年の報告は、まだ2.5%・40.0人基準

Day321で扱ったとおり、法定雇用率は2026年7月1日から2.7%に、対象事業主の範囲は37.5人以上に引き上げられます。しかし、2026年6月1日時点のロクイチ報告は、この新基準を使いません。報告はあくまで基準日時点の制度に基づくため、2026年6月1日時点では現行の2.5%・40.0人以上が基準です。2.7%・37.5人以上を前提とした報告が始まるのは、2027年6月1日時点分からになります。

37.5人〜40人未満の企業は、2026年7月から雇用義務そのものは発生しているものの、ロクイチ報告の対象に入るのは1年後という、義務発生と報告義務の間に時差がある状態になります。

不足が続くと:雇入れ計画作成命令(法第46条第1項)

ロクイチ報告の結果、法定雇用障害者数に対して不足数・実雇用率が一定の基準を下回っていると判断された事業主に対しては、厚生労働大臣が雇入れ計画の作成を命じることができます。

厚生労働大臣は、対象障害者の雇用を促進するため必要があると認める場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が法定雇用障害者数未満である事業主に対して、対象障害者である労働者の数がその法定雇用障害者数以上となるようにするため、厚生労働省令で定めるところにより、対象障害者の雇入れに関する計画の作成を命ずることができる。

計画期間は原則2年間です。令和5年度の実績では、219社がこの雇入れ計画作成命令の対象となっています。

計画の中身が悪ければ:変更勧告(法第46条第5項)

厚生労働大臣は、作成された雇入れ計画が著しく不適当であると認めるときは、計画の変更を勧告することができます。ここでの着眼点は「計画そのものの中身」です。実現可能性のない計画、実効性を欠く計画などが対象になります。

計画の実行が伴わなければ:適正実施勧告(法第46条第6項)

計画自体には問題がなくても、その実施が伴っていない場合には、厚生労働大臣が計画の適正な実施に関し勧告をすることができます。実務上は、計画1年目の12月時点の雇用状況を見て、計画どおりに進んでいるかを確認し、進んでいなければこの勧告が発出される、という運用になっています。

5項と6項の違いを整理すると、次のとおりです。

法46条第5項法46条第6項
着眼点計画の内容が著しく不適当計画の実施状況が不十分
タイミング計画作成直後計画実施中(1年目終了時点など)
キーワード「著しく不適当」「適正な実施」

令和5年度実績では、63社が適正実施勧告の対象となっています。

実務上の中間段階:特別指導

条文上に明記された制度ではありませんが、実務上は雇入れ計画の2年間が終了した後の状況に応じて「特別指導」という段階が置かれています。実雇用率が全国平均を下回り、かつ不足数が10人以上の企業が対象です。令和5年度は33社がこの特別指導を受けています。ハローワークからの雇用事例の提供や助言、求職情報の提供など、実際に雇用を進めるための支援と指導が行われる段階です。

最終段階:企業名公表(法第47条)

厚生労働大臣は、雇入れ計画を作成した事業主が、正当な理由なく、法46条5項又は6項の勧告に従わないときは、その旨を公表することができます。

厚生労働大臣は、前条第一項の計画を作成した事業主が、正当な理由がなく、同条第五項又は第六項の勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。

ここで押さえておきたいのは、公表の要件は「勧告への違反」そのものではなく、「正当な理由なく勧告に従わないこと」である点です。改善の努力をしていても結果が伴っていないケースと、勧告そのものを無視しているケースとでは、扱いが異なり得るということです。

令和5年度の実績では、企業名公表の対象は1社(再公表)でした。219社の雇入れ計画作成命令から始まり、最終的な公表に至るのはごく一部です。

一度公表されても終わりではない:再公表

過去の公表事例を見ると、「雇入れ計画の適正実施勧告を行ったにもかかわらず、障害者の雇用状況に改善が見られない場合」に企業名が公表されると明記されています。公表後も指導は継続され、改善が見られなければ「再公表」という形で名前が残り続けます。逆に、公表後に改善が認められれば、その後の公表対象からは外れます。企業名公表は一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスの一部だということです。

指導プロセス全体の流れ

毎年6月1日      ロクイチ報告(法43条7項)
 ↓
不足数・実雇用率が基準以下
 ↓
雇入れ計画作成命令(法46条1項、原則2年計画)
 ↓
計画の中身が著しく不適当 → 変更勧告(法46条5項)
計画1年目終了時に未達   → 適正実施勧告(法46条6項)
 ↓
特別指導(実雇用率が全国平均未満かつ不足数10人以上)
 ↓
正当な理由なく勧告に従わない → 企業名公表(法47条)
 ↓
改善なし → 再公表

令和5年度実績(雇入れ計画作成命令219社→適正実施勧告63社→特別指導33社→企業名公表1社)を見ると、段階を経るごとに対象は大きく絞られています。最終的な企業名公表に至る企業はごくわずかですが、そこに至るまでの各段階自体が、企業にとっては相応のプレッシャーとして機能しています。

まとめ

  1. すべての起点はロクイチ報告(法43条7項)。毎年6月1日時点の状況を、原則7月15日までに報告する。雇用者0人でも報告義務はある。
  2. 2026年6月1日時点の報告は、まだ現行の2.5%・40.0人基準。2.7%・37.5人基準での報告は2027年6月1日時点分から。
  3. 不足が続けば雇入れ計画作成命令(法46条1項、原則2年計画)。
  4. 計画の中身が悪ければ変更勧告(46条5項)、実施が伴わなければ適正実施勧告(46条6項)。
  5. 正当な理由なく勧告に従わなければ企業名公表(法47条)。改善なければ再公表。

37.5人〜40人未満の企業は、義務の発生(2026年7月)と報告義務の発生(2027年6月分から)の間に約1年のタイムラグがあります。この期間を「報告が来ないから急がなくてよい」ではなく、「報告が始まる前に態勢を整える猶予期間」として活用できるかどうかが、その後の指導プロセスに乗るかどうかの分かれ目になります。