障害者雇用促進法には、法定雇用率の適用を業種ごとに軽減する「除外率制度」があります。医療業・鉄道業・建設業など特定の業種では、常用労働者数から一定割合を控除したうえで法定雇用障害者数を計算してよいことになっています。2025年4月、この除外率が全業種一律10ポイント引き下げられました。今回はこの除外率制度の位置づけと、あわせて実務でよく相談を受ける特例子会社まわりの制度を整理します。
除外率制度の根拠は「本則」ではなく「附則」
除外率制度の法的根拠は、障害者雇用促進法の附則第3条第2項です。
第四十三条の規定の適用については、当分の間、同条第一項中「その雇用する労働者の数」とあるのは「その雇用する労働者の数(除外率設定業種(対象障害者が就業することが困難であると認められる職種の労働者が相当の割合を占める業種として厚生労働省令で定める業種をいう。以下同じ。)に属する事業を行う事業所の事業主にあつては、その雇用する労働者の数から、当該事業所に係る除外率設定業種ごとの労働者の数に当該除外率設定業種に係る除外率…を乗じて得た数…を合計した数を控除した数…)」とする。
法本体(第43条)を直接書き換える条文ではなく、「当分の間」、附則によって第43条の適用を読み替えるという構造になっています。この「附則に置かれている」という点自体が、除外率制度の性格を物語っています。
平成14年改正で「廃止」が決定していた
除外率制度は、恒久的な制度として設計されたものではありません。平成14年の障害者雇用促進法改正の際、ノーマライゼーション(障害の有無にかかわらず、誰もが同じように生活し、社会に参加できる社会を目指すという考え方)の観点から、将来的な廃止が決定されています。「対象障害者の就業が困難な職種が多い業種を、丸ごと計算対象から除く」という発想そのものが、この理念とそぐわないと整理されたためです。
もっとも、急激な変化は現場に大きな負担を強いるため、当分の間、除外率設定業種ごとに除外率を設定しつつ、段階的に縮小していく経過措置という形が取られました。これが附則第3条第2項です。具体的な業種と除外率は、施行規則別表第4に定められています。
引下げの経緯|今回で3回目
除外率の引下げは、これまでに3回実施されています。
| 実施時期 | 内容 |
|---|---|
| 平成16年4月 | 一律10ポイント引下げ(1回目) |
| 平成22年7月 | 一律10ポイント引下げ(2回目) |
| 令和7年4月 | 一律10ポイント引下げ(3回目) |
令和7年4月の改正は、令和5年厚生労働省令第16号による施行規則別表第4の改正として実施されました。除外率が10%以下だった業種は、この引下げにより除外率制度の対象外(つまり除外なし=一般の業種と同様の扱い)になっています。
現在の除外率(令和7年4月〜)
| 除外率 | 業種例 |
|---|---|
| 5% | 非鉄金属第一次製錬・精製業、貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) |
| 10% | 建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業(信書便事業を含む) |
| 20% | 鉄道業、医療業、高等教育機関、介護老人保健施設、介護医療院 |
| 35% | 特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) |
影響の試算|医療業800人の事業所を例に
除外率20%が適用される医療業で、常用労働者800人の事業所を考えます。
- 2025年3月まで(除外率30%):800人×(1−30%)=560人が計算対象
- 2025年4月以降(除外率20%):800人×(1−20%)=640人が計算対象
計算対象となる労働者数が80人増えるため、法定雇用障害者数もその分増加します。医療・介護・教育・運輸など、除外率設定業種に該当する事業主ほど、今回の引下げによる実務的なインパクトが大きいということです。
今後の見通し
平成14年改正の時点で決まっているのは「廃止の方向で段階的に縮小する」という方針だけで、廃止時期や次回の引下げ時期は決まっていません。平成16年→平成22年(6年)、平成22年→令和7年(15年)と、実施間隔は社会情勢に応じて伸縮してきました。「いつかは0%になる」という方向性のみが確定している以上、除外率設定業種に該当する顧問先には、除外率は今後も縮小方向にしか動かない前提で採用計画を立てるようお伝えするのが実務的です。
特例子会社と算定特例|4つの制度を条文順に整理する
除外率制度とあわせて、実務でよく相談を受けるのが「グループ会社で障害者雇用を通算できないか」という相談です。法定雇用率は事業主(法人)単位で課されるのが原則ですが、法第44条から第45条の3にかけて、4つの特例制度が用意されています。この4つは名称が似ているため、条文単位で正確に整理しておく必要があります。
法第44条|特例子会社
一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認定を受けた子会社を設立した場合、その子会社に雇用されている労働者は、親会社に雇用されているものとみなされ、子会社の事業所は親会社の事業所とみなされます。障害者の受け入れに配慮した独自の労働条件・職場環境を子会社側で整えられる点が、この制度の実務的なメリットです。
法第45条|関係会社特例(グループ適用)
特例子会社を有する親会社について、意思決定機関を支配する関係にある他の関係会社も含めて、実雇用率を通算できる制度です。特例子会社の存在が適用の前提になります。
法第45条の2|企業グループ算定特例
特例子会社がなくても、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受ければ、企業グループ全体で実雇用率を通算できる制度です。平成21年4月に創設されました。グループ内に障害者雇用を進めやすい会社がある場合、わざわざ特例子会社を新設しなくても、既存の体制を活かして通算できます。ただし、認定を受けるグループ内のすべての会社が対象となり、各社が実雇用率1.2%以上を満たしている必要があるなど、法45条のグループ適用より要件は厳格です。
法第45条の3|事業協同組合等算定特例
中小企業が単独では取り組みにくい障害者雇用を、事業協同組合等(事業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合、商店街振興組合)を通じて共同で実施する場合の特例です。事業協同組合等と、その組合員である「特定事業主」との間で実雇用率を通算できます。特例子会社・企業グループ算定特例が主に大企業グループを想定しているのに対し、こちらは中小企業を主な対象とした制度です。
整理表
| 法44条 特例子会社 | 法45条 関係会社特例 | 法45条の2 企業グループ算定特例 | 法45条の3 事業協同組合等算定特例 | |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 個別の子会社 | 特例子会社を有する親会社+関係会社 | 企業グループ全体 | 事業協同組合等+組合員である中小企業 |
| 特例子会社の要否 | (制度そのもの) | 必要 | 不要 | 不要 |
| 法的仕組み | 子会社の雇用を親会社の雇用とみなす | 関係会社の雇用も親会社に通算 | 認定グループ内で通算 | 組合と組合員企業間で通算 |
| 制度創設時期 | 昭和62年改正 | 昭和62年改正 | 平成21年4月 | 平成21年4月 |
実務上、最も混同されやすいのは法45条と法45条の2の違いです。いずれも複数事業主間の通算という点は共通していますが、特例子会社を有することが前提かどうかで条文が分かれます。「特例子会社がなくても使えるグループ通算」を案内する際に、誤って法45条を挙げてしまう例は少なくありません。
まとめ
- 除外率制度の根拠は、法本則ではなく附則第3条第2項(経過措置)。
- 平成14年改正で将来的な廃止が決定しており、段階的縮小の途中にある。
- 引下げは平成16年4月・平成22年7月・令和7年4月の3回。いずれも一律10ポイント。
- 除外率10%以下だった業種は、今回の引下げで制度の対象外になった。
- 特例子会社(法44条)・関係会社特例(法45条・特例子会社が前提)・企業グループ算定特例(法45条の2・特例子会社不要)・事業協同組合等算定特例(法45条の3・中小企業向け)の4制度は、条文番号と要件をセットで押さえる必要がある。
除外率設定業種に該当する顧問先には今回の引下げによる法定雇用障害者数の再計算を、グループ経営の顧問先には特例子会社によらない通算の選択肢として法45条の2の可能性を、それぞれ案内する価値があります。
