障害者雇用促進法の「二段構造」|「障害者」と「対象障害者」は何が違うのか

障害者雇用促進法の「二段構造」|「障害者」と「対象障害者」は何が違うのか 労働社会保険諸法令の基礎知識
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2026年7月1日、民間企業の障害者法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられました。新たに義務の対象となった企業からのご相談も増えています。しかしその手前で、実務上いちばん多い誤解は「手帳を持っていない社員は障害者雇用促進法の対象外」というものです。これは半分正しく、半分間違いです。この記事では、障害者雇用促進法シリーズの初回として、法律の骨格と「障害者」の定義を確認します。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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目的規定に3本柱がすべて書かれている(法第1条)

法第1条は、次の措置を総合的に講じ、もって障害者の職業の安定を図ることを目的とすると定めています。

  • 障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置
  • 雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保のための措置
  • 障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置
  • 職業リハビリテーションの措置

この一文に、本法の3本柱が凝縮されています。

  1. 雇用義務(雇用率・納付金)
  2. 差別禁止・合理的配慮
  3. 職業リハビリテーション

「身体障害者又は知的障害者」が消えた意味

かつての法第1条は「身体障害者又は知的障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等」と書かれていました。精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えた平成25年改正(平成30年4月1日施行)に伴い、単に「障害者の」と改められています。条文の主語の変化が、そのまま制度の拡大の歴史になっています。

「障害者」の定義(法第2条第1号)

法第2条第1号は、「障害者」を次のように定義しています。

身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者

着眼点は3つです。

  • 「その他の心身の機能の障害」 — 身体・知的・精神の3類型に限定されていません。難病や高次脳機能障害なども入りうる、広い受け皿になっています。
  • 「長期にわたり」 — 一時的な負傷・疾病は含まれません。
  • 障害者手帳の所持は要件になっていない — ここが最重要です。

法第2条の入れ子構造

用語定義の置き場所
1号障害者法律本体
2号身体障害者法律本体(別表に掲げる障害)
3号重度身体障害者厚生労働省令
4号知的障害者厚生労働省令
5号重度知的障害者厚生労働省令
6号精神障害者厚生労働省令
7号職業リハビリテーション法律本体

身体障害者だけが法律本体の「別表」で定義され、知的障害者・精神障害者は厚生労働省令に委任されています。この非対称は、昭和35年に「身体障害者雇用促進法」としてスタートした立法の沿革の名残です。

また、「重度」という概念は身体障害と知的障害にしか存在しません(精神障害に「重度」はない)。これは実雇用率のダブルカウントの話に直結します。

「対象障害者」(法第37条第2項)

一方、雇用義務の章(第3章「対象障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等」)では、別の用語が使われます。

身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る。)

これが「対象障害者」です。雇用率制度・納付金制度が動くのは、この対象障害者だけです。

本法は「二段構造」になっている

ここまでを整理すると、障害者雇用促進法は、ひとつの法律の中に対象者の範囲が異なる2つの層を持っていることが分かります。

障害者(法2条1号)対象障害者(法37条2項)
障害者手帳不要必要(身体障害者手帳/療育手帳/精神障害者保健福祉手帳)
範囲難病・高次脳機能障害・手帳未取得の発達障害等を含む身体・知的・精神の3類型に限定
かかる規定差別禁止(法34条・35条)、合理的配慮(法36条の2〜36条の4)、職業リハビリテーション(法8条〜)雇用義務(法43条)、納付金・調整金(法53条〜)、障害者雇用状況報告(法43条7項)
判断の方法事業主が個別に判断手帳等で形式的に確認

つまり、冒頭の「手帳を持っていない社員は対象外」という理解は、雇用率の話としては正しく、合理的配慮の話としては誤りです。手帳のない発達障害の社員を実雇用率にカウントすることはできませんが、その社員に対する合理的配慮の提供義務は、法第36条の3により事業主にかかります。実務ではこの混同が非常に多く、「カウントできないから何もしなくてよい」という判断が紛争の入口になります。

理念と責務(法第3条〜第6条)

  • 法第3条(基本的理念) 障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるものとする。
  • 法第4条 障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。
  • 法第5条(事業主の責務) 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。
  • 法第6条(国及び地方公共団体の責務) 自ら率先して障害者を雇用するとともに、障害者の福祉に関する施策との有機的な連携を図りつつ、必要な施策を総合的かつ効果的に推進するよう努める。

法第5条は令和5年4月1日施行の改正で「職業能力の開発及び向上に関する措置」が追加されました。「雇う」だけでなく「育てる」ことまで事業主の責務に含めた改正であり、雇用率の数合わせで終わらせないという政策意思がここに表れています。

沿革の骨格

出来事
昭和35年身体障害者雇用促進法として制定(雇用率は努力義務)
昭和51年身体障害者の雇用を法的義務化、納付金制度創設(雇用率1.5%)
昭和62年現名称に改称、適用対象を知的障害者・精神障害者を含む全ての障害者に拡大
平成9年知的障害者の雇用が義務化
平成18年精神障害者(手帳所持者)を実雇用率にカウント可能に
平成28年4月差別禁止・合理的配慮の規定が施行
平成30年4月精神障害者を法定雇用率の算定基礎に追加
令和6年4月法定雇用率2.5%へ
令和8年7月法定雇用率2.7%へ(対象は37.5人以上)

今後の動向|二段構造は維持される見込み

2025年10月末に開催された「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」において、厚生労働省は、障害者手帳を所持していない精神障害者・発達障害者について、引き続き雇用率制度の対象外とする方針を固めています。手帳を所持しない理由として「必要性を感じない」が最多であったこと等が判断理由として挙げられました。

あわせて、精神障害者保健福祉手帳(有効期間2年)を更新できなかった場合に、今後も雇用される見込みであれば一定期間は従来どおり雇用率に算定できるようにする方向も示されています。

つまり、二段構造そのものは維持したうえで、「手帳の更新切れ」という運用上の断層だけを埋めにいく整理です。実務側から見れば、手帳の有効期限管理をどう仕組み化するかが新たな論点になります。手帳のコピーを取って終わりではなく、更新時期を管理する台帳と、更新前後の声かけ手順まで含めて設計しておく必要があります。

まとめ

  1. 法第1条の目的規定には「雇用義務」「差別禁止・合理的配慮」「職業リハビリテーション」の3本柱がすべて書かれている。
  2. 法第2条第1号の「障害者」に手帳の所持は要件でない。難病等も含む広い定義である。
  3. 法第37条第2項の「対象障害者」は手帳所持者に限られ、雇用率・納付金が動くのはこちらだけ
  4. したがって本法は二段構造。手帳がなくても、合理的配慮の提供義務はかかる。
  5. 「重度」概念は身体障害と知的障害にのみ存在する(精神障害にはない)。

法定雇用率2.7%への対応は、まず「自社の実雇用率がいくつか」の計算から始まります。しかしその隣に、カウントには乗らないけれども配慮義務の対象となる社員がいる、という視点を同時に持てるかどうかがポイントです。