カスタマーハラスメントの事後対応|事実確認・被害者配慮・再発防止を解説(措置義務の第3の柱)

カスタマーハラスメントの事後対応 労働社会保険諸法令の基礎知識
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相談が上がってきた後、会社は何をするのか。指針は3段構えで定めています。事実を確かめ、被害者を守り、再発を防ぎます。この記事ではそのうち、いちばん見落とされやすい部分、すなわち、事実が確認できなかった場合の扱いにも触れます。

なお、以下の条番号は令和8年10月1日施行後のものです。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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事後対応は3段構えです

指針4⑶の柱書はこう始まります。

事業主は、カスハラに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。

中身は3つに分かれます。

内容発動する場面
事実関係を迅速かつ正確に確認する相談の申出があったとき
被害者に対する配慮のための措置事実が確認できたとき
再発防止に向けた措置確認できたときも、できなかったときも

ロとハで発動の条件が違う点に注目してください。ここが今回のポイントです。

イ:事実関係の確認

まず事実を確かめます。認められる例として、指針は3つを挙げています。

① その場で管理監督者等が確認する

前回扱った「あらかじめ定めた対処の内容」を踏まえ、管理監督者等がその場で事実関係を確認し対応することです。

カスハラは現場で起きます。後から調査するより、その場で押さえるほうが確実です。だから事後対応の第一手は、現場の管理監督者が担う設計になっています。

② 窓口や関係部門が確認する

相談窓口の担当者、関係部門または専門の委員会等が、相談者から事実関係を確認します。

このとき、指針は3つの配慮を求めています。

  • 相談者の心身の状況や、その言動が行われた際の受け止めなど、その認識にも適切に配慮すること
  • 必要に応じて、周囲の労働者からも事実関係を聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりすること。証拠を確認するに当たっては個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと
  • 必要かつ可能な場合には、行為者からも事実関係を聴取することも考えられること

3つ目の書き方に注意してください。「必要かつ可能な場合には」「考えられる」という表現です。

カスハラの行為者は社外の人間です。名前も連絡先も分からないことがあります。聴取が必須ではないのは、この現実を踏まえたものでしょう。

③ 確認が困難なときは第三者に委ねる

事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第37条に基づく調停の申請を行うこと、その他中立な第三者機関に紛争処理を委ねることです。

法第37条(改正後の条番号。現行法の第30条の6に相当)の調停は、都道府県労働局の紛争調整委員会によるものです。事実確認が難しい場合の出口として、指針が正面から挙げています。

行為者が他社の社員だったら

BtoB取引では、これがいちばん現実的な場面です。

指針では、行為者が他の事業主が雇用する労働者、または他の事業主(法人の場合はその役員)である場合には、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認への協力を求めることも含まれる、と示されています。

協力を求められた側にも、法第33条第3項により、協力の求めに応ずるよう努める義務があります。

ロ:被害者への配慮

事実が確認できた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行います。

① その場での措置

あらかじめ定めた対処の内容を踏まえ、事案の内容や状況に応じ、管理監督者等が被害者に代わって対応すること、被害者と行為者を引き離すこと等の措置を講じます。

あわせて、暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報します。

② その後の措置

事案の内容や状況に応じ、次のような措置が挙げられています。

  • 行為者に対応する担当者の変更、または複数人で対応すること
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 管理監督者または事業場内産業保健スタッフ等による、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応

あわせて、犯罪に該当し得る言動については警察へ通報すること、法的な手続が必要な場合には法務部門等と連携し弁護士へ相談することも考えられるとされています。

③ 紛争解決案に従った措置

法第37条(令和8年10月1日施行後の条番号です)の調停は、都道府県労働局の紛争調整委員会によるもので、調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を、被害者に対して講じることです。

ハ:再発防止

3段目が再発防止です。ここがいちばん重要な部分を含んでいます。

指針は次のように定めています。

改めてカスハラに関する方針を周知・啓発し、必要な場合には、カスハラの発生の原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や、顧客等とのコミュニケーションの不足などの改善を図る等の再発防止に向けた措置を講ずること。

あわせて次の3つが挙げられています。

  • 必要に応じて、接客等における慣行の見直しなどの職場環境の改善や組織風土の見直しを行うことも考えられる
  • 必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられる
  • 行為者が他の事業主が雇用する労働者等である場合には、必要に応じて、他の事業主に再発防止に向けた措置への協力を求めることも含まれる

確認できなかった場合も同じことをします

そして、この一文です。

また、職場におけるカスタマーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。

つまり「事実が確認できなかったので何もしない」は認められません。

カスハラは、相手が社外で、証拠も残りにくい類型です。事実確認が困難な事案は必ず一定数生じます。それを前提に、方針の再周知と原因の分析は事案の成否にかかわらず行うよう求めているのです。

パワハラの事後対応との違い

すでにパワハラ対策をしている会社なら、比較すると構造が見えます。

パワハラ指針4⑶カスハラ指針4⑶
イ 事実関係の確認イ 同じ(他社への協力要請が加わる)
ロ 被害者への配慮ロ 同じ
行為者に対する措置なし
ニ 再発防止ハ 再発防止

パワハラでは、行為者を懲戒処分にするなどの措置が柱のひとつです。カスハラにはこれがありません。行為者が社外の人間だからです。

では、行為者に対しては何もしないのでしょうか。そうではありません。次回扱う「⑷抑止のための措置」が、独立した柱として置かれています。行為者への働きかけを事後対応の一部ではなく別建てにしたのが、カスハラ指針の特徴です。

まとめ

  • 事後対応はイ事実確認、ロ被害者への配慮、ハ再発防止の3段構えです
  • 第一手は、その場の管理監督者による確認と対応です。あらかじめ定めた対処の内容が前提になります
  • 行為者からの聴取は「必要かつ可能な場合」に限られます
  • 事実確認が困難な場合は、法第37条に基づく調停という出口があります
  • 被害者への配慮は、事実が確認できた場合に行います
  • 再発防止は、事実が確認できなかった場合にも同様に講じる必要があります
  • 行為者が他社の社員等である場合は、事実確認と再発防止の両方で協力を求めることができます

相談受付票と対応記録票の様式を整備しておきましょう。