確定申告をしたかどうかで、75歳以上の人の保険料や窓口負担割合が変わる。この不公平を正すため、令和8年の改正法で新しい仕組みが設けられました。金融機関から後期高齢者医療広域連合へ情報が届くようになります。どんな情報が、どこから、いつから使われるのかを、改正法の要綱をもとに整理します。
改正法の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法律名 | 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号) |
| 成立 | 令和8年5月29日 |
| 公布 | 令和8年6月5日 |
この法律には、OTC類似薬の薬剤給付の見直しや出産に関する給付の見直しなど、多くの改正が含まれています。後期高齢者医療の金融所得に関する部分は、そのうちの一つです。
新しい仕組み
改正法の法律案要綱(第5の6)では、次の仕組みが定められています。
| 番号 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 金融機関などは、租税特別措置法第37条の11の3第7項の報告書等に記載すべき事項のうち厚生労働省令で定めるものを、電子情報処理組織を使う方法などで後期高齢者医療広域連合に報告しなければならない |
| 2 | 報告書等を一定の方法で税務署に提出した場合は、その提出の日に1の報告がされたものとみなす |
| 3 | 広域連合は、報告の受理などを指定法人に委託できる |
これまでは「本人の確定申告 → 住民税 → 市町村」という流れでしか所得を把握できませんでした。改正後は「金融機関 → 広域連合」という流れが加わります。
使われる報告書とは
要綱にある「租税特別措置法第37条の11の3第7項の報告書」は、金融機関が特定口座ごとに作成して税務署に提出する報告書です。一般に「特定口座年間取引報告書」と呼ばれています。
この報告書には、次のような事項が記載されます。
- 特定口座を開設した人の氏名・住所
- その年に特定口座で処理された上場株式等の譲渡の対価の額、取得費の額、譲渡に要した費用の額
- 譲渡に係る所得の金額
- 特定口座に受け入れた上場株式等の配当等の額
このうち、どの事項を広域連合に報告するかは、厚生労働省令で決まります。対象が配当だけになるのか、譲渡益も含むのかといった細かな範囲は、省令を待つ必要があります。
本人の手間は増えない
厚生労働省は、対象となる金融所得は金融機関などが提出する法定調書を活用して把握し、個人の事務負担が増えることはないと説明しています。
被保険者が新たに申告をする必要はありません。
NISAは対象外
非課税のNISAは、反映の対象外です。NISA口座で受け取った配当や売却益は、改正後も保険料や窓口負担割合の判定に使われません。
施行時期
金融所得を反映する部分の施行期日は、「公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日」です。
公布日は令和8年6月5日なので、遅くとも令和13年6月4日までに始まります。具体的な日は、今後政令で決まります。
金融機関や広域連合のシステムを整える必要があるため、実際に反映されるのは数年先になる見込みです。民間の解説では、2029年から2030年ごろとする見方が出ています。
国民健康保険はどうなるのか
今回、金融所得を反映する仕組みが設けられたのは、後期高齢者医療です。
国民健康保険については、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で、賃金をもとに保険料を決める被用者保険とのバランスや、地方公共団体のシステムの標準化のスケジュールに留意する必要があるとされました。今回の改正では対象になっていません。
今と改正後の比較
| 今(施行前) | 改正後 | |
|---|---|---|
| 申告不要を選んだ上場株式の配当・譲渡益 | 保険料・窓口負担に反映されない | 金融機関の報告をもとに反映される(具体的な事項は省令で決まる) |
| 情報の流れ | 本人の確定申告 → 住民税 → 市町村 | 金融機関 → 広域連合 |
| 本人の手続 | 確定申告をするかどうかを選ぶ | 新たな手続はない |
| NISA | 反映されない | 引き続き対象外 |
顧問先から質問されたときは
役員や従業員の親などから「株の配当で保険料が上がるのか」と聞かれることがあるかもしれません。今の時点では、改正法は成立していますが、金融所得を反映する部分はまだ始まっていません。「成立はしているが、施行は数年先」と伝えるのが正確です。
まとめ
- 令和8年の改正法で、金融機関が後期高齢者医療広域連合に情報を報告する仕組みが設けられました。
- 情報源は、特定口座の年間取引報告書に記載される事項のうち、厚生労働省令で定めるものです。
- 本人に新たな手続は求められず、NISAは対象外です。
- 施行は、遅くとも令和13年6月4日まで。具体的な日は政令で決まります。
- 国民健康保険は、今回の改正の対象になっていません。
