入院したときの食事代は、医療費とは別に請求されます。なぜ療養の給付に含まれないのか。国民健康保険法第36条第2項は5つの療養を療養の給付から除いていますが、それらが保険の対象外になるわけではありません。別の給付が用意されているからです。令和8年6月には食事代の自己負担も上がりました。
療養の給付から除かれた5つは、どこへ行くのか
法第36条第2項は、食事療養・生活療養・評価療養・患者申出療養・選定療養の5つを療養の給付に含まれないものとしています。
除かれた5つは、次の3つの給付が対応します。
| 除かれるもの | 対応する給付 | 条文 |
|---|---|---|
| 食事療養 | 入院時食事療養費 | 法第52条 |
| 生活療養 | 入院時生活療養費 | 法第52条の2 |
| 評価療養 | 保険外併用療養費 | 法第53条 |
| 患者申出療養 | 同上 | 同上 |
| 選定療養 | 同上 | 同上 |
給付の器が変わるだけで、保険給付の対象であることに変わりはありません。
これに加えて、療養費、訪問看護療養費、移送費があります。あわせて6つの給付を順に見ていきます。
①入院時食事療養費(法第52条)
被保険者が保険医療機関等に入院し、食事療養を受けたときに支給されます。
支給額は、食事療養に要した費用の額から、食事療養標準負担額を控除した額です。標準負担額が患者の自己負担部分になります。
平成6年10月に創設された制度で、それまで療養の給付の一部だった食事に関する給付が、入院時食事療養費として切り出されました。在宅で療養する人も食費は自分で負担しているのだから、入院している人にも一定の負担を求めるべきだ、という考え方によるものです。
平成18年4月からは、1日単位だった計算が1食単位に変わりました。
令和8年6月1日から1食550円に
物価高騰を受けて、標準負担額が引き上げられています。
| 適用時期 | 一般の標準負担額 |
|---|---|
| 令和6年5月まで | 1食460円 |
| 令和6年6月から | 1食490円 |
| 令和7年4月から | 1食510円 |
| 令和8年6月から | 1食550円 |
住民税非課税世帯など、所得区分等に応じてこれより低い額も定められています。令和8年6月の改定では、こうした区分について1食20円から30円の引き上げが行われました。
なお入院時食事療養費は現物給付化されているため、患者が窓口で支払うのは標準負担額だけです。いったん全額を払って請求する必要はありません。
②入院時生活療養費(法第52条の2)
療養病床に入院する65歳以上の被保険者(条文上は特定長期入院被保険者)が、生活療養を受けたときに支給されます。
生活療養は2つの要素からなります。
| 内容 | |
|---|---|
| ① | 食事の提供たる療養 |
| ② | 温度、照明及び給水に関する適切な療養環境の形成たる療養 |
②が、いわゆる居住費です。食費に加えて居住費も自己負担するのが、入院時食事療養費との一番の違いになります。
どちらが適用されるかの分かれ目
| 対象 | 自己負担 | |
|---|---|---|
| 入院時食事療養費 | 一般病床・精神病床・療養病床に入院する65歳未満の者 | 食費のみ |
| 入院時生活療養費 | 療養病床に入院する65歳以上の者 | 食費+居住費 |
分かれ目は「療養病床かどうか」と「65歳以上かどうか」の両方です。65歳以上でも一般病床に入院していれば、食事療養費のほうが適用されます。
居住費まで負担を求めるのは、介護保険施設の入所者との均衡を図るためです。同じような状態の人が、療養病床にいるか介護施設にいるかで負担が大きく変わるのは不公平だ、という発想によります。
令和8年6月1日からは、食費が1食につき、居住費が1日につき引き上げられました。
③保険外併用療養費(法第53条)
評価療養・患者申出療養・選定療養を受けたときに支給されます。
日本の医療保険は、保険診療と保険外診療を組み合わせること(いわゆる混合診療)を原則として認めていません。全額自己負担になるのが原則です。
その例外として、この3類型については保険が適用される部分を保険外併用療養費として給付し、上乗せ部分だけを特別の料金として自己負担する仕組みが置かれています。
3類型の違い
| 内容 | 例 | |
|---|---|---|
| 評価療養 | 将来的な保険導入のための評価を行うもの | 先進医療、薬事承認後で保険収載前の医薬品の使用 |
| 患者申出療養 | 患者の申出を起点として、未承認薬等を迅速に使えるようにするもの | 患者申出療養として承認された療養 |
| 選定療養 | 患者の選定に係るもの。保険導入を前提としない | 差額ベッド、予約診療、時間外診療、200床以上の病院の初診・再診、長期収載品の選択 |
保険導入を前提とするかどうかが、評価療養・患者申出療養と選定療養の違いです。選定療養は患者の選択によるアメニティや利便性であり、保険に入れる想定がありません。
令和8年法律第31号で創設される一部保険外療養(OTC類似薬に係る仕組み)も、この保険外併用療養費制度の枠組みの中に位置づけられます。
④療養費(法第54条)
療養の給付等に代えて支給される現金給付です。支給されるのは次の場合です。
- 療養の給付等を行うことが困難であると認めるとき
- 被保険者がやむを得ない理由により保険医療機関等以外の病院等で診療等を受けた場合において、市町村・組合が必要と認めるとき
いったん全額を支払い、後から払い戻しを受ける償還払いの形をとります。
実際に支給される場面
| 場面 | 例 |
|---|---|
| 療養の給付等を行うことが困難であると認めるとき | 資格確認書等が未交付で、保険診療を受けられなかった場合 |
| やむを得ない理由により保険医療機関等以外で受けたとき | 旅行先で保険医療機関以外にかかった、海外で療養を受けた |
| 治療用装具 | コルセット、義眼、小児弱視の治療用眼鏡 |
| 柔道整復師等の施術 | 受領委任の取扱いがされていない場合 |
条文に「市町村・組合が必要と認めるとき」とあるとおり、保険者の判断が入ります。被保険者が自己判断で保険外の医療機関にかかれば当然に支給される、というものではありません。
⑤訪問看護療養費
居宅で療養する被保険者が、主治医の指示に基づき指定訪問看護事業者から指定訪問看護を受けたときに支給されます。
負担の構造は2階建てです。
| 内容 | |
|---|---|
| 基本利用料 | 療養の給付の一部負担金と同じ割合を負担 |
| その他の利用料 | 営業時間外の訪問、長時間の訪問、特別なサービス等について、指定訪問看護事業者が別に徴収できる |
在宅医療を支える給付で、通院が難しい人が自宅で看護を受けられるようにするものです。
⑥移送費
療養の給付を受けるため病院または診療所に移送されたときに、市町村・組合が必要と認める場合に支給されます。
支給されるのは、移動が困難で、緊急その他やむを得ない場合に限られます。
よくある誤解は、通院の交通費が出ると考えてしまうことです。移送費は対象になりません。転院の必要があるのに自力では移動できない、といった場面のための給付です。
現物給付と現金給付の整理
最後に、給付の形を整理しておきます。
| 給付 | 形 |
|---|---|
| 療養の給付 | 現物給付 |
| 入院時食事療養費 | 条文上は費用の支給。現物給付化されている |
| 入院時生活療養費 | 同上 |
| 保険外併用療養費 | 同上 |
| 訪問看護療養費 | 同上 |
| 療養費 | 現金給付(償還払い) |
| 移送費 | 現金給付 |
「〜費」という名前がついているものは、条文の建て付けとしては費用の支給です。ただし食事療養費・生活療養費・保険外併用療養費・訪問看護療養費は現物給付化の扱いがされており、患者が窓口で全額を立て替える必要はありません。
実質的に現金給付なのは、療養費と移送費の2つです。
健康保険法との条文対応
| 給付 | 健康保険法 | 国民健康保険法 |
|---|---|---|
| 入院時食事療養費 | 第85条 | 第52条 |
| 入院時生活療養費 | 第85条の2 | 第52条の2 |
| 保険外併用療養費 | 第86条 | 第53条 |
| 療養費 | 第87条 | 第54条 |
給付の内容はほぼ同じですが、条番号は異なります。両方を学ぶときは混同しやすいので、対応表で整理しておくと安全です。
まとめ
- 療養の給付から除かれた5つは、入院時食事療養費・入院時生活療養費・保険外併用療養費で受け止められる
- 入院時食事療養費の標準負担額は、令和8年6月1日から一般で1食550円(法第52条)
- 入院時生活療養費は療養病床に入院する65歳以上が対象。食費に加えて居住費も負担(法第52条の2)
- 保険外併用療養費は、混合診療の原則の例外として3類型を認めるもの(法第53条)
- 療養費は償還払い。保険者が必要と認めることが要件(法第54条)
- 訪問看護療養費の基本利用料は、一部負担金と同じ割合
- 移送費は、移動が困難で緊急その他やむを得ない場合に限られる。通院交通費は対象外
国民健康保険に加入している従業員が入院したという連絡を受けたとき、高額療養費だけを案内して終わりにしていないでしょうか。食事代は高額療養費の対象外で、1食550円が積み上がります。30日入院すれば5万円近くになる計算です。差額ベッド代とあわせて、あらかじめ伝えておくと親切です。
