固定残業手当とみなし残業手当の違い・適正な使い分け法|フレックスタイム制との併用も解説

固定残業手当とみなし残業手当の違い・適正な使い分け法 労働時間・給与計算

ある会社からの質問です。

今はフレックスタイム制を導入しています。月30時間分のみなし残業として固定残業手当を渡し切りにしていますが、法的には大丈夫でしょうか。なぜなら、正直いって労働時間管理をしていないので、実際の残業時間が月30時間超えたかどうか確認できていないのです…

何となく問題があるような気がするのですが、正直いってどうしたらよいか分からないです。

  • みなし残業に対する手当
  • 固定残業手当

は似ているようで違います。

この記事ではつぎの3点について、できるだけわかりやすく解説します。

  • みなし残業と固定残業の違い
  • みなし残業と固定残業を同一視することの法的リスク
  • みなし残業・固定残業それぞれの適正な使い分け法
林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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みなし残業と固定残業の違い

法定労働時間(1日8時間、原則として週40時間)を超えた労働時間については、法定の割増賃金を支払わなければなりません。一方で、労働時間集計や賃金計算の簡便さ等の理由から、一定時間分の法定の割増賃金として、「みなし残業手当」「固定残業手当」の名目で支払うことは、両者で共通しています。

例えば、月30時間分の法定割増賃金として、月額76,500円の手当を支給したとしましょう。

「みなし残業手当」「固定残業手当」のいずれも、残業時間が月30時間未満でも、たとえ残業時間がゼロでも月額76,500円の手当が支払われます。

残業時間が月30時間を超えた場合、「みなし残業手当」の場合は手当を超える金額は支払われませんが、一方で「固定残業手当」の場合は手当を超える金額は支払わなければなりません。「固定残業手当」を支払う場合は、結局のところ労働時間を正確に把握して割増賃金の計算をしなければなりません。

では、「固定残業手当」を「みなし残業手当」にすればよいですか?

簡単にそういう訳にはいきません。なぜなら、みなし残業手当の支給対象者は、みなし労働時間制が適用される労働者に限られます。

  • 事業場外みなし労働時間制(労働基準法 第38条の2)
  • 専門業務型裁量労働制(労働基準法 第38条の3)
  • 企画業務型裁量労働制(労働基準法 第38条の4)

なお、労働時間等に関する規定の適用が除外されている次の労働者についても、管理職手当等の名目でみなし労働時間に相当する手当を支払う場合があります。

  • 管理監督者など(労働基準法 第41条)
  • 高度プロフェッショナル制度(労働基準法 第41条の2)

<マニアックな解説>

労働時間等の適用除外者にみなし残業手当を支払うときのポイントは、手当の①本来の定義(管理職であれば職責等に応じた手当)と②万一適用除外が認められなかったときの予備的な定義(もし労働基準法第41条又は第41条の2が適用されなくても子の手当は月〇時間分の割増賃金に相当する手当)のような内容を就業規則に定めておくことです。

みなし残業と固定残業を同一視することの法的リスク

最初の質問(フレックスタイム制で月30時間分のみなし残業手当のみ渡し切りで支給しても法的に大丈夫?)に対する回答です。

「フレックスタイム制」はみなし労働が認められていませんので「みなし残業手当」を使うことはできません!「固定残業手当」の導入は可能ですが、労働時間を把握して固定残業時間分を超えた賃金を支払わなければなりません。(未払い賃金に関する行政処分や訴訟のリスクがあります)

では、「みなし残業手当」の対象になる労働者の労働時間は把握しなくても構わないのでしょうか?

答えはNGです。

長時間労働による健康リスクが高い労働者を見逃さないために、事業者には労働安全衛生法で高度プロフェッショナル制度対象労働者を除く全ての労働者の労働時間を把握する義務が課せられています。

労働安全衛生法 第66条の8の3 事業者は、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第1項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

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みなし残業・固定残業それぞれの適正な使い分け法

みなし残業手当を支払う場合

これらは「労使協定」または「労使委員会決議」によりみなし労働時間を決めて労働基準監督署に届け出ます(なお、法定労働時間内の事業場外みなし労働時間制は届出不要です)。

各届の様式では、1日あたりの「協定(または決議)で定める労働時間」でみなし労働時間を定めます。

それでは、もし所定休日に労働した場合には別途割増賃金を支払わなければならないのでしょうか?

労使(又は労使委員会)での協議で、ひと月あたりのみなし労働時間を決めて、みなし労働時間に所定休日の労働を含めるかどうかも決めることができます。

  • 労使協定(又は労使委員会決議)により、みなし労働の対象に所定休日を含まなければ別途割増賃金が必要です。
  • 一方で、労使協定(又は労使委員会決議)により、みなし労働の対象に所定休日を含めれば別途割増賃金は不要です。

ただし、法定休日と深夜労働についてはみなし労働にすることができません。

固定残業手当を支払う場合

  • 通常の労働時間制(労働基準法 第32条)
  • 1か月単位の変形労働時間制(労働基準法 第32条の2)
  • フレックスタイム制(労働基準法 第32条の3)
  • 1週間単位の変形労働時間制(労働基準法 第32条の4)
  • 1年単位の変形労働時間制(労働基準法 第32条の5)

上記の通常の労働時間制と4つの変形労働時間制では「みなし労働」は認められていません。労働時間を適正に把握し、固定残業時間分を超えた賃金を支払わなければなりません。

所定休日の割増賃金も固定残業手当から充当できますか?みなし労働ではできない法定休日や深夜労働ではどうなりますか?

固定残業手当に関するルールは就業規則(賃金規程)に定めます。

固定残業手当を時間基準で決めるか金額基準で決めるか、定め方がポイントです。

  • 【時間基準】固定残業手当が「月〇時間の時間外労働に対する手当」であれば、月〇時間を超えた時間外労働のほか、休日労働・深夜労働に相当する賃金を支払わなければなりません。
  • 【金額基準】一方で、固定残業手当は「時間外労働・休日労働・深夜労働に対する手当で、月〇時間の時間外労働に相当する金額とする」であれば、「月の時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金の合計額」が「固定残業手当の金額」を超えた場合に差額を支払わなければなりません。固定残業手当の定義を就業規則に定めます。

もし、時間外労働は少ないけれど、休日・深夜労働が多い場合には【時間基準】の定義で運用すると「もしかして固定残業手当は適切ではないかも?」しれません。

固定残業手当の日割り計算については別に解説しています。

フレックスタイム制と固定残業手当の併用

当社はフレックスタイム制を導入しています。固定残業手当(月10時間分)も併用しているのですが、法的に問題ないでしょうか?

結論から言えば、フレックスタイム制と固定残業手当の併用は法的には可能です。 ただし、後述するとおり計算が非常に煩雑になりますので、実務上はおすすめしません。

まず、フレックスタイム制における時間外労働の仕組みを確認した上で、なぜ併用をおすすめしないのかを解説します。

フレックスタイム制の時間外労働の仕組み

フレックスタイム制では、1日8時間・週40時間を超えたかどうかではなく、清算期間における実労働時間が、法定労働時間の総枠を超えたかどうかで時間外労働の有無を判断します。

清算期間における法定労働時間の総枠は、次の計算式で求めます。

法定労働時間の総枠 = 清算期間の暦日数 ÷ 7日 × 40時間

例えば、6月(暦日数30日)の法定労働時間の総枠は、30 ÷ 7 × 40 ≒ 171.4時間 です。

ここで重要なのは、会社が定める「清算期間における総労働時間」(いわゆる所定労働時間)と「法定労働時間の総枠」は異なるということです。

実例で確認

以下の前提条件で考えます。

<前提条件>

  • 清算期間:1か月(6月、暦日数30日)
  • 清算期間における総労働時間:160時間(会社が定めた所定労働時間)
  • 法定労働時間の総枠:171.4時間(30日 ÷ 7 × 40時間)
  • 固定残業手当:月10時間分を毎月支給
労働者A労働者B
実労働時間189時間150時間
所定超過時間(実労働時間 − 総労働時間160時間)+29時間−10時間(不足)
うち法定内残業(160時間超〜171.4時間)11時間25分なし
うち法定外残業(171.4時間超)17時間35分なし

固定残業手当で充当できる範囲は「手当の定義」で変わる

ここが最も重要なポイントです。固定残業手当の就業規則での定義によって、追加で支払うべき金額が大きく変わります。

ケース①:固定残業手当を「法定外の割増賃金に対する手当」と定義している場合

固定残業手当10時間分が充当できるのは、法定労働時間の総枠を超えた時間(法定外残業)に対する割増賃金のみです。

労働者Aの場合:

  • 法定外残業17時間35分のうち、固定残業手当で10時間分を充当
  • 差額の7時間35分の割増賃金(1.25倍)を追加で支払う
  • さらに、所定超過・法定内の11時間25分については、固定残業手当の対象外のため、別途1倍の賃金を支払う

労働者Bの場合:

  • 法定外残業はゼロだが、固定残業手当は満額支給(固定残業手当は残業がゼロでも支給する手当です)
  • 一方で、総労働時間に対して10時間不足しているため、不足分の賃金控除が別途必要

ケース②:固定残業手当を「所定外労働に対する手当」と定義している場合

固定残業手当10時間分が充当できるのは、清算期間における総労働時間を超えた時間(所定外労働)に対する賃金です。

労働者Aの場合:

  • 所定超過29時間のうち、固定残業手当で10時間分を充当
  • 差額の19時間分の賃金を追加で支払う
  • ただし、19時間のうち法定内の部分(1時間25分)は1倍、法定外の部分(17時間35分)は1.25倍の割増賃金となり、結局それぞれ分けて計算しなければならない

労働者Bの場合:

  • ケース①と同じく、固定残業手当は満額支給、不足分の賃金控除が別途必要

なぜフレックスタイム制と固定残業手当の併用をおすすめしないのか

ケース①とケース②で計算が違うのは分かりましたが、どちらにしても計算が面倒ですね…

おっしゃる通りです。フレックスタイム制と固定残業手当の併用をおすすめしない理由は次の3点です。

理由1:固定残業手当にしても毎月の計算事務は省略できない

固定残業手当を導入する目的の1つは「毎月の賃金計算の簡便化」ですが、フレックスタイム制では、清算期間の総労働時間に対する過不足を毎月計算しなければなりません。固定残業手当を設けたところで、法定内・法定外の区分や不足分の処理は毎月必要ですので、計算事務の手間はむしろ煩雑になります。

理由2:法定内残業と法定外残業を毎月区分しなければならない

フレックスタイム制では、総労働時間を超えたとしても法定労働時間の総枠以内であれば法定内残業(割増なし)です。法定労働時間の総枠は月の暦日数によって毎月変わりますので、法定内と法定外の境界線も毎月変わります。固定残業手当がどちらに充当されるのかを毎月確認しなければならず、これは手当がない場合よりも手間が増えます。

理由3:金額ベースで定義しても、結局は時間の計算が必要

前述のケース②のように固定残業手当を金額ベースで「所定外労働に対する手当」と定義したとしても、超過分の賃金計算では法定内と法定外を分けて計算しなければなりません。時間ベースで定義した場合も同様に金額の計算は避けられません。

もし固定残業手当を導入するのであれば、金額ベースでの定義の方がまだ適しています。 なぜなら、時間ベースで定義した場合、法定内残業と法定外残業のそれぞれについて固定残業手当の充当時間を判断しなければならず、さらに複雑になるからです。

しかし、いずれにしても計算が煩雑になることに変わりはありません。フレックスタイム制を導入するのであれば、固定残業手当は設けずに、毎月の実績に基づいて割増賃金を計算する方が、シンプルで正確な運用ができます。

それでは、すでにフレックスタイム制と固定残業手当を併用している場合はどうすればよいですか?

まず、現在の就業規則で固定残業手当がどのように定義されているか(法定外の割増賃金に対する手当なのか、所定外労働に対する手当なのか)を確認してください。その定義に基づいて、毎月正確に計算されているかを検証することが第一歩です。

もし今後の運用を見直すのであれば、固定残業手当を廃止して、その分を基本給に組み入れる方法または移行のための何らかの名目での手当が考えられます。ただし、固定残業手当の廃止は労働条件の不利益変更に該当する可能性がありますので、労働者への丁寧な説明と同意が必要です。就業規則の変更手続きを含め、慎重に進めてください。

むすび

この記事では、固定残業手当とみなし残業手当の違い・適正な使い分け法について解説しました。

みなし残業手当は渡し切りの手当ですので、対象者はかなり限られます。一般的にはみなし残業手当ではなく固定残業手当を使うことが多いでしょう。固定残業手当であっても労働時間を適正に把握して計算した賃金を支払わなければなりません。固定残業手当を超えた分の差額支払いについては、時間よりも金額ベースで考える方が正確に計算できると思います。

参考になりましたら幸いです。