ある会社から在宅勤務手当と割増賃金について相談がありました。
在宅勤務をする労働者に、通勤手当を廃止し、在宅勤務手当を導入しようと考えています。しかし、在宅勤務手当は割増賃金の算定になると聞きました。
通勤手当は割増賃金の算定対象外なのに、在宅勤務手当にすると割増賃金の算定対象になるため、上手な支払い方法について知りたいです。
在宅勤務手当を渡し切りで支給すると、賃金として扱いますので割増賃金の算定基礎に含まれます。
割増賃金の算定対象外にできる手当は法令により次の7種類に限られますので、それ以外の手当は割増賃金の算定対象になります。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
この記事では在宅勤務手当(一定額)の支給形態3パターンと割増賃金の計算について解説します。
在宅勤務手当の支給形態3パターンは次のとおりです。
- 賃金計算期間内に在宅勤務をした日がある場合、「月額」の手当を支給
- 賃金計算期間内に在宅勤務をした日がある場合、「在宅勤務をした日×日額」の手当を支給
- 賞与算定期間内に在宅勤務をした日がある場合、「一定額の手当」を加算した賞与として支給
順番に解説します。
在宅勤務手当と割増賃金の計算方法!3パターン解説
前提条件
3パターンを比較しやすいように、モデルを作りました。
モデル
- 基本給(月給) :320,000円
- 1日所定労働時間 :8時間
- 1か月平均所定労働日数:20日
- 1か月平均所定労働時間:160時間
- 1か月平均残業時間 :30時間
- 同一月に出社勤務と在宅勤務が混在し、出社・在宅のいずれでも残業する
在宅勤務手当は月額単価が同じになるようにモデルを作りました。
- 在宅勤務手当(月額) :6,400円
- 在宅勤務手当(日額) :320円(=6,400円÷20日)
- 在宅勤務手当(年3回):25,600円(=6,400円×4か月)
残業2パターンで分析
- 残業①:在宅勤務での残業時間5時間、出社勤務での残業時間25時間、
- 残業②:在宅勤務での残業時間25時間、出社勤務での残業時間5時間、
在宅勤務手当を月額で支給するとき
在宅勤務手当も含めて割増賃金の単価を計算します。
です。
モデルで試算
になります。
残業時間はパターン①でも②でも月30時間の残業時間に対する割増賃金を支払います。
在宅勤務手当を日額で支給するとき
在宅勤務手当も含めて割増賃金の単価を計算します。
労働基準法施行規則第19条より、日額で支給される手当の割増賃金の単価は次のように計算します。
日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
つまり、在宅勤務をした日に引き続き在宅で残業をした時の割増賃金の単価は、
になります。
また、詳細は割愛しますが、行政通達(昭和23年5月25日基発811号)の【坑内手当】を解釈すると、
所定労働時間内に在宅勤務をして、出社勤務で残業をした時の割増賃金の単価は、
になり、在宅勤務手当が割増賃金の単価に含まれません。
当然、出社勤務をした日に引き続き会社で残業をした日の割増賃金の単価も、上記と同じく在宅勤務手当を割増賃金の単価に含めなくて構いません。
モデルで試算
【在宅残業単価】=(基本給÷1か月平均所定労働時間)+(在宅勤務手当÷1日所定労働時間)=(320,000円÷160時間)+(320円÷8時間)=2,040円/時間
【出社残業単価】= 基本給÷1か月平均所定労働時間=320,000円÷160時間=2,000円/時間
残業パターン① 在宅勤務での残業時間5時間、出社勤務での残業時間25時間、
残業パターン② 在宅勤務での残業時間25時間、出社勤務での残業時間5時間、
在宅勤務手当を一時金(賞与)で支給するとき
在宅勤務手当は割増賃金の単価に含まれません。
です。
モデルで試算
になります。
残業時間はパターン①でも②でも月30時間の残業時間に対する割増賃金を支払います。
3パターンの比較
残業
月額の在宅勤務手当
- 在宅勤務手当も含めて割増賃金の単価を計算します
- 在宅、出社のいずれの残業でも割増賃金の単価は同じです
- 割増賃金の単価(円/時間)=(基本給+在宅勤務手当)÷1か月平均所定労働時間
日額の在宅勤務手当
在宅勤務の残業
- 在宅勤務の残業に対しては在宅勤務手当も含めて割増賃金の単価を計算します。
- 在宅残業の割増賃金の単価(円/時間)=(基本給÷1か月平均所定労働時間)+(在宅勤務手当÷1日所定労働時間)
出社勤務の残業
- 出社勤務の残業に対しては在宅勤務手当を含めなくても構いません
- 出社残業の割増賃金の単価(円/時間)= 基本給÷1か月平均所定労働時間
一時金の在宅勤務手当
- 在宅勤務手当は割増賃金の単価に含まれません
- 在宅、出社のいずれの残業でも割増賃金の単価は同じです
- 割増賃金の単価(円/時間)= 基本給÷1か月平均所定労働時間
モデル試算
月額の在宅勤務手当
- 在宅残業時間・出社残業時間の配分に関係なく月30時間の残業代は76,500円です
日額の在宅勤務手当
- 月30時間①(在宅残業5時間+出社残業25時間)の残業代は75,250円です
- 月30時間②(在宅残業25時間+出社残業5時間)の残業代は76,250円です
- 在宅残業時間・出社残業時間の配分によって残業代が変動します
一時金の在宅勤務手当
- 在宅残業時間・出社残業時間の配分に関係なく月30時間の残業代は75,000円です
まとめ
在宅勤務手当の支給形態(月額、日額、一時金など)は、法令で定められていないので、就業規則(テレワーク規程・在宅勤務規程など)で会社が定めることができます。
【在宅勤務手当を日額にする場合】
- メリット:在宅勤務をした日だけに限って在宅勤務手当を支払うことができます
- デメリット:割増賃金の計算が複雑になる(規定も複雑になる)
- 例外:基本給が日額の人であれば、計算はシンプルですので差し支えないと思います
【在宅勤務手当を月額にする場合】
- メリット:基本給が月額の人であれば、在宅勤務手当も月額にする場合が一番シンプルで運用しやすく、労働者にも分かりやすい
- デメリット:割増賃金の額は高めになる
【在宅勤務手当を一時金にする場合】
- メリット:割増賃金の算定から除くことができます
- デメリット:モデル試算のように4か月分一律定額にする場合には、途中で状況が変わり在宅勤務が無くなっても4か月分の在宅勤務を支払う必要があるでしょう。在宅勤務の実績に応じて一時金の額を決める方法も考えられますが、4か月間に起こり得ること(入社・退職・休職・復職など…)を想定して規定を作り込む必要があると思います。
この記事では、在宅勤務手当(一定額)の支給形態3パターンと割増賃金の計算について解説しました。何かのお役に立てれば幸いです。