所定労働時間内に労災で負傷して病院で治療を受けた社員がいます。丸一日の休業はありません。出勤しながら週1回の通院(労災指定の医療機関以外の医療機関です)をしていますが、労災保険から治療費・賃金・診断書代が支給されるのでしょうか?また、通院中の時間は労働時間になるか否かも教えてください。
労災が発生した際の診療・治療などは、労災病院や労災指定の医療機関などで受けて頂くことが原則ですが、今回のケースでは労災指定の医療機関以外の医療機関に通院されているのですね。
それでも、労災保険から少なくとも次の給付が受けられると思われます。
- 療養補償給付(治療費、診断書代などに対する給付)
- 休業補償給付(療養のため労働できず賃金を受けない日の賃金補償的な給付)
この記事では以下の内容について解説します。
- 仕事しながら通院した場合でも治療費・賃金・診断書代にかかる費用に対する労災保険からの給付が受けられるのか?
- 労災での負傷のため通院中の時間が労働時間になるか否か?
治療費
労災指定の医療機関以外で治療を受けた場合などは、一旦治療費を負担して頂き、あとで請求することにより、負担した費用の全額が支給されます。
- 社員所定労働時間中に災害発生し、すぐに病院に行く
労災指定の医療機関以外の医療機関に行った。
- 社員(会社が立て替える場合もあり)一旦、全額自己負担となる
会社が立て替える場合もありますが、ここでは社員が治療費を払う設定にします。
あとで労災保険から給付をうけますので、健康保険を使わないようにしましょう。
労災保険からの給付を請求するときに、治療費を支払ったときの領収書が必要になりますので、紛失しないようにします。
- 会社・社員・医師療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号1(1)※)
- 会社証明欄を記載して本人(社員)へ渡します
- 本人(社員)が医師の証明を貰います
※なお(1)は病院、(2)は薬局です。
- 会社(社員)会社を管轄する労働基準監督署へ労災保険の請求書を提出する
- 治療費を支払ったときの領収書とあわせて提出します
- 手続きは会社で行うことが多いですが、本人でも手続き可能です。
- 労働基準監督署労働基準監督署の調査
請求内容について調査を行います。
- 社員(会社)指定された請求人の振込口座へ支払い
請求受付から給付決定までの期間は概ね1ヶ月です。
場合によっては1ヶ月以上を要することもあります。例えば、医療機関からの証明をいちいち受けるのが面倒だからと、何ヶ月分もまとめて一度に請求した場合は、過去に遡ると調査がそれだけ時間がかかることになります。1ヶ月に1回のペースで請求している方が多いかと思われます。
会社が治療費などを立て替えた場合は、受任者払い制度により会社が受け取ることができます。詳しくは下記の参考リンク先をご参照ください。
一旦、治療費を立て替えなければならないのですが、あとで請求すれば払った治療費が戻ってくるのですね。
はい、そうです。ただし、一旦立て替えしなければならないので、できれば今度からは労災指定の医療機関をお使いいただくことをお勧めします。
賃金
仕事しながら通院した場合でも、次の要件を満たしていれば、労災保険の休業補償給付が受けられます。
- 業務上の負傷又は疾病による療養のため
- 労働をすることができないため
- 賃金を受けていない
- 待機期間(通算3日間)を満たしていること
待期3日間(労働基準法の休業補償)
労災保険の休業補償給付を受けるためには、上記の要件「4.待期期間(通算3日間)」を満たす必要があります。待期期間3日間は、連続・断続を問わず、3日間で成立します。
待機期間については、労災保険からの給付が受けられませんので、労働基準法第76条の休業補償を支給します。
1日あたりの休業補償の金額は、平均賃金(労働基準法第12条)の60%です。なお、次の日も待期期間に含めます。
- 平均賃金の60%以上の金額を受ける日
- 労働者の請求により年次有給休暇を取得した日
- 所定休日
仕事しながら通院することで待期期間を満たす場合、実際に仕事している時間に対する賃金は払わなければなりません。不就労時間に労働していれば得られていたはずの賃金については、平均賃金と実労働時間の賃金の差額の60%に相当する額を休業補償として支給しなければなりません(労働基準法施行規則第38条)。
休業補償は賃金ではありませんので、賃金台帳や給与明細において明細を分けましょう。
例えば、所定労働時間8時間の会社で、1日あたりの賃金が16,000円(時給2,000円相当)、平均賃金は20,000円で、通院で不就労時間が3時間、実労働時間が5時間の場合、
賃金:10,000円(2,000円×5時間)
休業補償:(20,000円-10,000円)×60%=6,000円
と明細を分けて記帳します。
なるほど。賃金台帳の明細を分けて記帳します。
出勤簿には、通院中の不就労時間は「遅刻・早退・私用外出」とすればよろしいでしょうか?
業務上災害による負傷による通院ですので、私的な都合による不就労とは区別する必要があります。「遅刻・早退・私用外出」ではなく、時間単位の「公休」扱いにするのが妥当ではないでしょうか?
休業4日以降(労災保険の休業補償給付)
通院でも、次の場合は休業した日として休業補償給付の対象になります。
休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業補償給付が60%+休業特別支給金が20%)が支給されます。
3-3 出勤しながら週に1回は通院していますが、休業(補償)給付をもらえますか。
回答
1 業務上の事由又は通勤による負傷や疾病による療養のため
2 労働することができないため
3 賃金をうけていない
という要件を満たしている場合であれば、通院日のみの支給もできます。(午前中に通院して午後から出勤した場合はどうなりますか。)
通院のため所定労働時間の一部について労働できない場合で、「平均賃金」と「実働に対して支払われる賃金」との差額の100分の60未満の賃金しか支払われていない場合は、“休業する日”として支給の対象になります。(100分の60を超えたらもらえないのですか。)
出所 厚生労働省 労災保険に関するQ&A 3-3
はい。100分の60を超える金額を支払われている場合は、休業の3.の要件を満たしていない事になるので、お支払いすることはできません。
よって、通院による不就労時間について、上記3要件を満たす限り、労災保険から休業補償給付を受けることができます。この場合、不就労時間に労働していれば得られていたはずの賃金の補償については、労災保険から休業補償給付として休業給付基礎日額(=平均賃金)と実労働時間の賃金の差額の60%(さらに休業特別支給金の20%がプラスされます)に相当する額が支給されます。
労災の負傷による通院ですので、所定労働時間内での通院時間も会社が賃金を支払わなければならないと思っていましたが、労災保険から給付が受けられるのですね。
はい、不就労時間については、要件を満たす限り労災の休業補償給付が受けられます。
なお、労働時間については先に述べた通り、業務上災害による負傷による通院ですので、私的な都合による不就労とは区別する必要があります。「遅刻・早退・私用外出」ではなく、時間単位の「公休」扱いにするのが妥当と考えます。
通院時間の賃金を100%にしたいので、という理由で労働者から時間単位年休の取得を希望された場合は、時間単位年休にしてもよろしいでしょうか?
貴社に時間単位年休の制度があることが前提ですが、労働者の希望により時間単位年休を使って通院することは可能です。
もし、不就労時間にも賃金を支払っている場合は、休業補償給付を受けることはできないのでしょうか?
通院による不就労時間に対して、「平均賃金」と「実働に対して支払われる賃金」との差額の100分の60未満の賃金を支払っている場合は、休業する日に該当します。
通院による不就労時間に対する賃金を支払っていない場合とは、「平均賃金」と「実働に対して支払われる賃金」との差額を全く払っていないことを意味しますので、休業する日に該当します。
診断書の費用
- 業務上の負傷又は疾病による療養のため
- 労働をすることができないため
- 賃金を受けていない
- 待機期間(通算3日間)を満たしていること
休業補償給付を受けるための上記の要件のうち、1の要件を証明するために診療担当者の証明(≒診断書)が必要になります。
「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」の「診療担当者の証明」に要した費用は、労災保険から文書料として2,000円が算定されます。
労災指定病院以外で診断書発行したときに立て替えた費用は、労災保険から文書料として2,000円までは支給されるのですね。手続きはどうしたらいいですか?
労災指定病院以外の場合は「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(様式第7号(1))」で請求できます。
具体的には、上記の「様式第7号(1)」の「医師または歯科医師等の証明」の「(ト)上記以外の療養費」に文書料を記載し、「⑳療養に要した費用の額(合計)」に合算します。領収書添付の上で、会社を管轄する労働基準監督署に請求します。
なるほど、診断書の費用も給付が受けられるのですね。安心しました。
業務上災害による傷病で通院のため休業する場合、先に説明して頂いた3要件を満たせば休業補償給付の受給が可能だと思いますが、休業補償給付支給請求書は通院した日の都度申請する必要があるでしょうか?いちいち診断書を取るのも負担があるかと思います。
たとえば、一定の期間にまとめて、医師の証明を受けてから請求することでも可能でしょうか?
はい、月1回にまとめて請求することが多いと思います。
時効にかからない限り長期間にわたりまとめることは制度上可能ではあります。
ただし、先に述べましたように、医療機関からの証明をいちいち受けるのが面倒だからと、何ヶ月分もまとめて一度に請求した場合は、過去に遡ると調査がそれだけ時間がかかることになります。つまり、請求から受給までにかかる期間が、通常の場合よりも遅くなる可能性が高まる、というデメリットがあると思います。
やはり月1回程度の頻度で請求していただくのがよろしいのではないでしょうか?
労災での負傷のため通院せず自宅療養した場合は休業補償給付が受けられるのか?
- 業務上の負傷又は疾病による療養のため
- 労働をすることができないため
- 賃金を受けていない
- 待機期間(通算3日間)を満たしていること
休業補償給付を受けるための上記の要件のうち、1の要件を証明するために診療担当者の証明(≒診断書)が必要になります。この場合、診療担当者の証明があるか否かがポイントになるかと考えます。
休業補償給付を受けるための要件を満たさない場合、自宅療養の日は公休扱いとせず、年次有給休暇や欠勤として扱うことになります。
まとめ
今回は、所定労働時間内に労災で負傷して病院で治療を受けた社員が、出勤しながら週1回の通院をしたときに、労災保険から治療費・賃金・診断書代が支給されるのかというご質問でした。
また、今回のケースでは労災指定の医療機関以外の医療機関で受診していました。労災が発生した際の診療・治療などは、労災病院や労災指定の医療機関などで受けて頂くことが原則ですが、労災指定の医療機関以外の医療機関であっても、一旦全額を立て替え払いする必要はありますが、労災からの給付を受けることは可能です。
- 療養補償給付(治療費、診断書代などに対する給付)
- 休業補償給付(療養のため労働できず賃金を受けない日の賃金補償的な給付)
待機期間の3日間については、労災による通院の時間に対する休業補償を会社が支払う必要がありますが、休業補償は賃金ではありません。もちろん通院中の時間は労働時間になりません。
仕事しながら通院した場合でも、次の要件を満たしていれば、労災保険の休業補償給付が受けられます。
- 業務上の負傷又は疾病による療養のため
- 労働をすることができないため
- 賃金を受けていない
- 待機期間(通算3日間)を満たしていること
通院による不就労時間について、上記の要件を満たす限り、労災保険から休業補償給付を受けることができます。この場合、不就労時間に労働していれば得られていたはずの賃金の補償については、労災保険から休業補償給付として休業給付基礎日額(=平均賃金)と実労働時間の賃金の差額の60%(さらに休業特別支給金の20%がプラスされます)に相当する額が支給されます。
今回の解説は以上となります。この記事がお役に立てれば幸いです。