ある会社からの相談です。
新卒で入社した社員さんが、私傷病により1週間入院し、5日間会社を休みました。まだ入社して5ヶ月ですので年次有給休暇はありません。
あと1か月で年次有給休暇が付与されますので、年次有給休暇の前倒し付与で有給休暇にしてあげたいのですが、何か注意点はありますでしょうか?
この記事では、年次有給休暇の前渡し付与について、どのような注意点があるのか、できるだけ分かりやすく解説します!
年次有給休暇の前倒し付与
年次有給休暇の前倒し付与は可能か?
前倒し付与は法令で禁止されていませんので可能です。
しかし、注意点がありますので、次に解説します。
年次有給休暇を前倒し付与する場合の注意点3つ
年次有給休暇を前倒し付与する場合の注意点は3つあると考えます。
- 前倒しで有給休暇を与えた場合、基準日が前倒しになり、その後の有給休暇の付与日も前倒しにしなければなりません
- 年5日の年休付与義務の管理が複雑になります
- 本来の基準日までに退職した場合であっても、前倒し付与した年次有給休暇を後から欠勤扱いにすることはできません
基準日とは、「年次有給休暇を付与した日」のことです。
出所:「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(厚生労働省)
① 前倒しで有給休暇を与えた場合、基準日が前倒しになり、その後の有給休暇の付与日も前倒しにしなければなりません
例えば、上の図のように、基準日は2019年10月1日で、年休付与日数が10日としましょう。
入社5か月の2019年9月1日から、基準日前日の9月30日までに5日分前倒し付与を行った場合、基準日である2019年10月1日に法定付与分(残り5日)を付与することになります。
では次の年次有給休暇はいつ付与するのか?といいますと、前倒し付与しない場合は、2019年10月1日の1年後の2020年10月1日になります。一方で、前倒し付与した場合は、遅くとも2019年9月1日の1年後の2020年9月1日になります。年休を前倒ししていない社員さんと異なる管理方法になります。その後、前倒しなどが無くても毎年9月1日が基準日になります。もし10/1を基準日にしたい場合は2020/9/1まで (2年目の基準日)にさらに11日付与し、さらにさらに2020/10/1(3年目の基準日)にも12日付与にすることになります。
出所:「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(厚生労働省)を一部改変
② 年5日の年休付与義務の管理が複雑になります
年10日以上の年次有給休暇を付与する労働者には、使用者は1年間に5日の年休を付与する義務があります。
もし、前倒し付与した場合、上記①の例では2019年10月1日~2021年9月30日(23ヶ月)までの間に、10日(23ヶ月÷12ヶ月×5日=9.58日→切り上げて10日)の年休を取得させなければならないことなります。一人だけ管理方法が複雑になると思います。
出所:「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(厚生労働省)を一部改変
③ 本来の基準日までに退職した場合であっても、前倒し付与した年次有給休暇を後から欠勤扱いにすることはできません
仮に、1年目の基準日の2019/10/1までに退職した場合でも、先に付与した年次有給休暇を欠勤扱いにすることはできません。
年休前倒し以外の対応
もし、健康保険の傷病手当金の支給条件に当てはまれば、傷病手当金を受給するという方法もあるかと思いますので、ご本人さんとよくご相談されることをお勧めいたします。
傷病手当金が支給される条件は協会けんぽのWebサイトより、次の4つの条件をすべて満たしたときに支給されます。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
休業中の賃金の日割り計算は、過去記事を参考にしてください。
むすび
年次有給休暇を前倒し付与すると、労働者にとっては手取り賃金が減らないこと、および会社にとっては給与計算の日割り計算が不要であることがメリットになると思われますが、年次有給休暇の管理が日割り計算以上に複雑で、しかもその影響が長く続くことが大きなデメリットになるかと思います。年次有給休暇の前倒し付与よりも、健康保険の傷病手当金を活用して頂く方がよい選択ではないかと思います。