「高齢者の医療費も原則3割に」という報道を目にする機会が増えました。けれども、令和8年10月の時点で、窓口負担の割合はまだ何も変わっていませんし、見直しの中身も決まっていません。令和8年7月21日に閣議決定された骨太方針2026の本文と脚注をもとに、決まっていることと検討中のことを分けて整理します。
今の窓口負担
75歳以上の人の窓口負担は、高齢者医療確保法第67条第1項で決まっています。
| 区分 | 割合 |
|---|---|
| 原則 | 1割 |
| 一定以上の所得がある人 | 2割 |
| 現役並みの所得がある人 | 3割 |
70〜74歳の人の窓口負担(原則2割)は、健康保険法や国民健康保険法の規定です。見直しの議論は「70歳以上」を対象にしていますが、そのうち75歳以上の部分を定めているのが高齢者医療確保法です。
| 年齢 | 原則 | 所得による例外 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 70歳未満 | 3割 | ― | 健康保険法・国民健康保険法 |
| 70〜74歳 | 2割 | 現役並み所得は3割 | 健康保険法・国民健康保険法 |
| 75歳以上 | 1割 | 一定以上の所得は2割、現役並み所得は3割 | 高齢者医療確保法第67条 |
骨太方針2026の本文
骨太方針2026(経済財政運営と改革の基本方針2026)は、医療保険制度について次のように書いています。
医療保険制度では、70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合について、低所得者等の必要な受診が確保されるよう適切に配慮することを前提として、原則3割となっている現役世代との間で年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う。そのための改革工程表を2026年末までに策定する。
「応能負担」とは、負担する力(所得など)に応じて負担する考え方です。今は年齢で負担割合の原則が決まり、そのうえで所得が多い人の割合が上がる仕組みです。骨太方針は、年齢ではなく負担する力で決める方向を示しています。
この記述には脚注があり、自由民主党と日本維新の会の社会保障制度改革協議体がまとめた「社会保障改革項目に関する具体的な骨子」(令和8年7月7日)によると記されています。
脚注で挙げられた検討項目
本文の脚注には、検討の中身がより具体的に書かれています。
その際、高齢者の就業率の上昇や健康寿命の延伸、医療費水準や受診状況の動向、高齢者に低所得が多いといった家計の状況等も踏まえ、必要な受診が確保されるよう適切な配慮措置を講じつつ、外来特例の在り方や、負担割合の区切りとなる所得の見直し、年齢の引き上げなど窓口負担の抜本的な見直しについて、現役世代の負担軽減の観点からの公費負担のあり方とともに総合的に検討を行い、その速やかな実現について令和8年末までに一定の結論を得る。
整理すると、検討項目は次のとおりです。
| 検討項目 | 内容 |
|---|---|
| 外来特例の在り方 | 70歳以上の外来の自己負担を一定額に抑える仕組み |
| 負担割合の区切りとなる所得の見直し | 2割・3割になる所得の基準 |
| 年齢の引き上げ | 脚注には、どの年齢かは書かれていない |
| 公費負担のあり方 | 現役世代の負担軽減の観点から |
結論の時期は「令和8年末までに一定の結論を得る」とされています。
脚注は続けて、マイナンバー制度を活用した所得・資産情報の把握基盤の整備を早急に進め、制度への反映を進めるとしています。
決まっていること・決まっていないこと
| 内容 | |
|---|---|
| 決まっていること | 年齢によらない応能負担の観点から見直すこと、改革工程表を2026年末までに策定すること、令和8年末までに一定の結論を得ること |
| 決まっていないこと | 3割にする人の範囲、所得の基準、実施の時期、受診を確保するための配慮措置の中身 |
骨太方針は「原則3割にする」とは書いていません。「現役世代は原則3割となっている」という事実を示したうえで、年齢によらない公平な負担を実現する観点から見直す、という書き方です。
見直しの論点:3割の人が増えると支援金が増える
3割負担の人の給付費には公費が入らない
後期高齢者医療の給付費は、ふだんは公費が5割、残りを現役世代の支援金と75歳以上の保険料が負担しています。ところが、3割負担の人(現役並み所得者)の給付費には、公費が入りません(第93条第1項)。その分は、支援金と保険料だけでまかないます。
そのため、3割負担の人が増えると、これまで公費でまかなっていた5割の部分を、現役世代の支援金で負担することになります。
試算:医療費が100のとき、支援金はいくらになるか
| 窓口負担 | 給付費 | 公費 | 支援金 | 保険料 |
|---|---|---|---|---|
| 1割 | 90 | 45.0 | 約33.1 | 約11.9 |
| 2割 | 80 | 40.0 | 約29.4 | 約10.6 |
| 3割 | 70 | 0 | 約60.7 | 約9.3 |
窓口負担が3割になると給付費は減りますが、公費が入らなくなるため、支援金の額は1割・2割のときのおよそ2倍になります。
この表は、令和8・9年度の後期高齢者負担率(13.27%)をもとに、高齢者医療確保法第93条と第100条の仕組みに当てはめて筆者が試算したものです。高額療養費による自己負担の上限などは考慮していません。
脚注が「現役世代の負担軽減の観点からの公費負担のあり方」もあわせて検討するとしているのは、この点と関係すると考えられます。
ほかに検討されていること
骨太方針2026は、窓口負担のほかにも、次の取組を進めるとしています。
- 介護保険制度の2割負担の判断基準の見直し(2026年度中に結論)
- 医療・介護保険における金融所得・資産の扱い
- OTC類似薬の保険給付の見直しの施行と、その状況等を踏まえた2027年度以降の対象範囲の拡大に向けた検討
これらは、「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」(令和5年12月22日閣議決定)などにもとづく取組とされています。
医療・介護保険での金融所得の扱いについては、後期高齢者医療ではすでに令和8年の改正法で仕組みが設けられています。骨太方針は、その先の医療・介護保険全体での扱いも検討課題として挙げています。
骨太方針の脚注では、令和8年末までに一定の結論を得るとされています。今の時点では、「方向性は示されたが、中身は未定」ということです。

まとめ
- 75歳以上の窓口負担は、今は原則1割・一定以上の所得で2割・現役並み所得で3割です(第67条第1項)。
- 骨太方針2026は、70歳以上の窓口負担を「年齢によらない真に公平な応能負担」の観点から見直し、改革工程表を2026年末までに策定するとしています。
- 脚注では、外来特例の在り方、所得の区切りの見直し、年齢の引き上げ、公費負担のあり方を検討し、令和8年末までに一定の結論を得るとしています。
- 骨太方針は「原則3割にする」とは書いていません。3割にする人の範囲や実施時期などは決まっていません。
- 3割負担の人の給付費には公費が入らないため、3割の人が増えると現役世代の支援金が増える面があります。
