社員が学生と、いつ、どこで、どのツールで会うのか。会社は決めていますか。求職者等セクハラの措置義務には、他のハラスメント指針にはない項目が入っています。「求職活動等に関するルールの明確化」です。
※以下の条番号は、令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。
措置義務は4本柱
指針4は、講じなければならない措置を次のように定めています。
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| ⑴ | 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 |
| ⑵ | 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
| ⑶ | 事後の迅速かつ適切な対応 |
| ⑷ | ⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置 |
今回は⑴を扱います。ここはさらにイ、ロ、ハの3つに分かれます。
周知の相手は労働者と求職者等の両方
⑴の柱書に、押さえるべき言葉があります。
事業主は、求職活動等におけるセクシュアルハラスメントに関する方針の明確化、労働者及び求職者等に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。
労働者だけではありません。求職者等への周知も義務の中に入っています。
カスハラと比べると違いがわかります。
| カスハラ指針⑴ | 求職者等セクハラ指針⑴ | |
|---|---|---|
| 周知先 | 労働者(顧客等への周知は推奨) | 労働者と求職者等(どちらも義務) |
| イ | 毅然対応・労働者保護の方針 | 内容と「行ってはならない旨」の方針 |
| ロ | あらかじめ定めた対処の内容 | 懲戒規定の整備 |
| ハ | なし | 求職活動等に関するルール |
| 就業規則の改定 | 原則不要 | 必要 |
行為者が社内にいるか社外にいるか。それだけで、やるべきことがここまで変わります。
性別役割分担意識という視点
柱書には、もうひとつ留意事項が置かれています。
周知・啓発をするに当たっては、防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要である。その際、発生の原因や背景には性別役割分担意識に基づく言動もあると考えられ、こうした言動をなくしていくことが防止の効果を高める上で重要である。
「女性は補助的な仕事」「男性は転勤して当然」。こうした意識が背景にあるという理解を、研修に組み込むよう求めています。
この考え方は、既存の職場のセクハラ指針にもあるものです。
イ:方針の明確化
1つ目は、求職者等セクハラの内容と、それを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することです。
認められる例は3つです。
- 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に、求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を規定すること。あわせて、その内容と、性別役割分担意識に基づく言動が発生の原因や背景となり得ることを労働者に周知・啓発すること
- 社内報、パンフレット、社内ホームページ等に、内容と方針を記載して配布等すること
- 研修、講習等を実施すること
ロ:懲戒規定の整備
2つ目が、就業規則に直結する部分です。
求職者等セクハラに係る性的な言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
行為者は自社の社員です。だから懲戒処分ができます。カスハラにはなかった措置です。
認められる例は2つあります。
- 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、求職者等セクハラを行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること
- 求職者等セクハラを行った者は、現行の懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること
既存の規定で足りることもあります
②に注目してください。新しく懲戒規定を作らなくても、いまの規定で拾えるなら「適用の対象となる旨を明確化」するだけで足ります。
そこで、まず自社の規程を点検します。
| 点検項目 | 確認すること |
|---|---|
| 服務規律 | セクハラ禁止の対象が「他の従業員」に限定されていないか |
| 服務規律 | 「会社の業務に関係する者」といった包括的な文言があるか |
| 懲戒事由 | 服務規律違反を懲戒事由として引用しているか |
| 適用場面 | 社外や勤務時間外の言動も対象に含む書きぶりか |
よくあるのが「他の従業員に対するセクシュアルハラスメント」という書き方です。これでは求職者を拾えません。改定が必要になります。
一方、「会社の業務に関係する者に対する性的な言動」といった書き方なら、求職者等も読み込めるかもしれません。その場合は、社内通達や社内報で「求職者等も対象である」と明確化すれば足ります。
ハ:求職活動等に関するルールの明確化
3つ目が、この指針だけにある措置です。
求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、これを労働者及び求職者等に周知・啓発すること。
既存のセクハラ指針にも、パワハラ指針にも、マタハラ指針にも、これに対応する規定はありません。
何を決めるのか
指針が挙げる例を見てみましょう。
労働者に対しては、面談時間及び場所の指定、実施体制並びにやり取りに用いるSNSの種類の指定その他の求職者等と面談等を行う際の規則を定め、周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。
4つの項目が示されています。それぞれ、決めるべきことを整理します。
| 項目 | 決める内容の例 |
|---|---|
| 面談時間 | 就業時間内に限るか。終業後の面談を認めるか |
| 場所 | 社内の会議室に限るか。飲食店を認めるか。個室は可か |
| 実施体制 | 1対1を認めるか。複数名での対応を原則とするか |
| SNSの種類 | 会社が指定するツールに限るか。個人アカウントの扱いをどうするか |
なぜこの措置が置かれたのか
OB・OG訪問を思い浮かべてください。
就活支援サービスやSNSで、学生が社員に直接連絡します。社員が個人の判断で日時と場所を決めます。人事部門は知りません。
会社が把握していない場所で、評価する側とされる側が1対1で会う。しかも夜に、飲食店で。この構造そのものがリスクです。
ルールがなければ、会社は何も手を打てません。ハが独自に置かれたのは、この場面を想定したからだと考えられます。
求職者等にも伝えます
指針は続けます。
求職者等に対しては、上記規則を踏まえ、面談等に関する留意事項をホームページやパンフレット等の広報手段を用いて周知等すること。
学生の側にも、ルールを知らせるということです。着地点としては、次のあたりが現実的でしょう。
- 採用サイトに「面談等に関する留意事項」のページを設ける
- 応募受付時の自動返信メールに記載する
- インターンシップや実習の受入時のオリエンテーション資料に含める
- 説明会の冒頭スライドで、相談窓口とあわせて表示する
方針の周知と相談窓口の周知は、同じ導線でまとめて行えます。
求職活動等「以外」の場面
ハには、なお書きが付いています。
労働者に対する周知・啓発に当たっては、求職活動等以外の場面においても求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう、併せて周知することも考えられる。
「考えられる」という書き方です。義務でも推奨でもなく、選択肢の提示にとどまります。
ルールを作りすぎないこと
最後にひとつ。
OB訪問を全面禁止にすれば、リスクはゼロになります。しかし採用力は落ちます。学生が会社を知る機会を、自ら閉ざすことになるからです。
指針が求めているのは禁止ではありません。「明確化」です。
守れないルールを作れば、現場は隠れてやります。そのほうが危険でしょう。実態に合った、守れるルールを作ってください。
まとめ
- ⑴の周知先は労働者と求職者等の両方です。どちらも義務です
- イは、内容と「行ってはならない旨」の方針の明確化です
- ロは懲戒規定の整備です。既存の規定で拾えるなら、適用対象である旨の明確化でも足ります
- 「他の従業員に対する」と書かれている規程は、そのままでは求職者を拾えません
- ハの「求職活動等に関するルールの明確化」は、この指針だけにある措置です
- 面談時間、場所、実施体制、SNSの種類の4つが例示されています
- ルールは求職者等にも周知します。採用サイトやオリエンテーション資料が使えます
貴社の就業規則のセクハラ禁止規定の対象者が「従業員」だけになっていないかを確認しましょう。
