令和8年10月1日から、もうひとつ義務化されるものがあります。求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策です。カスハラと同じ日に始まりますが、構造はまるで違います。守る相手が社外にいて、加害者が社内にいるからです。
※以下の条番号は、令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。
向きが逆です
まず定義から見ます。指針2⑴はこう定めています。
求職活動等におけるセクシュアルハラスメントは、事業主が雇用する労働者による性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害されるものをいう。
行為者は自社の社員。被害者は社外の求職者。
カスハラと並べてみると、違いがはっきりします。
| カスタマーハラスメント | 求職者等セクシュアルハラスメント | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 労推法第33条第1項 | 均等法第13条第1項 |
| 行為者 | 顧客等(社外) | 事業主が雇用する労働者(社内) |
| 被害者 | 雇用する労働者(社内) | 求職者等(社外) |
| 結果 | 就業環境が害される | 求職活動等が阻害される |
| 懲戒規定の整備 | なし | あり |
| 抑止措置 | あり | なし |
| 派遣法の根拠 | 第47条の4 | 第47条の2 |
行為者が社内にいるので、就業規則で処分できます。だから措置義務に懲戒規定の整備が入ります。カスハラにはなかった要素です。
逆に、抑止措置はありません。出入禁止にする相手がいないからです。
結果の書き方も違います。カスハラは「就業環境が害される」、こちらは「求職活動等が阻害される」。まだ働いていない人が相手なので、就業環境という言葉が使えません。
同性間も対象です
指針は2つの点を明記しています。
ひとつ。求職活動等におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれます。
もうひとつ。被害を受けた者の性的指向またはジェンダーアイデンティティにかかわらず、その者に対する求職活動等におけるセクシュアルハラスメントも指針の対象です。
既存のセクハラ指針と同じ考え方です。
「求職者等」とは誰か
条文は「求職者その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの」としています。
求職者本人だけではありません。これに類する者が省令で定められます。具体的な範囲は省令を確認する必要がありますが、指針が示す「求職活動等」の例から、おおよその輪郭は見えます。
「求職活動等」の5つの例
指針2⑵は、求職者が行う求職活動や、求職者に類する者が行う職業の選択に資する活動を「求職活動等」とし、例として次の5つを挙げています。
- 企業の採用面接への参加
- 企業の就職説明会への参加
- 企業の雇用する労働者への訪問
- インターンシップへの参加
- 教育実習、看護実習等の実習の受講
太字にした3つに注目してください。採用選考の場だけの話ではありません。
3つ目はいわゆるOB・OG訪問です。4つ目、5つ目は、そもそも採用が決まっていない段階の学生が対象になります。
オンラインも含まれます
指針は2つの但書を置いています。
SNS等のオンラインを介したものや、オンライン上で行われるものも含まれる。
事業主が雇用する労働者が通常就業している場所で行われるものに限らない。
つまり、オンライン面接も対象です。社員が学生とDMでやり取りする場面も対象です。カフェでのOB訪問も、飲食店での面談も対象になります。
会社の建物の中だけを想定していると、対策が届きません。
OB・OG訪問がいちばんの盲点
実務で心配なのはここでしょう。
人事部門を通さない社員個人への訪問は、会社の管理外で行われます。就活支援サービスやSNSで学生が直接連絡を取り、社員が個人の判断で会う。人事は把握していません。
それでも指針は、これを「求職活動等」に含めています。
会社として何もしていない状態では、措置義務を果たしたことになりません。この対策が、次回以降で扱う「求職活動等に関するルールの明確化」につながります。
実習生を受け入れている事業場へ
教育実習、看護実習が明示されている点も見逃せません。
医療機関、福祉施設、学校法人、保育所。実習生の受入れが日常業務になっている事業場は多いはずです。
実習の受入れは、人事部門ではなく現場が主導します。指導担当者が誰になるかも、現場で決まります。だからこそ方針が届きにくい。
自社で実習生を受け入れているなら、受入部門への周知を計画に入れてください。
「労働者」の範囲
行為者となり得る「労働者」は、正規雇用労働者だけではありません。パートタイム労働者、契約社員といった非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者のすべてです。
派遣労働者については、労働者派遣法第47条の2により、派遣先も事業主とみなされます。派遣先も、法第13条第1項の措置と第14条第2項の配慮を講じる必要があります。
カスハラは第47条の4でした。条番号が違うので、規程に引用するときは気をつけてください。
不利益取扱いの禁止(法第13条第2項、第23条第2項、第24条第2項)も派遣労働者が対象です。派遣先が、求職者等からの相談への対応に派遣労働者が協力して事実を述べたことなどを理由に、その派遣労働者の派遣を断ることは禁止されます。
社長の言動はどうなるのか
指針2⑷には、見落とせないなお書きがあります。
性的な言動を行う者には、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)も想定されるため、これらの者による性的な言動についても必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。
読み方に注意してください。
措置義務の対象は「事業主が雇用する労働者」による言動です。事業主本人や役員は、雇用されている労働者ではありません。だから措置義務の枠外になります。
そこで指針は「努めることが望ましい」という書き方をしました。
中小企業では、社長自身が採用面接を行うことがふつうです。その場面の言動は、措置義務の対象外という整理になります。
とはいえ、法的責任がないわけではありません。不法行為責任も使用者責任も別に発生します。方針をつくるときは、役員も対象に含める書きぶりにしておくべきでしょう。
措置義務は4本柱
次回以降で扱う内容を先に示しておきます。
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| ⑴ | 方針等の明確化及びその周知・啓発(イ方針、ロ懲戒、ハ求職活動等に関するルール) |
| ⑵ | 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
| ⑶ | 事後の迅速かつ適切な対応(イ事実確認、ロ被害者配慮、ハ行為者への措置、ニ再発防止) |
| ⑷ | ⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置 |
⑴ハの「求職活動等に関するルール」が、既存のセクハラ指針にはない独自の要素です。OB訪問やインターンの運用ルールが、ここに関わってきます。
まとめ
- 求職者等セクハラは、自社の労働者による性的な言動で求職者等の求職活動等が阻害されるものです
- カスハラとは向きが逆。行為者が社内なので、懲戒規定の整備が措置義務に入ります
- 同性に対するものも含まれます。性的指向やジェンダーアイデンティティも問いません
- 「求職活動等」には、採用面接、就職説明会、OB・OG訪問、インターンシップ、教育実習・看護実習が含まれます
- SNS等のオンラインも、通常就業している場所以外も対象です
- 派遣先も事業主とみなされます。根拠は派遣法第47条の2です
- 事業主・役員自身の言動は措置義務の対象外ですが、対応に努めることが望ましいとされています
自社の社員が求職中の学生と、どこで会っているか、まずは把握しましょう。
参考資料
- 厚生労働省告示第52号「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」https://www.mhlw.go.jp/content/001662627.pdf
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」https://www.mhlw.go.jp/content/001662630.pdf
- 厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律について」(基発0611第1号・雇均発0611第1号)https://www.mhlw.go.jp/content/001502757.pdf
