フリーランスへのカスタマーハラスメント|検討条項とフリーランス法第14条の守備範囲を解説

フリーランスへのカスタマーハラスメント 労働社会保険諸法令の基礎知識
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同じ現場で、同じ客から、同じことを言われた。片方は正社員、もう片方は業務委託のフリーランス。守られ方が違います。令和8年10月1日から始まるカスハラ対策の義務は、フリーランスには及びません。ではどうなっているのか。整理します。

※以下の条番号のうち、労働施策総合推進法のものは令和8年10月1日施行後のものです。現行のe-Gov法令検索では番号が異なります。

林 利恵

Rie HAYASHI, MPH, PhD
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博士(医学)
特定社会保険労務士
東豊社労士事務所 代表
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医学研究者から社労士へ転身
労働衛生の専門知識を活かし
・就業規則作成
・メンタルヘルス対策
・両立支援
を得意としています
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措置義務が守るのは「雇用する労働者」だけ

条文を確認します。法第33条第1項(改正後。新設のため現行に対応条文はありません)は、こう定めています。

事業主は、職場において行われる顧客等の言動によりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、必要な措置を講じなければならない。

「雇用する労働者」です。業務委託で働くフリーランスは、この保護の外にいます。

以前の回で「労働者」の範囲を扱いました。正社員だけでなくパートも契約社員も含みます。派遣労働者については派遣先も事業主とみなされます。しかし、雇用関係がなければそこまでです。

フリーランス法があるのでは、という疑問

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)には、ハラスメント対策の規定があります。第14条です。

第1項は、特定業務委託事業者(発注事業者)に対して、特定受託業務従事者への次のハラスメントにより就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じることを義務づけています。

  • セクシュアルハラスメント
  • 妊娠、出産等に関するハラスメント
  • パワーハラスメント

第2項は、相談を行ったことなどを理由として、契約の解除その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。

ここに「カスハラ」は入っていません

3類型を見てください。いずれも発注事業者からフリーランスへのハラスメントです。

つまりフリーランス法第14条の守備範囲は「発注者→フリーランス」。フリーランスが仕事の現場で顧客から浴びせられる言動、つまり「顧客等→フリーランス」は対象外なのです。

誰から誰へのハラスメントかで整理すると、こうなります。

行為者被害者根拠性格
発注事業者フリーランスフリーランス法第14条義務
顧客等自社の労働者労推法第33条第1項義務
顧客等フリーランスすき間
自社の労働者他社の労働者労推法第34条第2項〜第4項努力義務

3行目が空いています。ここが今回の論点です。

改正法附則第8条の2

このすき間について、改正法は検討条項を置きました。附則第8条の2です。

政府は、特定受託事業者が受けた業務委託に係る業務において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該業務に関係を有する者の言動であって、特定受託業務従事者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、当該特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないようにするための施策について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

長いのですが、読み解くと単純です。カスハラの定義をそのままフリーランスに当てはめています。

「その業務に関係を有する者の言動」「社会通念上許容される範囲を超えたもの」「就業環境が害される」。法第33条第1項の三要素と同じ構造です。

つまり、将来的にフリーランスにも同じ枠組みを広げることが視野に入っている、と読めます。

いつになるかは決まっていません

附則には、もうひとつ検討条項があります。第8条です。こちらは「施行後5年を経過した場合」という期限が入っています。

第8条の2には、その期限がありません。労働政策審議会での検討が始まるかどうかも含めて、時期は白紙です。

指針7が現時点の答えを示しています

義務ではない。しかし、指針は何も言っていないわけではありません。

指針7は、事業主が行うことが望ましい取組として、次の2つを挙げています。

ひとつ目。方針の明確化等を行う際に、職場における自らの雇用する労働者以外の者に対する顧客等の言動についても、同様の方針を併せて示すこと。

「自らの雇用する労働者以外の者」とは、他の事業主が雇用する労働者と、個人事業主等の労働者以外の者です。

ふたつ目。これらの者からカスハラに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえ、措置義務の内容も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うよう努めること。

整理すると、3層になります。

内容性格
措置義務雇用する労働者へのカスハラ対策義務
望ましい取組労働者以外の者への方針、相談への対応望ましい
検討条項フリーランスが受けるカスハラへの施策政府の検討事項

現場は区別できません

理屈の上では3層に分かれます。しかし現場はそうなりません。

配送、建設、映像制作、システム開発。フリーランスと正社員が同じ現場に混在する業種はいくらでもあります。同じ顧客から同じことを言われて、正社員は会社が守り、フリーランスは「対象外です」と言われる。この運用は成り立たないでしょう。

だから指針7があるのだと考えれば、腑に落ちます。

方針の書き方で解決できます

よくある書きぶりがこれです。

「当社は、顧客等による当社従業員に対する迷惑行為に毅然として対応します」

これだとフリーランスも常駐業者の社員も抜けます。次のように変えてみてください。

「当社は、顧客等による当社の職場で働くすべての方に対する迷惑行為に毅然として対応します」

これで指針6⑷(他社の労働者への加害防止方針)と指針7(労働者以外の者への方針)を、まとめて満たせます。追加コストはほぼゼロです。

その前に確認すべきこと

順序を間違えないでください。指針7の話をする前に、確認すべきことがあります。

労働者性です。

契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態で判断されます。主な判断要素は次のとおりです。

  • 仕事の依頼や業務従事の指示に対して断る自由があるか
  • 業務の遂行について指揮監督を受けているか
  • 勤務場所や勤務時間に拘束があるか
  • 本人以外の者が代わりに仕事をできるか
  • 報酬が労務の対償といえるか
  • 機械や器具を自分で負担しているか、報酬の額はどうか
  • 専属性の程度はどうか

実態が労働者と評価されれば、フリーランス法ではなく労働施策総合推進法が適用されます。措置義務の対象です。

まず労働者性を確認する。それから指針7の射程を考える。この順序です。

フリーランス法の体制整備は済んでいますか

もうひとつ、確認しておきたいことがあります。

厚生労働省の公表によれば、令和6年度のフリーランス法の施行状況では、第14条(ハラスメント対策に係る体制整備義務)と第12条(募集情報の的確表示義務)の違反に関する指導等が多くなっています。

フリーランス法の就業環境整備の規定は4つあります。

内容継続的業務委託の要件
第12条募集情報の的確表示なし
第13条育児介護等と業務の両立に対する配慮6か月以上は義務、それ未満は努力義務
第14条ハラスメント対策に係る体制整備なし
第15条中途解除等の事前予告・理由開示6か月以上

第14条には期間の要件がありません。1回きりの発注でも適用されます。

フリーランスへのカスハラを心配する前に、こちらの体制整備が終わっているかを確認してください。

まとめ

  • カスハラの措置義務が守るのは「雇用する労働者」です。フリーランスは対象外です
  • フリーランス法第14条は「発注者→フリーランス」のハラスメントが対象で、カスハラは含みません
  • 改正法附則第8条の2は、フリーランスが受けるカスハラへの施策を政府の検討事項としています
  • 附則第8条と違い、こちらには期限の定めがありません
  • 指針7は、労働者以外の者への言動についても同様の方針を示すことを望ましいとしています
  • 方針を「当社の職場で働くすべての方」と書けば、追加コストなく推奨を満たせます
  • 業務委託契約でも実態が労働者なら措置義務の対象です。労働者性の確認が先です

自社の職場にいるフリーランスや常駐業者の方に、相談窓口は案内されているでしょうか。

参考資料