就業規則が無いとできない7つのこと

就業規則が無いとできない7つのこと ルール作り

ある会社からの質問です。

うちの会社、社員10人未満ですが、就業規則が無いと何が困るのですか?

転勤、懲戒、残業、振替休日、休業手当、賃金控除などは、就業規則に規定が無いと、労使トラブルが起こった時に会社が不利になります。

この記事では、就業規則が無いとできない7つのことを簡単にわかりやすく解説します。

著者プロフィール
林 利恵
林 利恵
Rie HAYASHI, MPH, PhD

博士(医学)
特定社会保険労務士
ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー

東豊社労士事務所 代表
株式会社東豊経営 代表取締役

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就業規則が無いとできない7つのこと

【1】人事異動・配転ができない

人事異動・配転とは出張、転勤、出向・転籍、昇進・降格等をいいます。
長期雇用を前提とする正社員については、人事権(会社が労働者を人事異動する権利)について会社の裁量が広く認められています。
しかし、就業規則や個別の雇用契約書に人事異動・配転に関する記載が無い場合、その社員の同意が得られないと人事異動・配転が難しくなります。

また、会社の人事権が広く認められているとはいえ、濫用すると無効になります。
例えば、人事異動・配転が濫用になるのは次の3つのいずれか当てはまる場合です(最高裁判決 昭61.7.14 東亜ペイント事件)。

  1. 業務上の必要性が無い配転
  2. 不当な動機・目的で行われた配転
  3. 通常受け入れるべき程度を著しく超える不利益を与える配転

上記濫用に当てはまらない人事異動であっても、社員が人事異動・配転を拒否した場合に、就業規則に条項が無いと、労働トラブルが起こった場合、会社にとって不利になることが考えられます。

【2】懲戒処分ができない

会社が労働者に懲戒処分をするには、予め就業規則に「○○をしたら、××の処分をします。」等の「懲戒規定」を定めておかなければなりません。

雇用契約書に書いておけばOKですか?

たしかに、就業規則が無くても、雇用契約書に明記していれば、懲戒処分はできないことは無いのですが、一般的な雇用契約書のひな型で懲戒の定めまで具体的に書いているものは少ないと思います。

懲戒処分とセットで設けておきたい規定は「服務規定」です。

「服務規定」で労働者全員が知っておくべき職場のルールを個別具体的に記述し、服務に違反すれば、懲戒処分するという流れになります。

「懲戒規定」は会社のルールを破らないための抑止力になります。

会社のルールを破った社員に対しては、懲戒処分を可能にする、その根拠となる大切な規定です。

別記事でテレワーク(在宅勤務)を行う社員が在宅で副業を行う場合に労務管理で気を付けるべきことについて解説しました。

就業規則(テレワーク規程・在宅勤務規程など)があれば、当社の在宅勤務時間中に勝手に副業の在宅ワークをすることを服務規程で禁止し、もし違反行為があれば懲戒処分するということが可能になります。

【3】残業や休日出勤をさせられない

法定労働時間(原則 1日8時間、週40時間)を超えるような残業(時間外労働)や休日労働、そして22時~翌5時の深夜労働は、次の2つの要件を満たすことで法律を守ることになります。

  1. 36協定の締結
  2. 割増賃金の支払い

残業(時間外労働)や休日労働そして深夜労働がある労働者に対しては、業務命令としての根拠を明らかにするため、雇用契約書及び就業規則への定めが必要です。

【4】振替休日や代休を与えられない

業務の都合で休日に働かせることになった場合、通常は休日労働になり、休日割増賃金(1.35倍)を支払うことになります。

休日の振替

しかし、予めその休日に働かせることが明らかで、なおかつ別の日に休日を設けることができれば、「休日の振替」ができます。そして、もともと休日であった日の賃金は通常の賃金(1倍)の支払でよいのです。

その休日の振替には行政通達で次の3つの要件が決められています(昭23.4.19基収1397号、昭63.3.14基発150号)。

  1. 就業規則で業務上必要な場合、休日を振り替えることができる旨を定めておくこと
  2. 休日を振り替える前に、あらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替え手続きを行うこと
  3. 休日振り替えによっても、法定休日(週1日あるいは4週4日)が確保されていること

このように、就業規則に根拠がなければ振替休日を与えることができません。

振替休日にするには、事前に振り替え手続きを行うことがポイントです。

代休

振替休日とよく混同するのが代休です。代休とは、休日出勤の代わりに事後に休日を与えることです。代休制度を設ける場合は、就業規則に根拠規定を作らなければなりません。

休日労働(1.35倍)した後に代休(1倍)を取っても、休日割増賃金(0.35倍)は支払わなければなりません。

【5】賃金から控除(天引き)ができない

法令に定めのある下記の項目については、就業規則に定めが無くても控除できます。

【法定の項目】

  • 源泉所得税
  • 住民税
  • 健康保険料および厚生年金保険料の被保険者負担分
  • 雇用保険料の被保険者負担分
  • 介護保険料の被保険者負担分  など

しかし、次のような法定外の項目については、原則として賃金から控除できません。

【法定の項目】

  • 会社が社員に貸し付けたお金の返済分
  • 会社が立て替えたお金の返済分、
  • 賃金過払い分  など

法定外の項目を賃金から控除するためには、次の2つの要件が必要です。

  • 労使協定(賃金控除協定書)に定める
  • 就業規則あるいは雇用契約書に定める

また、日割り計算のルールについても定めましょう。

【6】休業手当を平均賃金の6割に留めることができない

休業手当とは、会社の都合による休業の場合、休業期間中、労働者に平均賃金の6割以上の手当のことです(労働基準法第26条)。

ポイントは「6割以上」というところです。

就業規則や雇用契約書で「休業手当は平均賃金の6割である」と明記しておかなければ、6割以上の支払もあり得るのです。

【7】一部の雇用関係助成金の申請ができない

雇用関係助成金は様々な雇用管理の改善を行う上で、実質的に負担する費用を軽減する効果があります。

例えば、何らかの制度の導入が要件に含まれる助成金では、支給申請の時に就業規則の添付を必要とすることが多いです。

むすび

就業規則の代わりに雇用契約書で代用できることもありますが、実務上、雇用契約書にそこまでたくさんの記述をすることは難しいと思います。

労働者数が10人未満であっても、会社の基本的な労働条件を就業規則に明記するのが望ましいですね。

テレワークに関するルール(テレワーク規程・在宅勤務規程など)は就業規則の一部です。一般的には就業規則がある前提で、テレワーク規程を作ります。