両立支援等助成金 柔軟な働き方制度等支援コースのまとめ(令和6年度)

両立支援等助成金柔軟な働き方制度等支援コースのまとめ 実質費用負担の軽減

労働者の円滑な育児休業の取得と復帰のために、両立支援等助成金育児休業等支援コース(育休取得時/職場復帰時)をご活用された中小企業事業主も多いかと思います。

令和6年度の両立支援等助成金では、育児を行う労働者の柔軟な働き方を可能とする制度を複数導入し、制度を利用した労働者に対する支援を行った場合に助成する「柔軟な働き方制度等支援コース」が新設されました。

本コースでは、育児を行う労働者の柔軟な働き方を可能とする制度(柔軟な働き方選択制度等)について、2つ以上の制度を導入し、制度利用者支援の取組を行った上で、労働者がそのうち1つの制度を利用した場合に助成金を支給します。

両立支援等助成金支給申請の手引き(2024年度版)

令和5年度の両立支援等助成金の育児休業等支援コース(職場復帰後支援)では、次の2つの制度が対象でした。

  • 子の看護休暇制度
  • 保育サービス費用補助制度

令和6年度の両立支援等助成金の柔軟な働き方制度等支援コースでは対象となる制度が5つに増えました。

  • フレックスタイム制度、時差出勤制度
  • テレワーク制度
  • 短時間勤務制度
  • 保育サービスの手配及び費用補助制度
  • 子の養育を容易にするための休暇制度、子の看護休暇制度

支給要件や申請方法などの詳細は、厚生労働省ホームページに公表の最新情報を確認するとして、本記事執筆時点で、この新しい助成金についてポイントをまとめてみました。

著者プロフィール
林 利恵
林 利恵
Rie HAYASHI, MPH, PhD

博士(医学)
特定社会保険労務士
ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー

東豊社労士事務所 代表
株式会社東豊経営 代表取締役

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支給額

支給額(制度利用者1人あたり)支給額支給人数/回数
導入した制度の数に応じ、以下の額を支給
・制度を2つ導入し、対象労働者が制度を利用した場合20万円
・制度を3つ以上導入し、対象労働者が制度を利用した場合25万円
1事業主・1年度(4/1~3/31)につき5人まで

対象となる制度

下表の①~⑤のうち2つ以上の制度を導入する必要があります。
  • ①(ⅰ)(ⅱ)の2つ、または⑤(ⅰ)(ⅱ)の2つを導入した場合は、1つの制度扱い
  • 制度利用開始日までに就業規則または労働協約に定める、労働者へ周知する
  • 子が3歳以降小学校就学前までの労働者が利用できる制度とする
制度の名称制度の内容
①(ⅰ)フレックスタイム制度次のすべてを満たす制度
・始業および終業の時刻は労働者の自主的決定に委ねる
・清算期間における所定労働時間を短縮せず利用
①(ⅱ)時差出勤制度次のすべてを満たす制度
・1日の所定労働時間を変更しない
・始業or終業時刻の1時間以上の繰上げor繰下げ
②育児のためのテレワーク等次のすべてを満たす制度
・週or月あたりの勤務日の半数以上利用できること
所定労働時間を変更しない
・時間単位で実施できること
・実施場所は自宅(事業主が認める場合サテライトオフィスなども可)
③短時間勤務制度・1日の所定労働時間を平均1時間以上短縮する
・所定労働時間の短縮の方法は結構柔軟である(手引きP145を参照)
<注意:支給対象とならないケース>
・始業・終業時刻の特定ができない
・始業・終業時刻の決定方法の定めがない
・1日の所定労働時間は短縮されても、週・月の所定労働日数が増えたことで、結局平均1時間以上短縮されていない場合
④保育サービスの手配及び費用補助次のすべてを満たす制度
・所定労働時間を変更しない
保育サービスの「手配」「費用の全部または一部補助
⑤(ⅰ)子の養育を容易にするための休暇制度次のすべてを満たす制度
有給休暇(年次有給休暇と同等の額)
・1年度あたり10労働日以上付与
・時間単位で取得可能(時間未満もOK)
・中抜け可能な制度
・所定労働時間を変更しない
・年次有給休暇、子の看護休暇とは別の休暇制度
⑤(ⅱ)法を上回る子の看護休暇制度次のすべてを満たす制度
有給休暇(年次有給休暇と同等の額)
・1年度あたり10労働日以上付与
・時間単位で取得可能(時間未満もOK)
・中抜け可能な制度
・所定労働時間を変更しない
・年次有給休暇とは別の休暇制度
課題:1日の所定労働時間が定まっていないシフト勤務の短時間労働者

たとえば、1日の所定労働時間が不定のシフト勤務の短時間労働者)の場合、本人が希望するシフトで調整できてしまう面がありますので、労働条件通知書などで、週や月の所定労働時間を明確に定めていないと、制度導入前の所定労働時間を明確にすることが難しいかもしれないです。

利用実績の基準

④と⑤は前年度に似たような助成金がありましたので、今回新たに拡充された①~③をメインにまとめます。

制度の名称利用実績の基準
①(ⅰ)フレックスタイム制度所定労働日ベースで合計20日間以上
<注意>プラン策定日時点でフレックスタイム制が適用される場合は助成金の対象外となる。育児目的利用であること。
①(ⅱ)時差出勤制度始業・終業時刻の1時間以上の繰上げ・繰下げ実績が合計20日間以上
<注意>繰上げしても30分以上の所定外残業がある日実績に含めない。繰下げしても30分以上の早出出勤がある日実績に含めない。
②育児のためのテレワーク等所定労働日ベースで合計20日間以上
<注意>制度利用開始前の1か月間において、通算5回以上また又は所定労働日数の2割以上の期間のテレワーク等を行っている場合は対象外。勤務実態が業務日報などで確認できること。育児目的利用であること。
③短時間勤務制度所定労働日ベースで合計20日間以上
<注意>短縮後の所定労働時間について、始業時刻の30分以上前に出勤した日は実績に含めない。終業時刻の30分以上後に退勤した日は実績に含めない。時給換算で制度利用前の時給を下回らない。
制度利用開始日前1か月において、対象労働者が短時間勤務制度を利用していないこと(別の子について再度制度を利用する場合を除きます)。
無期雇用からそれ以外の雇用形態への変更は本人希望であったとしても助成金の対象外
④保育サービスの手配及び費用補助手引きP152を参照
⑤(ⅰ)子の養育を容易にするための休暇制度手引きP152を参照
⑤(ⅱ)法を上回る子の看護休暇制度手引きP152を参照

複数制度の同時利用

  • 対象制度利用者が、同一の子を対象に育児に係る柔軟な働き方支援プランに基づいて「柔軟な働き方選択制度等」のうちの1つを利用しており、制度の利用実績が下記の表に記載した基準を満たしている必要があります。
  • 当該制度利用開始日(※)から起算して6か月以内に利用した実績が対象となります。複数の制度の利用があっても、利用実績を合算することはできません(①(i)と(ⅱ)、⑤(i)と(ⅱ)も合算できません)
両立支援等助成金支給申請の手引き(2024年度版)

複数制度を同時利用しても合算できないそうです。

つまり、②テレワーク10日しました、テレワークとは別の日に③短時間勤務を10日しました、合計20日間で助成金申請できますか? → 合算できませんので、助成金申請はできません。

では、②テレワークと③短時間勤務の同時利用で20日利用しました、という場合はどうなるのでしょうか?

この点については、現時点(2024/4/17)で手引きにも支給要領にも明確に示されていませんので、今後のQ&Aなどを待つことになりそうです。この助成金を狙っている方は、しばらくは様子を見つつ、手引きや支給要領で分かる範囲で、必要な制度を整備するとよさそうです。

支給申請までの流れ

支給申請までの流れ
  • Step 1
    柔軟な働き方選択制度等を就業規則等に規定(手引きの規定例を参考に)
    • 制度を2つ以上導入
    • 対象制度利用者の子の年齢を定める(3歳に満たない子も対象にするなら忘れずに規定)
    • 育児に係る柔軟な働き方支援プラン」により次の2点を円滑にすることを支援する方針を明記
      ・柔軟な働き方に関する制度の利用
      ・制度利用後のキャリア形成
    • 制度利用開始日の前日までに労働者への周知を行う
  • Step 2
    プラン作成のための面談(制度利用開始日の前日までに行う)
    • 上司または人事労務担当者が面談を行う
    • 対面だけではなく、電話、メールでもOK
    • 面談シート(【選】様式第2号)に記録する
  • Step 3
    プランの作成(制度利用開始日の前日までに行う)
    • 育児に係る柔軟な働き方プラン(【選】様式第3号)を作成する
    • プランには次の2点を必ず記載する
      ・制度利用者の利用期間中の業務体制の検討に関する取組
      ・制度利用後のキャリア形成を円滑にするための措置
  • Step 4
    プランに基づく円滑な制度利用の支援
  • Step 5
    制度の利用(開始日から6か月間)
    制度の名称制度利用開始日
    ①(ⅰ)フレックスタイム制度本人の申出による利用開始日
    ①(ⅱ)時差出勤制度本人の申出による利用開始日
    ②育児のためのテレワーク等プラン策定後、初回の利用日
    ③短時間勤務制度本人の申出による利用開始日
    ④保育サービスの手配及び費用補助プラン策定後、初回の利用日
    ⑤(ⅰ)子の養育を容易にするための休暇制度プラン策定後、初回の利用日
    ⑤(ⅱ)法を上回る子の看護休暇制度プラン策定後、初回の利用日
    • 制度利用申出書が必要 さらに制度に応じて次の書類が必要
      ・②の場合、テレワーク申出書及び実施報告書
      ・③の場合、短時間勤務の時給が制度利用前と比べて下がっていないことが確認できる書類
      ・④の場合、サービスの利用実績が分かる書類及び利用者に費用補助したことが分かる書類
      ・⑤(ⅰ)の場合、休暇制度の取得申出書及び取得実績が確認できる書類(出勤簿など)
  • Step 7
    支給申請

    申請期間:6か月間の制度利用期間の翌日から2か月以内

まとめ

今回は両立支援等助成金に新設された柔軟な働き方制度等支援コースについてポイントを整理しました。

この助成金は、育児期の柔軟な働き方に関する制度(柔軟な働き方選択制度等)を複数導入した上で、「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」に基づき、制度利用者を支援した中小企業事業主に支給するものです。

主な要件は次の通りです。

  • 一定基準を満たす「柔軟な働き方選択制度等」から2つ以上を導入
  • 柔軟な働き方選択制度等の利用について、プラン作成による支援を実施する方針を就業規則等で社内に周知
  • 労働者との面談を実施し、本人の希望等を確認・結果記録の上、業務体制の検討や制度利用後のキャリア形成円滑化のための措置を盛り込んだプランを作成
  • 制度利用開始から6か月間の間に、対象労働者が柔軟な働き方選択制度等を一定基準以上利用

今年度から始まった新しい助成金ですので、詳細がまだよくわからないところがありますが、今後、厚生労働省HPなどからQ&Aなどの情報が更新されることを待ちたいところです。