令和6年3月29日に厚生労働省は「求職者等への職場情報提供に当たっての手引き(以下本記事において「手引き」といいます)」を策定しました。
現行の労働関係法令等の定めによる開示項目だけではなく、義務ではありませんが求職者が求める情報を開示することにより、求職者と企業等とのマッチングを促進する狙いです。
「手引き」より、職場情報は、次の3種類に大別されると考えます。1つ目の「労働者の募集にあたって開示・提供する必要があるもの」につきましては、過去記事で解説しました。
今回の記事では、2つ目の「労働者の募集の有無にかかわらず定期的な公表が求められるものまたは公表することが望ましいとされているもの」について解説いたします。
- 労働者の募集にあたって開示・提供する必要があるもの
- 労働者の募集の有無にかかわらず定期的な公表が求められるものまたは公表することが望ましいとされているもの
- 資本市場において企業等が提供する非財務情報(人的資本関係)
2つ目と3つ目の項目に関しては、求職者だけではなく、自社社員・経営者・労働組合・株主・顧客等のステークホルダーにも向けて、社内環境が他社やベンチマークとなる指標との比較や、自社内の取組の改善状況など過去との比較が可能な情報を公表することが望まれています。これらの情報開示は企業価値の向上につながる取り組みであると考えます。
定期的な公表が求められるまたは公表することが望ましい情報
法令により開示・提供義務のある職場情報
常時雇用する労働者の数が100人を超える事業主
開示区分 | 開示内容 |
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一般事業主行動計画(次世代法) | ・計画期間 ・次世代育成支援対策の実施により達成しようとする目標 ・対策内容及びその実施時期 |
一般事業主行動計画(女性活躍) | ・計画期間 ・数値目標 ・取組内容 ・取組の実施時期 |
① 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績(9項目) ② 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績(7項目) | アンダーラインの項目が比較的開示しやすいのではないでしょうか? ①と②を合わせた16項目から任意の1項目以上 ・採用した労働者に占める女性労働者の割合 ・男女別の採用における競争倍率 ・労働者に占める女性労働者の割合 ・係長級にある者に占める女性労働者の割合 ・管理職に占める女性労働者の割合 ・役員に占める女性労働者の割合 ・男女別の職種または雇用形態の転換実績 ・男女別の再雇用または中途採用の実績 ・男女の賃金の差異 ・男女の平均勤続勤務年数の差異 ・10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合 ・男女別の育児休業取得率 ・労働者の1月あたりの平均残業時間 ・雇用管理区分ごとの労働者の1月あたりの平均残業時間 ・有給休暇取得率 ・雇用管理区分ごとの有給休暇取得率 |
常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主
開示区分 | 開示内容 |
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直近3事業年度の中途採用比率 | 正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合 |
①-1 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績(8項目) ①-2 男女の賃金の差異(①に含まれる項目) ② 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績(7項目) | アンダーラインの項目が比較的開示しやすいのではないでしょうか?(①-2は必須です) ①-1 8項目から任意の1項目以上 ・採用した労働者に占める女性労働者の割合 ・男女別の採用における競争倍率 ・労働者に占める女性労働者の割合 ・係長級にある者に占める女性労働者の割合 ・管理職に占める女性労働者の割合 ・役員に占める女性労働者の割合 ・男女別の職種または雇用形態の転換実績 ・男女別の再雇用または中途採用の実績 ①-2 ・男女の賃金の差異(必須項目) ② 7項目から任意の1項目以上 ・男女の平均勤続勤務年数の差異 ・10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合 ・男女別の育児休業取得率 ・労働者の1月あたりの平均残業時間 ・雇用管理区分ごとの労働者の1月あたりの平均残業時間 ・有給休暇取得率 ・雇用管理区分ごとの有給休暇取得率 |
常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主
開示区分 | 開示内容 |
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育児休業の取得の状況 | 男性の育児休業等の取得率または男性の育児休業等及び育児目的休暇の取得率 |
特例認定事業主(プラチナくるみん認定事業主)
開示区分 | 開示内容 |
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次世代育成支援対策の実施状況 (一般事業主行動計画の策定・届出の免除の代わりとして少なくとも年1回公表が必要) | ・育児休業等をした男性労働者の割合・育児目的休暇制度の具体的内容 ・育児休業等をした女性労働者の割合・短時間勤務制度等の措置の内容 ・フルタイム労働者1人当たりの法定時間外労働・法定休日労働の合計時間数 ・1か月当たり法定時間外労働が60時間以上の労働者数 ・所定外労働削減のための措置等・女性労働者数の割合 ・育児を行う女性労働者等の活躍に向けたキャリア形成支援等のための取組に係る計画 |
指針・ガイドラインにより開示・提供が望まれる職場情報
開示区分 | 開示内容 |
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自発的な職業能力の開発・向上の促進措置の状況 | ・職務等の内容およびその遂行に必要な職業能力に関する情報 ・労働者の配置に係る基本的方針およびその運用状況に関する情報 ・人材育成に係る基本的方針およびこれに基づき行う職業訓練、職業能力検定等に関する情報 |
副業・兼業 | ・副業や兼業を許容しているか否か ・条件付き許容の場合はその条件 |
一般への職場情報の公表
厚生労働省の情報開示 3つのサイト
前述しました過去記事では、「労働者の募集にあたって開示・提供する必要があるもの」の開示方法として「ハローワークインターネットサービス」を用いた求職者への職場情報の開示について解説しました。
この記事では、「労働者の募集の有無にかかわらず定期的な公表が求められるものまたは公表することが望ましいとされているもの」の開示方法として、厚生労働省の情報開示のウェブサイトをご紹介いたします。
これらのウェブサイトに貴社の情報を登録して頂くことにより、一般への職場情報が公表できるようになります。
公表義務が無い規模の企業様におかれましても、助成金の要件に当てはまることがありますので、積極的に職場情報の開示場所としてご活用頂くことをお勧めします。
各サイトへの登録について、詳細は下記のサイトのリンク先をご参照ください。
しょくばらぼ -職場情報総合サイト-
「しょくばらぼ」とは企業の職場情報を総合的に比較・確認できる厚生労働省のウェブサイトです。
企業の立場から
企業が「しょくばらぼ」に職場情報を開示することにより、対外的には企業のPRを図るとともに、社内的には雇用管理の自主的な改善を図ることができます。
求職者の立場から
求職者は、自分のライフスタイルや希望条件にあった企業を選ぶために、「しょくばらぼ」を利用します。
- 雇用管理の改善に積極的な企業を検索
- 関心・興味のある企業の職場情報を収集
- 様々な分野の職場情報をワンストップに収集
- 企業間の情報を横断的に検索・比較ができる
企業・求職者 共通のメリット
「しょくばらぼ」を活用することにより、企業と求職者とのより良いマッチングが実現できると考えられます。
「しょくばらぼ」への掲載条件
上記の厚生労働省の情報開示3つのサイトのいずれかに職場情報(法人番号は必須)が掲載されている必要があります。これらの各サイトから公表データが「しょくばらぼ」に転載されます。
「しょくばらぼ」の使い方は、しょくばらぼの「企業の方向け利用方法」をご参照ください。
むすび
法令にさだめられた情報開示の次のステップとして、一般への職場情報開示について解説しました。
いきなりすべての情報を開示することは難しいという方も、まずは社内でこれらの情報をまとめて、貴社の雇用管理の改善につなげて頂ければと思います。
当事務所では労務顧問サービスで月1回2時間のオンライン面談で、職場情報の開示、数値データの集計・算出の方法の指導も行っております。
どうぞお気軽にご相談ください。